日本共産党

2003年3月22日(土)「しんぶん赤旗」

マスメディア時評

真実が最初の犠牲者でいいか


 アメリカによるイラク攻撃の開始とともに、日本の新聞もテレビも、洪水のような戦争報道で埋め尽くされています。その多くは、アメリカ、イギリス両軍の攻撃ぶりを伝える戦況報道です。なぜ国際的に孤立したアメリカが国連の支持もないまま攻撃を開始したのか、それが世界になにをもたらすかなどをえぐり、戦争に抗議する世界の人々の声と行動を伝える点では不十分です。

攻撃している側から伝える

 戦争が起きれば最初に犠牲者になるのは真実だというのは、二十世紀の初めいらい長く語りつづけられてきたことばですが、日本のマスメディアはイラクの戦争でも同じ轍(てつ)を踏もうというのか、その報道姿勢がきびしく問われます。

 とりわけひどいのは、NHK総合テレビの報道ぶりです。

 NHKは攻撃が始まると同時に、通常の番組をほとんど全部変更し、特別編成で戦争報道をつづけています。しかしその内容は、この戦争には一片の大義もないことが国際社会からきびしく批判されているにもかかわらず、そのことはまったく問題にせず、もっぱら戦争をする側の目で報道するというものです。

 攻撃を始めた側のアメリカのブッシュ政権やそれを支持した日本の小泉政権の記者会見や発表をくりかえし伝え、ワシントン支局長などNHKの記者や解説委員が肯定的に解説してみせるというものが大半で、明らかに攻撃する側に軸足を置いたものになっています。

 攻撃を受ける側のイラクのバグダッドにいた特派員は隣国のヨルダンに撤退し、バグダッドからの固定カメラなどでの映像はあるものの、攻撃のもとでの市民のくらしや苦しみは伝わりません。半面、アメリカ軍のメディア対策で、一昨年のアフガニスタン攻撃などとは違い今回は記者の従軍が認められているため、ペルシャ湾の空母からのミサイル発射やクウェートからイラクを攻撃する地上部隊の動きなどが、軍事機密に触れない範囲で、くりかえし映し出されます。これではまるで、報道全体がアメリカ軍の管制下にあるといわれても仕方がないでしょう。

 各国政府の反応や日本の各党の態度を横並びで紹介することはあっても、アメリカの攻撃開始に抗議する内外の行動が紹介されることは、とくに初日はほとんどありませんでした。日本共産党が攻撃直後から全国で抗議の行動を起こし、二十日夜の東京・明治公園での集会には五千人が参加したなどということは一言も伝えません。

いちじるしく偏った解説

 NHK総合テレビの戦争報道は、内部の解説委員や外部の「軍事評論家」「防衛研究所主任研究官」などを動員した解説にも、いちじるしい偏りがあります。

 「軍事評論家」や「主任研究官」の解説は、アメリカ軍の兵器の性能や軍事作戦意図を長々と解説するだけです。爆撃される市民への思いもなく、兵器の高性能化でイラクの一般市民の犠牲は最小限に抑えられるだろうなどと、まるで米軍当局の代弁者のような解説までありました。

 国民・視聴者に判断材料を提供するというなら、この戦争の是非や攻撃の背景、世界政治における意味などを問い直して伝えるべきです。民放のいくつかの番組には、アメリカの攻撃に批判的な論者を含め、多角的に追及する努力が見られたのとくらべても、NHKの姿勢はきわだって異様です。

 アフガンでの戦争に際し、戦争を「あおる放送」をたしなめたイギリスの放送局BBCは、今回のイラクでの戦争に際しても公平で客観的な放送をめざす「戦争報道指針」を作成したと、メディア論に詳しい門奈直樹立教大教授は紹介しています(「朝日」二十日付「私の視点」)。

 視聴者の利益を守り、公共放送への信頼を守ろうとするなら、この戦争の意味や世界の反戦世論の動向を含め、真実に迫る報道がNHKに求められます。(宮坂一男記者)


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