2003年3月18日(火)「しんぶん赤旗」
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ブッシュ米大統領は十六日、イラク攻撃容認決議を十七日に採択するよう国連安全保障理事会に迫るとともに、国際社会の支持がなくともイラクへの先制攻撃を強行する姿勢を表明しました。これは国際法に反し、問題の平和解決を希求する世界の世論と、安保理でのこれまでの経過を踏みにじる、何の合法性も道理もない、強引で横暴な「ならず者」行為というほかありません。
米、英、スペイン三カ国は、昨年十一月に採択された安保理決議一四四一をイラクが履行しなかったとして、イラクの大量破壊兵器の武装解除には武力攻撃によるイラク・フセイン政権打倒しかないことを認めさせる新決議を安保理に採択させようとしてきました。
しかし、これには、拒否権をもつ常任理事国のフランス、ロシア、中国が強く抵抗してきました。「中間派」と呼ばれる非常任理事国六カ国も、経済支援供与など米側によるさまざまな圧力にもかかわらず、決議案賛成を表明していません。十七日に採決を強行しても、新決議が採択される見通しはありません。
米紙ニューヨーク・タイムズ十七日付社説は、「ほとんど孤立した米国は、国際社会の名において戦争を開始しようとしているが、この国際社会は戦争に反対している」と述べ、米国の孤立無援ぶりを描き出しています。
米側は、安保理が米国の言うがままに新決議を採択しなければ国連は存在意義を失ってしまうと主張しています。しかし、これには何の道理もありません。
決議一四四一は、決議の示す条件にイラク側が全面的に従わなくとも「自動的に武力行使に導かない」ことを確認した上で全会一致で採択されました。
その後に再開された査察は、イラク側の原則的協力のもとに継続されており、国連査察団も今後一定期間、査察を継続・強化することにより、査察は成果をあげることができるとしています。
国連加盟国の圧倒的多数は、査察の継続による事態の平和解決を求めています。地球の隅々から、世界中の国民が戦争反対の声を上げています。
ところが米側は、「査察では武装解除はできない」として、査察活動への十分な資料提供もしないでおきながら、「時間切れだ、時間切れだ」と叫び、査察打ち切りと先制攻撃開始を国際社会に強要しようとしています。
新決議の採択なしにイラクへの攻撃が開始されることになれば、それは国際法への二重、三重の違反行為です。
国連憲章は、各国の主権尊重と、国際紛争の平和的解決を各国に義務づけています。武力行使が認められるのは、「国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合」(国連憲章五一条)と、憲章第七章に基づき安保理が軍事的措置をとることを容認した場合に限定されています。
米国が現在、イラクによる武力攻撃を受けていないのは明白な事実です。9・11対米同時テロ事件へのイラク政権の関与についても、米側は「決定的な証拠」をなんら提示できていません。
安保理決議一四四一は言うに及ばず、イラクのクウェートからの撤退のための武力行使を容認した決議六七八(一九九〇年)、湾岸戦争の停戦条件を定めた決議六八七(九一年)のいずれも、イラクへの攻撃を許可するものではありません。
ブッシュ大統領は、米側の軍事攻撃の目標がイラクの「政権交代」にあると露骨に表明しています(二月二十六日の演説など)。しかし、これらの安保理決議は、イラクの大量破壊兵器の解体に関する国際合意でこそあれ、イラクの「政権交代」をめぐる決議ではありません。そもそも、「自決の原則の尊重」(第一条)、各国主権の尊重を世界平和のルールの一つとして掲げる国連憲章は、外国による主権国家の政府の打倒を想定していません。
アナン国連事務総長は、安保理の承認なしの武力行使は「国際法の侮辱、国連憲章違反だ」と繰り返し警告しています。
ましてや、いま米国が強行しようとしているのは、米国への武力攻撃を行っていないイラクに対する先制攻撃です。それは、二十世紀の二度にわたる世界戦争の教訓に立って世界が合意した、国連憲章に基づく世界平和のルールを根底から破壊する行為です。
もし米側が新安保理決議なしのイラク攻撃を強行すれば、歴史は、ほかならぬ米国自身とその追随者に対して、国連の権威の破壊者、国連憲章に示された世界平和のルールの破壊者、「ならず者」の刻印を押すでしょう。(坂口明記者)