2003年3月21日(金)「しんぶん赤旗」
平和解決の努力断ち切る
違法で野蛮な戦争
ブッシュ米大統領は十九日の宣戦布告演説で、「米国が直面しているのは、戦争の協定や道義のルールを無視した敵だ」と述べました。実際には、米国によるイラクへの先制攻撃こそ、「戦争の協定や道義のルールを無視」した無法行為です。国連憲章のもとでの今日の国際法では、攻撃を受けた国による自衛権行使(憲章五一条)と国連安全保障理事会が認めた軍事制裁(同四二条)以外、武力行使は原則的に禁止されています。
米国はイラクの攻撃を受けておらず、一昨年の対米同時テロ事件へのイラク・フセイン政権の関与も証明されていません。米軍によるイラク攻撃は自衛の戦争ではありません。
また、今回の米軍によるイラク攻撃を容認する安保理決議は存在しません。米政権や小泉政権は、今回の攻撃を認める決議として、一九九〇年十一月採択の決議六七八、九一年四月採択の決議六八七、昨年十一月採択の決議一四四一に言及しています。
しかし決議六七八は、クウェートに侵攻したイラク軍を撤退させるための武力行使(湾岸戦争)を容認した決議です。六八七は、湾岸戦争の停戦条件を定めた決議です。一四四一は、イラクの大量破壊兵器の査察再開に関する決議です。今回のイラク攻撃を認める規定は、いずれの決議にも存在しません。
ブッシュ政権は、今回のイラク攻撃を、将来に生じうる脅威を事前に押さえ込む「先制攻撃」戦略の最初の発動として位置づけています。しかし、そもそも国連憲章は、攻撃をしかけていない国に対する先制攻撃も予防攻撃も認めていません。
ブッシュ政権はさらに、今回の攻撃の目的としてイラクの「政権交代」を挙げています。しかし国連憲章は、各国主権の尊重、内政不干渉を、世界の平和を確立するルールの一つとして定めており、他国の「政権交代」のための武力攻撃を認めていません。
今回のイラクへの先制攻撃は、国際法上の根拠をもたないばかりか、▽内政不干渉▽国際紛争の平和的解決の義務▽武力不行使▽武力行使の限定−といった現行国際法を真正面から破壊する、違法で道義を欠いた野蛮な戦争です。(坂口明記者)
イラクをめぐる動き |
1979・7 |
| フセイン大統領就任 |
80・9 |
| イラン・イラク戦争ぼっ発(88年8月終結) |
90・8 |
| イラク軍、クウェートに侵攻 |
91・1 |
| 湾岸戦争ぼっ発 |
2 |
| イラク軍が敗走、クウェート解放 |
3 |
| 南部でシーア派、北部でクルド人が蜂起。イラク軍が鎮圧。米などがクルド人保護のためとしてイラク北部に飛行禁止空域を設定 |
4 |
| 安保理、湾岸戦争の恒久停戦決議を採択。大量破壊兵器の査察開始 |
92・8 |
| 米英などが、シーア派保護のためとしてイラク南部上空にも飛行禁止区域設定 |
93・1 |
| イラク北部と南部へのミサイル配備などを理由に米軍などが空爆 |
6 |
| 米軍、ブッシュ前大統領暗殺未遂事件の報復としてバグダッドの情報機関本部を巡航ミサイルで攻撃 |
96・9 |
| イラク軍のクルド人自治区進攻への制裁として、米軍がイラク南部の防空施設を巡航ミサイル攻撃 |
| |
97・10 |
| イラク、査察団の米メンバーを追放。国連、査察団の活動を停止 |
11 |
| イラク、ロシアの調停受け無条件査察再開を受諾 |
98・1 |
| イラクが再び査察拒否 |
2 |
| アナン国連事務総長がバグダッド入りし調停。イラクが大統領宮殿の査察に同意し、米軍の攻撃回避 |
10 |
| イラク、あらゆる査察協力を停止 |
11 |
| 米軍、湾岸へ部隊増派。イラクが再び査察に協力 |
12 |
| イラク、与党バース党本部の査察を拒否。査察官が国外へ退去。米英軍が「砂漠のキツネ作戦」と名付けイラク攻撃 |
2001・9 |
| 米国で同時テロが発生 |
10 |
| 米軍、アフガニスタンを攻撃 |
02・1 |
| ブッシュ米大統領がイラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難 |
9 |
| ブッシュ大統領、安保理決議を求めるとしつつ、単独イラク攻撃もと国連演説 |
10 |
| 米上下両院、対イラク武力行使容認決議を採択 |
11 |
| 安保理、対イラク査察強化決議を全会一致で採択。イラク、決議を無条件受諾。4年ぶりに査察再開 |
03・1 |
| 国連監視検証査察委員会のブリクス委員長が安保理に、イラクは「武装解除要求を真に受け入れるようには至っていないようだ」としつつ、「全体として協力的」と報告(27日) |
2 |
| パウエル米国務長官が安保理外相級会合で、イラクの大量破壊兵器開発に関する「証拠」を開示したが、フランス、ロシア、中国の3常任理事国など多くの国が早期の武力行使に反対、査察の継続を主張(5日)。米国、英国、スペインが安保理に、イラクへの武力行使に道を開く新しい決議案を提示したが、フランス、ロシア、ドイツの3国が査察の4カ月継続などを主張する覚書を発表し、中国がこれを支持表明(24日) |
3 |
| ブリクス委員長が安保理に、イラクの協力は「積極的」「自発的」になったが、未解決の問題解決のため「数カ月の査察継続」が必要だと報告(7日)。米、英、スペインが新決議案を取り下げ、ブッシュ米大統領がイラクにたいし一方的な最後通告(17日)。米英軍、イラク攻撃開始(20日) |
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