2003年3月21日(金)「しんぶん赤旗」
「人がいっぱい死ぬのはいや。何もしないよりは」と国会に抗議に−−。米軍などのイラク攻撃が始まった二十日(日本時間)、日本列島に戦争開始への強い怒りが広がりました。
アメリカ大使館前 |
東京都港区赤坂の在日アメリカ大使館。道路を隔てた場所で約百人が大使館に抗議しました。
ハンドマイクで「ドント・キル・チルドレン(子どもを殺さないで)」などと訴えたフリーの翻訳者、野川温子さん(26)は、昨夜十時から仲間たちと訴え続けてきました。「もう本当に平和ということだけ。平和な世の中にしていきたい」と語ります。通りがかった金髪の女性(41)は「アメリカ人であることが申し訳ない感じです」といいながら大使館に向かってピースのサインを突き出しました。
午前十一時半ごろのイラク攻撃開始と同じ時刻、突然、警視庁機動隊が力ずくで一人ひとりを抗議場所から排除しはじめました。歩道のガードレールにしがみつく若い女性らを数人の機動隊員が抱え上げて排除。歩道脇の四角いスペースに取り囲んで行動できないようにしました。
「ノーウオー」、「ピースナウ」と、涙を流し、叫んで抗議する参加者…。大学生の上野太一さん(21)は「僕らは、声をあげていただけなのに…。これに負けないで平和を守るために声をあげ続けていきたい」と語りました。
基地の島・沖縄に衝撃 |
イラク攻撃が報じられた二十日、米軍基地を抱えた沖縄県に衝撃が走り、強い怒りが県内を駆け巡りました。
那覇市開南で昼食の弁当を販売していた伊計直子さん(65)は、ラジオで攻撃開始を聞き、「もう耐えられない」とラジオのスイッチを切りました。「沖縄戦のときは七歳でした。毎日、母親と泣きながら歩いたのを覚えています。戦争は絶対に許せません」といいます。
午後一時ごろ、県庁前で沖縄の地元紙が「号外」を配布。昼食から職場に帰る労働者や、観光客らが次々と受け取り、「ブッシュ(米大統領)は本当に許せない」との声が。三十代の観光客は、「きのう、米軍基地を見てきたところなので戦争を身近に感じます。テロが起こらないか心配。今からでも中止してほしい」と怒りをあらわにしました。
米軍横須賀基地前 |
参戦している空母キティーホークなどの母港、神奈川県の米海軍横須賀基地前。午前十一時半ごろの米軍攻撃開始後に車両入り口に黄色いフェンスが設置されました。
攻撃直後に買い物のため前を通りかかった横山愛子さん(61)は「え、はじまっちゃったんですか」と驚きの声。「何とかくいとめたいと思っていたのに…。戦争になれば犠牲になるのは子どもたち。逃げるにも逃げられないでしょう。ここだって基地があってテロが心配です」といいます。
鎌倉市に住む今西香織さん(15)は、四月から横須賀市内の高校に入学。この日は手続きに向かうため基地の前を通りかかりました。「戦争が始まったら横須賀は危ないのではと親も心配しています。戦争は絶対反対。私も駅前で署名しました。早くやめさせたい」
米兵の夫がペルシャ湾にいっているという日本人の女性(28)は「気持ちは複雑です。イラクの人たちがかわいそう。罪のない人が犠牲になる。やるならブッシュとフセインでやって」といい、ベビーカーを押して基地の中に入っていきました。
午後からは原水爆禁止神奈川県協議会などが抗議行動。日本共産党のふじたちえこ県議も参加しました。「何かしなきゃ」と一人でやってきた高校生(18)も一緒にビラを配っていました。
新日本宗教団体連合会(新宗連)の深田充啓理事長は二十日、米英軍によるイラク攻撃に対し「平和的解決への道を閉ざすこととなり、極めて遺憾」との談話を発表しました。談話は軍事力行使の最大の犠牲者は高齢者や子どもたちと指摘。「すべてのいのちを尊ぶ世界」の実現に向け、軍事攻撃の即時中止と平和的手段による解決などを求めています。
新宗連は一九五一年に結成され、新宗教六十九教団が加盟する宗教団体の連合会。
水フォーラム会場 |
京都など三府県で開催中の第三回世界水フォーラムでも、米国のイラク攻撃開始に抗議の声があがりました。京都会場内でテレビニュースを放映している大型スクリーン前には人垣ができ、抗議の座り込みを続ける参加者の姿も。
「イラク攻撃は恥」と書いたビラを持って抗議行動をしていた米国人のナンシー・トンプソンさんは、「私は米国人だけど、この戦争は許せない。イラン・イラク戦争のときにイラクに武器を供給したのが米国でしょう」と話します。
入り口近くで、戦争中止をアピールする「人間の鎖」への参加を呼びかけていたのはNGO参加者の合田茂広さん(24)。「(首相の)小泉がブッシュの支持を表明しているけど、日本人はこの戦争を支持していない。そのことを海外の参加者にぜひ知ってもらいたくて」と語りました。
この日、大津市で始まった世界子ども水フォーラムも、来日予定だったパレスチナ、ロシアの子どもたちの参加がキャンセルに。日本ふくめ百人余の子どもたちが「安全な水」「学校と衛生」などのテーマで交流。
東京・渋谷のハチ公 |
ハチ公前で友だちを待っていた川崎市の女子高生(17)は、攻撃開始のニュースに「やだあー」と大声。「戦争はしないでほしい。大勢の人が死ぬのはこわいし、かわいそう」
午後零時十五分ごろ、民青同盟がハチ公前で緊急宣伝を開始。世田谷区の高校生、村上加奈さん(18)らが「攻撃が始まりました。戦争反対の声が踏みにじられた思いです。絶対に戦争をやめさせましょう」と訴えると、通行人がいっせいに宣伝カーを見上げました。バンドの練習に向かう川崎市のモリヤさん(21)のグループは、「ライブでみんなに伝えますよ」と声をかけました。
国会前 集まる人びと |
国会前でも午前十一時すぎから攻撃開始に抗議する人々が座りこみました。ラジオで攻撃開始の報道を聞き、プラカードを掲げたり、アフリカの打楽器ジャンベを打ったりとさまざまな行動で抗議しました。
「ノー ウォー オン イラク」とかいた一メートル余の看板を持って現れたのは、杉山英一さん(29)。会社が休みだったので東京・北区の自宅から地下鉄できました。「行動はちょっと恥ずかしかったけど、人がいっぱい死ぬのはいやだ。何もしないよりはましだと思って…。いま大学時代の友達に、ここへこないかと連絡したばかりです」
一緒に看板を持つ伊藤暢彦さん(21)=学生=は、「杉山さんとはさっきアメリカ大使館前で出会いました。僕も彼に同感。アメリカが自由と民主主義を踏みにじり、軍事力ですすめるむちゃくちゃな戦争をなんとかとめたいし、その意思を示したい」と話しました。
「自分も何か」 デモ飛び入り 東京・明治公園
日本共産党が呼びかけた3・20イラク戦争抗議緊急集会(東京・明治公園)には、党の集会・デモに初めてという人も参加しました。 日本共産党のホームページを見て集会を知ったという江原さん(27)は会社帰り。「共産党の考え方が自分と合っていたので来ました。人の命を武力攻撃で奪うのはあってはならないこと。国民の声を無視してアメリカに従ってしまう政府に不信感を抱きます」と話します。 友人と二人で演壇を遠くに見てたたずんでいた女性(30)は「共産党の集会と知らなくてきた」といいます。 「いっぱい集まってて驚きました。日本政府はもう少し民主主義であってほしい。民主主義の意味を辞書で調べてもらいたい。自分ができることって何があるか分からないけど、とりあえず選挙に行く」と話しました。 一時間前から会場にきた大学四年生の宇田川昌寛さんは五年前、目が不自由に。友人の香取義敬さん(22)をメールで誘って参加しました。インターネットの「赤旗」を音声メッセージで聞き、集会を知りました。「戦争は始まってほしくなかった。早く終わらせたい。そんな思いで一刻も早く参加したかった」 コンテンポラリーダンスでダンサーをめざす小池藍さん(24)=千葉・松戸市=は言葉を選んで話します。「この世界で生きていきたいから毎日毎日踊りたい。だからこれまでデモや集会があってもレッスンを選んできた。でも今日はダメ。戦争はいやだ。ここに参加しないとずっとすっきりしない。そんな気持ちで参加しました」 ベビーカーに一歳の息子を乗せ、初めて参加した東京・渋谷区の榎本佳子さん。「日本にいて何かできることがないか」と昼間、代々木公園にいったら焼きそば屋さんに夜の集会を教えてもらいました。「おとなが胸を張って、私たちの後をついてきなさいと子どもたちにいえる世界をつくりたい」と話します。 デモ行進を見て、いっしょに「ハーンターイ」と叫んだのは、歩道にいた女子高校生六人組。「すげーいっぱい」と驚きます。そのうちの一人は「世界中が反対しているのに、アメリカは強行突破だね」。 最終地点が近づいた青山通りではデモの先頭の隊列にひょこんと二人の若者が加わりました。 デモは初めて。金子航さん(18)は「やっぱり戦争はおかしい。海外のデモを見て自分も何かしなくてはと思ってた」。武政佑一郎さん(18)は、「世界で唯一の被爆国として、平和をアピールしたい」と話しました。 |
報道聞き駆け付ける |
広島市中区の原爆記念碑前。イラク攻撃の報を聞いて、真っ先に抗議の座り込みにかけつけた広島県労学協事務局長の二見伸吾さん(39)。ピースステッカーをかかげて話します。
「このまま攻撃が始まりませんようにと、知人に手紙を書いていたらテレビが攻撃開始を報道したので、かけつけました。私にも子どもが三人いるが、イラクにもかわいい子どもたちがいる。胸がはりさける思いです。私たちは微力であるが無力ではない、との立場で、力を合わせていきたい」
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松山市で仏教徒 |
愛媛県では、「不殺生祈りの会」が呼びかけ、松山市の伊予鉄市駅周辺で、二十日午後二時から仏教徒たちが、怒りと抗議の祈りをあげました。真言宗豊山派、真言宗智山派、真宗大谷派、臨済宗の僧りょが集まりました。
「会」代表で、四国八十八カ所五十一番札所石手寺の加藤俊生住職は「できることをやり、意思を表していきたい」と話しました。
日弁連が緊急シンポ |
日本弁護士連合会(本林徹会長)は、二十日夜、東京都千代田区の弁護士会館で緊急対談(シンポ)「アメリカの『正義』日本の『有事』 イラク・北朝鮮を考える」を開催、約四百人の参加者で会場があふれるほどでした。
姜尚中(カン・サンジュン)東京大学社会情報研究所教授は、国連決議なしに攻撃を強行したアメリカについて、「戦争を教訓に各国が主権を認め合い世界秩序を保つという国連の安全保障・平和的機能を縮減させ形がい化させるものだ。アメリカは国連の外からこれを支配し、帝国主義戦争の後始末をさせようとしている」と批判しました。
酒井啓子アジア経済研究所主任研究員は、「アメリカの中東政策は、イスラエルとの共存が可能で、アメリカが認める『民主化』だ。イラクは『危険な国』とみなされただけだ」と指摘しました。
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愛知の学生 |
名古屋市では愛知県学生自治会連合(明石共世委員長)が中区栄バスターミナルから千種区の地下鉄本山駅前まで、戦争反対の思いをアピールしようとピースウオークを繰り広げました。約百人の学生らが参加しました。