2003年3月11日(火)「しんぶん赤旗」
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【ワシントン9日浜谷浩司】ブッシュ米政権は、国連安保理で今月十七日までの期限付きで対イラク武力行使に道を開く決議案を十一日あるいは週内にも採決に持ち込む構えで、これを前に決議案への支持を求めて米政府高官が援助の提供などをからめた外交工作を展開しています。
安保理事国で決議案への態度を明らかにしていないのはチリ、メキシコ、パキスタン、アンゴラ、カメルーン、ギニアの六カ国です。
ブッシュ大統領は八日、チリのラゴス大統領に電話をかけ支持を要請しました。しかしラゴス大統領は、同決議案がイラクの全面武装解除の期限を十七日としたことについて、期間が「短すぎる」とし、査察にもっと時間を与えるべきだと主張しました。
メキシコをはじめ他の非常任理事国と緊密な協議を重ねているチリのバルデス国連大使も、同決議案を「よいものでない」と批判しました。これらの国々の間では平和解決の道は尽きていないとの見方が強く、米側の必死の工作にもかかわらず、決議案への支持が一挙に広がる様相はみられません。
パウエル米国務長官は九日、NBCのインタビューで、多くの理事国との協議を通じて「励まされた」と述べ、「決議採択に必要な九ないし十カ国の支持を得られるのではないか」と述べました。しかし、結果が出るまでは「分からない」と再三述べ、困難な見通しをのぞかせています。
これまで決議案に支持を表明しているのは米英スペインに加えブルガリアのみ。これにたいし常任理事国の仏ロ中三国に加え独とシリアが反対を明確にしています。決議の採択には最低九カ国の支持と常任理事国が拒否権を行使しないことが条件。米政府は九カ国の支持を固めれば拒否権を封じ込められるとみているとされます。同時にブッシュ大統領は「米国の安全保障に国連の承認も誰の認可も必要ない」(六日の記者会見)と再三強調。決議に支持が得られないときは単独で武力行使に踏み切る構え。ブッシュ大統領はイラクおよび中東全体の「民主化」のために軍事攻撃をおこなう立場も表明。国連憲章と国際法に違反する違法な攻撃を強行する意図を明確にしています。
【パリ10日浅田信幸】イラクへの早期武力行使に道を開く米英決議案に強く反対しているフランスのドビルパン外相は九日、アフリカの安保理非常任理事国三カ国の歴訪に出発しました。米英の新決議案が早ければ十一日にも採決に付される緊迫した情勢のもと、新決議の採択を阻むための説得が目的です。
ドビルパン外相が訪問するアンゴラ、カメルーン、ギニアの三カ国は、これまでアフリカ連合や非同盟諸国首脳会議を通じて原則的にはイラク問題の平和的解決支持の立場を表明しています。
しかし、経済協力や援助をからめた米国の説得工作を受けて、新決議案については明確な態度表明を行っておらず、採択可否のカギをにぎる国として注目されています。
【北京10日小寺松雄】中国の江沢民国家主席は九日午後、イギリスのブレア首相とイラク問題について電話で意見を交換しました。
中国国営新華社通信によると、ブレア首相が「イラクが国連に全面協力しているという証拠はない。国連はさらなる措置をとるべきだ」と述べたのに対し、江主席は査察の進展を主張し、武力行使に反対する態度を表明しました。
江主席は「七日のブリクス、エルバラダイ両報告は査察の進展を示している。査察を継続・強化してこそ国連の枠内での政治的解決が可能だ」「世界の問題は武力に頼るだけでは解決できない。戦争はだれにとってもよくない。政治解決は少し時間がかかるが代価は小さく、だれの利益にもかなう」と述べ、安保理の米英決議案に反対を表明しました。
【パリ10日浅田信幸】欧州では圧倒的な戦争反対の世論を背景に、著名人や専門家の戦争反対発言が続いています。
ドイツのノーベル賞作家ギュンター・グラス氏、英国のメアリー・カルドー・ロンドン大学経済学部教授、イタリアのノーベル賞受賞者リタ・レビ・モンタルチーニ氏ら六カ国の著名人、十二人は、八日付の仏紙ルモンドにシラク仏大統領あての公開書簡を発表。対イラク戦争が南北関係や中東問題に深刻な影響を及ぼし、「国際法と国連を弱体化させる」とし、「必要となれば拒否権を行使して平和を支持する行動を続けてほしい」と同大統領にエールを送りました。
また先週末には、英仏の国際法学者十六人が決議なしの戦争は「国際法違反」とする書簡を公表。政府が無条件の対米追随姿勢をとるスペインでも、国際法学者ら二百九十人が、安保理決議を経ずに「イラクにたいして武力を行使する国は国際法に背く」との声明を発表しています。