2003年3月12日(水)「しんぶん赤旗」
イラク情勢の緊迫化は、すでに経済を直撃しつつあります。東京市場の株価急落、懸念される原油高騰の影響、戦費負担の重圧……悲鳴を上げる経済も、平和的解決を求めるシグナルを送っています。
東京株式市場の株価下落が止まりません。十一日には、日経平均株価が終値で七九〇〇円を割り込み、“株価底割れ”とも指摘されるような厳しい状況になっています。
アメリカによるイラク戦争の懸念が強まり、株から資金を引き上げる外国人や国内の個人投資家の動きが連日のバブル後最安値更新の要因になっています。
市場関係者も「米英が国際世論を無視する形でイラクへの軍事行動に踏み切れば、一段と株が売られる可能性が強い」(三浦豊・新光証券エクイティ情報部課長)と強い警戒感を示しています。
しかし、株価急落をもたらしているのは「イラク情勢」だけではありません。年明け以降、小泉内閣の経済失政のもとで鮮明になってきた個人消費の冷え込み、消費者心理の落ち込みが景気のさらなる悪化につながり、実体経済への先行き懸念が株の売り材料になっています。
実際、家計調査(総務省)でみた全世帯の消費支出は三カ月連続して前年を下回り、完全失業率は過去最悪水準、所得の減少も続いています。
中小企業の倒産、それに失業を激増させた不良債権処理の加速をはじめとした小泉内閣の「構造改革」路線が行き詰まり、破たんをきたしていることを反映した株価急落といってもいいすぎではないでしょう。
かつては小泉首相とその内閣を天まで持ち上げた株式市場・関係者も、小泉・竹中流経済運営に不信感を強めています。そこへイラク情勢の緊迫化という強烈な株売り要因が加わった現在の状況下では、「まったく先が見えない」(市場関係者)という悲鳴に近い声が聞かれるのも当然といえそうです。
イラク情勢の緊迫化により、世界の原油市況の指標になっているニューヨーク商品取引所(NYMEX)の原油先物価格は十日、一バレル=三七・二七ドルで終了しました。湾岸戦争以来の高水準が続いています。
原油価格の高騰は、世界経済に重大な影響を及ぼします。十日、スイスのバーゼルで開かれた国際決済銀行(BIS)定例中央銀行総裁会議では、世界経済の動向について「(イラク情勢の緊迫化などに伴う)原油価格上昇が景気回復にブレーキをかける恐れがある」との認識で一致しました。
日本の石油元売り各社は、原油価格の上昇を受け、ガソリンなどの石油製品の卸価格を引き上げています。三月出荷分では、値上げ幅は新日本石油で一g当たり二円八十銭の値上げ。コスモ石油、出光興産、ジャパンエナジーは、それぞれ二円の値上げです。
イラク危機は、運輸業にも影響をあたえています。日本航空システムでは、「二月の旅客数は、対前年同月を下回る傾向がみられ、イラク問題で旅行を手控えている可能性がある」(広報部)と指摘します。「イラク戦争ということになれば、観光需要が減退し出張も手控えられます。また、原油の値上げは燃料コストの上昇につながり、航空会社にとっては、極めて大きな問題」と懸念を表明します。
巨額のイラク戦費は、世界経済の重しになります。米国のノードハウス教授によると、イラク戦争が最悪の事態になった場合、直接的軍事費は千四百億ドル(約十六兆二千億円)に達し、戦後の占領や復興も含めた全費用は一・九兆ドル(約二百二十三兆円)かかるとしています。
日本の戦費負担問題については、政府・与党から否定する発言が相次いでいます。ただ、小泉純一郎首相は「国際平和のためにも、あるいは、中東地域の安定のためにも応分の役割を果たさなければならない」(二月二十四日の衆院予算委員会)とものべています。
日本経団連の奥田碩会長は、日本の資金支援問題について「(米国から)要求があれば日本としては、受けざるを得ないだろうと個人的には思っている」と指摘しています。日本が戦費を負担することがあれば、日本の財政破たんをさらに深刻化させ、国民生活に犠牲を強いることになります。