日本共産党

2003年3月15日(土)「しんぶん赤旗」

緊迫するイラク情勢をどうみるか

CS放送朝日ニュースター

市田書記局長語る


 日本共産党の市田忠義書記局長は十三日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演しました。緊迫するイラク情勢について語った部分(大要)は次の通りです。聞き手は高久陽男(たかく・あきお)朝日新聞政治部記者でした。


査察継続による平和的解決を世界の国々でも圧倒的な声に

 高久 まず、世界が注目しているイラクの問題ですが、いまの国連安保理を中心にした動きをどうごらんになっているか、その辺からお話を伺いたいと思います。

 市田 今度の問題で一番大きな焦点−何が問われているかというと、査察の継続による問題の平和的解決を図るのか、査察をやめて戦争、武力行使に訴えるかのどちらの道を選ぶかが鋭く問われていると思います。

 安保理や世界の多くの国々も、国連の枠組みでの査察継続による平和的解決を望む声が圧倒的だと思うんです。この流れにこそ道理があるわけです。今後の事態は予断を許しませんが、そういう流れに日本政府もくみしていく必要があるのに、逆の方向にいっている。世界で孤立し、ただアメリカに付き従うという哀れな恥ずべき外交路線をとっている。これを正していく必要があると思います。

 高久 安保理を舞台にした米英の動きについてどう見ますか。

 市田 いまアメリカなどがやろうとしていることはだれが考えても国連憲章、国際的なルールを無視したやり方ですから、国連安保理の全体の動向、各国の事情を見ると−イギリスの場合、新しい安保理決議なしに武力行使するなら辞任するという女性閣僚も生まれてきましたね。アメリカ国内でも外交官が相次いでブッシュ政権に抗議し辞職するという流れも起きています。そういう理性と平和の流れの前に、(戦争で)共同していた国の間でも矛盾が生まれたということではないでしょうか。

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朝日ニュースターで朝日新聞高久陽男政治部記者の質問に答える市田忠義書記局長

 三月七日の査察団の追加報告の特徴は、査察が効果をあげている、確かにイラクはまだまだ協力が完全でないが、自発的で積極的に(なっている)−ブリクス委員長は「歓迎する」とまでのべているわけですね。イラクの完全な全面的な協力があっても「あと数カ月は査察継続が必要だ」とのべ、弾道ミサイルなどの廃棄もやったと(報告しています)。

 それから、安保理の一二八四決議というのがあって、これはイラクに対しどういう武力解除、武力解体を求めるかというプログラムですね。それを三月末までに提出するといっており“査察に効果があって引き続き継続させる必要がある”というのが査察団の報告だったと思うんです。

 それに対して(米英などの修正決議案は)「もう待てない、三月十七日だ」と。数カ月かかるのを十日でやれと無理難題を押しつけ、結局査察を打ち切って平和解決の道を閉ざし武力行使に道を開くやり方ですから、矛盾に逢着(ほうちゃく)するのは当然です。

一方的武力行使は世界をノン・ルールの無法地帯に

 市田 私が怒りを禁じ得ないのは、ブッシュ大統領が七日の査察報告前日の会見で“査察の継続強化は不要だ”といったことです。たとえ新決議が採択されなくても、アメリカはイラク攻撃をやるんだといいました。しかも目的が「フセイン政権打倒」と「中東の民主化」ということまでいったわけです。

 そうするとアメリカの目的は、大量破壊兵器をなくすことではなくて、実はフセイン政権の打倒にあったのかということになります。世界が大量破壊兵器をなくそうと一致結束しているのに、目的が別にあったと(いうことになる)。米国はイラクから攻撃されているわけでもない、侵略を受けたわけでもない、ただ(イラクが)大量破壊兵器を持っている「疑いがある」というだけです。疑いがあるだけで一方的に武力行使することになると、国連憲章、国際ルールを根本から踏みにじるものになり、世界をノン・ルールの無法地帯と化してしまうのではないか。

 そういう問題をはらんでいるから、歴史上かつてない規模の反戦運動が起こっているのではないか。米英の矛盾も無法で不当な戦争をやろうとしていることから生じています。

戦争反対の声をあげる背景に、無法で不当な戦争で市民を犠牲にしてはならないという思いが

 高久 米国は、フセイン政権の大量破壊兵器がテロ組織に渡されてテロ行為が行われ攻撃されるかもしれない、そういう状況で先制攻撃も可能だという理屈です。テロは根絶しなければならない、戦争はなるべくやりたくないというなかで難しい選択だと思いますが、テロとの関係をどうごらんになりますか。

 市田 どういう目的、背景があろうとテロは絶対にやってはならないと考えます。ただ、イラクと9・11のテロをやった犯人、集団との関係については、アメリカも証拠を出せず証明できないわけですね。アルカイダとイラクとの関係です。推測だけです。それでたたくということになると、逆にテロを誘発することになると思うんです。

 しかも、イラクの大量破壊兵器はすでに一九九一年から九八年までに90〜95%ぐらいは査察によって廃棄されたと、当時の国連査察の主任だったリッターさんもいっています。九八年に米英による爆撃で査察が中断された。十二年間もやってきたのにいつまで査察をやるんだという意見があるが、そうじゃない。この四年間は中断されていたわけです。

 再開してまだ日がたっていない、これから本格的にやろうとしているときですから、大量破壊兵器がテロ組織に本当に渡らないようにするというなら、イラクにあるかもしれない大量破壊兵器を政治的圧力と査察によって平和的に廃棄させるべきです。大量破壊兵器がどこにあるかは分かっていないわけです。大量破壊兵器をなくすため武力攻撃することになると、アメリカもどこにあるか分からないからピンポイント爆撃なんてできない。結局無差別爆撃ということになると思うんです。

 バグダッドの人口は五百万人です。罪なき市民が犠牲になります。国連の調査でも直接の被害を受ける人が五十万人、難民が国外に流出する人と国内の避難民あわせて三百万人といわれている。五歳未満の子どもと妊娠中、授乳中の女性で被害を受けるのが五百万人という数です。世界がこれほど戦争反対の声をあげている背景に、国際法、国連憲章を無視した無法で不当な戦争だということと、無辜(むこ)の市民を犠牲にしてはならないということがあります。

平和のルール守れは世界と日本の世論の偉大さ示す

 市田 ベトナム侵略戦争のときには、ベトナムが正義でアメリカが悪だとはっきりしていたと思うんです。今度はイラクが正しいなんてだれもいっていない。大量破壊兵器を持っているかもしれないし、以前は査察にまじめに応じてこなかった。しかしイラクも悪いが、大量破壊兵器をなくすために武力攻撃はまずいじゃないかと、平和のルールを守れという点でこれだけ世界が声をあげたというのは、歴史の進歩というか、世界と日本の世論の偉大さだと思います。

 そこに信頼を寄せるべきです。憲法九条を持つ国ですから。日本政府はよく国際協調というが、それなら平和の流れと協調すべきなのに、ごく一握りの戦争の流れに事実上くみするというのは国益にも世界の流れにも反する、孤立の道を歩むことになるのではないか。しかもお金をちらつかせて安保理の非常任理事国の多数派工作をやるなんていうのは、本当に姑息(こそく)で陰険というか…。最近は国会にもきちんと説明しないで勝手に修正決議案支持だといってますし、事実上査察を打ち切って武力行使に賛成だという方向に踏み出したのと一緒ですからね。これはまずい、許されない行為だと思います。

武力攻撃をやれば、国連ではなくアメリカの「権威」が失墜するだけ

 高久 安保理の決議なしに米国が攻撃するとなると、何のための国連かとなりかねない。国連と米国との関係をどう見ますか。

 市田 アメリカは国連を利用できるときには利用する。しかし都合が悪いときには、ほかの国との共同や国連との協調なんてどうでもいい、独自にやるんだと。都合のいいときは利用し、都合の悪いときは国連なんて関係ないという立場の露骨な現れでしょうね。

 もし新しい安保理決議なしにアメリカが武力攻撃をやれば国連の権威が失墜するという意見がありますが、私はそうじゃないと思う。いま国連は大変機能を発揮していると思うんです。「理性と平和の流れ」ができつつある。第一次、第二次大戦の犠牲の上に打ちたてた紛争の平和的解決の原則−−武力攻撃が許されるのは攻撃を受けたときと安保理決議があったときだけ−−それを踏みにじる行動を許さないという理性の声が、国連で多数派になっているということは、たとえ(攻撃を)やっても国連ではなく、アメリカの「権威」が失墜するだけのことです。予断は許さないが、結果として国連の平和と理性の流れは生きて働くと思います。

 世界の反戦の世論も、たとえ武力攻撃がやられても必ず生きて働くし、アメリカはそんなことをやれば世界の孤児、世界に顔向けできない国家、民主主義破壊の国になり、国連憲章の平和的な立場、国際的ルールを踏みにじる“ならず者国家”にみずからがなる道を歩むことになるんじゃないかと思います。

 私は、国連の権威がむしろいま生きいきと発揮されているんじゃないかと思います。アメリカのいいなりにならないという機能が発揮されているという点で、頼もしい現象だと思っています。

日本政府の態度は国連中心主義ではなく、一貫して「アメリカ中心主義」

 高久 日本はこれまで国連中心主義といってきて、まさかアメリカの戦争に賛成はしないと思うんですが、決議案への態度があまりに明確で場合によっては賛成かという危険も感じますが、日本の対応はどうあるべきだと思われますか。

 市田 よく「国連中心主義でいくのか、日米同盟に軸足を置くのか」という設問があちこちでされます。

 しかし、日本政府の態度は、国連とアメリカの態度が一致したときは国連の流れに従うが、国連の多数とアメリカの意見が異なったときはアメリカに付き従うというものです。過去にアメリカが国際法違反の武力介入をやったとき−パナマ、グレナダ侵略で非難決議が採択されたとき、日本は非難決議に反対の態度をとって少数の孤立の道を歩んだ。あのイギリスが非難決議に賛成したときも、ことごとく日本はアメリカと共同歩調をとった。

 だから、日本は「国連中心主義」じゃなくて、率直にいえば一貫して「アメリカ中心主義」の態度をとってきたと思うんです。あまり露骨に国民の前にいうとまずいから国際協調とか国連中心といっているが、いまの日本政府の態度表明を見ると、新しい安保理決議があろうとなかろうとアメリカの武力行使に賛成の道を突き進むというのがあらわになってきている。

 これは、建前としていってきた「国際協調、国連中心主義」という立場をもかなぐり捨て、世界と国連の多数が平和的解決をといっても別の道を歩むというわけですから、建前上の「国連中心主義」さえかなぐり捨てた。もともと「アメリカ中心主義」だったが、カムフラージュさえ取り去って本性が露骨に現れた。

 世論調査で小泉内閣の支持率が下がり、安保理決議の有無にかかわらず武力行使反対という声が圧倒的ですね。総理が、世論なんてどうでもいいなんてことを国会答弁でいうことに対し国民の世論は健全で、これをバカにするようなことを総理がいっていたら、ますます転落の道を歩むんじゃないかと思います。

 アメリカの同盟国であっても−フランスもそうですが、いまのアメリカのやり方はあまりにもひどいと、国際ルールを無視しすぎるというときには堂々とものをいう。アメリカが「古いヨーロッパ」といったが、アメリカこそ古いと思うんです。いまの時代は紛争を平和的に解決するというのが新しい流れで、力ずくで切り取り勝手な時代に逆戻りさせようという古いアメリカが表に出ている。その古いアメリカに付き従っている日本は、自主性のない“下駄(げた)の雪”のような感じです。

政府・与党は平和の敵、民主主義の敵といわれても仕方がない

 市田 もう一ついいたいのは、世界の反戦平和の声を総理は「イラクへの誤ったメッセージ」といったんですね。外相は「イラクを利する」、公明党の冬柴鉄三幹事長はNHK討論で、戦争反対の声を「利敵行為だ」といったんです。私が思い出したのは戦前、戦争に反対する人への国賊、非国民呼ばわりですね。そういうことしかいえない政府・与党というのは、平和の敵、民主主義の敵といわれても仕方がないという感じがしています。

 アメリカの武力行使に賛成しないものは全部イラクの味方だという単純な二分法なんですよ。だれもイラクを正しい、イラクを応援しようなんて思っていないわけです。そこをやはりきちんと区別して問題を立てることが大事だと思いますね。

 高久 これほど武力攻撃の前に世論が盛り上がったのはかつてあまりないだろうと思うんです。そういうなかでそれを無視するというのは疑問に思います。

 市田 安保理のなかの「平和と理性の流れ」の流れということをいったんですが、それだけじゃないんですね。非同盟諸国首脳会議が先日開かれました。アラブ、イスラム諸国の首脳会議も相次いで開かれましたが、ダブりを除くと参加が百二十一カ国ですね。安保理を構成する国だけじゃなくて、非同盟やアラブ、イスラム諸国がこぞって平和的な解決をといっているわけで、私はこれは本当に巨大な大きな平和の流れだと。それにそむくというのは本当に許されない蛮行だと思いますね。


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