日本共産党

2003年3月19日(水)「しんぶん赤旗」

小泉首相は米追随やめよ

法は攻撃許容しない

国際法学者23氏が反対声明


 「国際法に照らしてイラク武力行使は許容されない」――。日本の国際法学者二十三人が十八日、米国の対イラク攻撃に反対する声明を発表し、外務省の林景一条約局長を通じ、川口順子外相に申し入れました。松井芳郎(名古屋大)、最上敏樹(国際基督教大)、五十嵐正博(金沢大)、古川照美(法政大)各教授が申し入れました。

 声明は、国連憲章が武力行使と武力による威嚇を禁じ、その例外として認めているのは、(1)武力攻撃が発生した場合の自衛権行使(2)平和の脅威に対する集団的措置として国連安保理が決定した行動――の二つだけだと強調しています。

 しかし現在、武力攻撃は発生していないと指摘。将来発生するかもしれない武力攻撃に備えるという「先制的自衛」論について、「このような論理を認める法原則は存在しない」「先制的自衛を肯定するような先例を今ここで作ってしまえば、例外としての自衛権行使を抑制する規則は際限なく歯止めを失う」と強く警告しています。

 声明はまた、国連安保理による集団的措置についても、五常任理事国による明確な同意が得られない武力行使は「違法」と指摘。安保理決議一四四一は、そのような同意を与えたものではないと強調しています。

 国際法学者による連名の声明は異例です。松井芳郎教授は「今後、国際法学会の会員全体に声明への賛同者を広げ、海外の国際法関係者との連帯もおこなっていきたい」とのべました。

平和解決断ち切るな

岩佐議員 首相の攻撃支持を批判

 日本共産党の岩佐恵美議員は十八日の参院予算委員会で、アメリカのイラク攻撃表明について、「国連の査察も成果をあげ、平和解決の道が見えてきたときに、それを無理やり断ち切って戦争に切り替えようという、道理のない一方的な戦争計画だ」と批判しました。

 武力行使に小泉首相がいち早く支持を表明したことについて「これでは日本が無法な戦争の共犯者になってしまう。国連憲章に反する無法な戦争に絶対に協力すべきでない」とのべました。

 川口順子外相は「苦渋に満ちた決断を支持する」と答えました。

米大統領演説 野党が批判

 野党各党は十八日、ブッシュ米大統領のイラクに対する最後通告を強く批判しました。民主党の菅直人代表は「新たな国連決議もない一方的な武力行使は明らかに国連憲章違反だ」とした上で、「小泉純一郎首相は支持する理由を明確に国民に説明すべきだ」と強調しました。自由党の藤井裕久幹事長は「特定国の判断による武力行使は戦後の国際平和秩序に反する。早々と支持を表明した首相の国際感覚を疑う」と指摘。社民党の土井たか子党首は「ひどい見切り発車だ。平和的解決への努力がないがしろにされ、武力行使に突き進む米国の姿勢に憤りを感じる」と批判しました。

テロ対策強化決める

イラク攻撃 政府が対応協議

 政府は十八日夜、首相官邸で安全保障会議(議長・小泉純一郎首相)、経済金融関係閣僚会議を相次いで開き、米国による対イラク攻撃に備えた対応策を協議しました。

 安保会議では、石川亨統幕議長から戦争開始後の戦況の見通しなどについて説明を聴取。国内の重要施設の警備強化や出入国管理の徹底などテロ対策の強化を決定しました。

 続いて開かれた経済金融関係閣僚会議では、金融・株式市場対策のほか、原油価格の高騰に備えた国家備蓄の放出などの方針を確認。東京株式市場はイラク攻撃開始時も閉鎖しないことを決めました。

イラク攻撃支持

自民、公明などが了承

 新たな国連決議なしでの米国のイラク攻撃を支持する政府方針について、自民、保守新、公明の各党は十八日、了承することを表明しました。

 自民党の山崎拓幹事長ら五役は同日、首相官邸で首相と会談し、「首相の主張を支持する」と伝えました。また、保守新党の熊谷弘代表も、与党三党首会談の席上、「わが国は日米同盟を機軸としており、支持することで党内をまとめた」と述べました。

 これに対し、公明党の神崎武法代表は、イラクに最後通告を突き付けた米国のやり方について「遺憾だ」と表明。一方で、政府の方針に関しては「苦渋の選択と理解し、政府の立場ではやむを得ない」と述べ、容認する考えを示しました。

 同党は、「平和解決に全力」(公明新聞)などと大宣伝する一方、「日本政府は(武力行使容認の)新決議案を支持しており、公明党も政府と同じ考えだ」(神崎代表、四日)、「戦争反対とか、(米国の)圧力を抜くような利敵行為は解決を先延ばしする」(冬柴幹事長)と戦争容認の姿勢を示していました。今回も与党の立場から、政府の判断を容認することにしました。


イラク問題に関する国際法研究者の声明

 「イラク問題に関する国際法研究者の声明」は次の通り。

 私たちは、日々、国際法の研究と教育に携わるものとして、国際法に照らして、イラクに対する武力行使は許容されないと考えるので、以下にその理由を表明したい。

 国連憲章は、伝統的に個々の国家に認められてきた戦争の自由を否定し、国際関係における武力の行使と武力による威嚇を禁止した。憲章が認める武力行使禁止原則の例外は、次の二つだけである。一つは、武力攻撃が発生した場合、安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間、国家に認められる個別的または集団的な自衛権の行使であり、もう一つは、平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為に対する集団的措置として、安全保障理事会が決定する行動である。

 現在、第一の、自衛権発動の要件である武力攻撃が発生しているのか。答は否である。この要件をかわすために、将来発生するかもしれない武力攻撃に備えて、今、先制的に自衛しておくという論理が主張されている。しかし、このような論理を認める法原則は存在しない。もし、まだ発生していない武力攻撃に対する先制的自衛を肯定するような先例を今ここで作ってしまえば、例外としての自衛権行使を抑制する規則は際限なく歯止めを失っていくであろう。

 では、第二の、集団的措置を発動するための要件である平和に対する脅威等の事実が存在しているのか。その存在を認定し、それに対して武力の行使を容認するか否かを決定するのは、安全保障理事会である。五常任理事国はこの決定に拒否権をもっており、一カ国でも反対票を投じればこの決定は成立しない。安全保障理事会によって容認されない、すなわち明確な各別の同意を得ない武力行使は、違法であろう。安全保障理事会決議一四四一は、そのような同意を与えたものではない。

 国連における協力一致のためには、拒否権の行使は慎まなければならないという声がある。本来、拒否権は、国際の平和と安全の維持には常任理事国の協力一致が不可欠であり、常任理事国が分裂している状況で行動することはかえって平和を害することになるという考えを反映している。現下の問題は、二常任理事国が実行しようとしている武力行使に対して、他の三常任理事国が強い異議を呈していることである。拒否権は乱用されてはならない。しかし、行使されなければならない状況の下では、適正に行使されるべきである。五常任理事国には、それだけの権利とともに責任が付託されているのである。

 国連は脆弱(ぜいじゃく)だと言われながら、成立以来五十余年、多くの困難を凌(しの)いで生き続け、とりわけ冷戦後は、国際紛争の平和的処理の主な舞台となっている。イラク問題についても、安全保障理事会が適時に招集され、十五の理事国の意見が闘わされ、世界中にその模様がテレビで中継されてきた。国連と国際原子力機関による査察も、十分とはいえないまでも、着実に成果を上げつつある。国連という平和のためのツールが、二十一世紀の国際社会で、その役割を果たすためようやく成長しようとしているのではないか。力による支配ではなく、法による支配を強化して国際の平和と安全を確保するためには、このような国連を育(はぐく)んでいくほかに、私たちには道がないのである。

声明発表した23氏

 声明を発表した国際法研究者二十三氏は次の通り。

 吾郷眞一(九州大学法学研究院・教授)、五十嵐正博(金沢大学法学部・教授)、岩間徹(西南学院大学法学部・教授)、大沼保昭(東京大学大学院法学政治学研究科・教授)、小畑郁(名古屋大学大学院法学研究科・助教授)、北村泰三(熊本大学法学部・教授)、古賀衛(西南学院大学法学部・教授)、坂元茂樹(関西大学法学部・教授)、佐藤哲夫(一橋大学大学院法学研究科・教授)、佐分晴夫(名古屋大学大学院法学研究科・教授)、杉原高嶺(京都大学大学院法学研究科・教授)、芹田健太郎(神戸大学大学院国際協力研究科・教授)、田中則夫(龍谷大学法学部・教授)、中村道(神戸大学大学院法学研究科・教授)、藤田久一(関西大学法学部・教授)、古川照美(法政大学法学部・教授)、牧田幸人(島根大学法文学部・教授)、松井芳郎(名古屋大学大学院法学研究科・教授)、松田竹男(大阪市立大学大学院法学研究科・教授)、最上敏樹(国際基督教大学教養学部・教授)、薬師寺公夫(立命館大学法学部・教授)、山崎公士(新潟大学法学部・教授)、山下泰子(文教学院大学経営学部・教授)


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