2003年3月25日(火)「しんぶん赤旗」
【カイロで小泉大介、アンマンで岡崎衆史】バグダッドへの大規模空爆直後の二十三日朝。カイロ市内に住む女子学生、アマニィ・アティアさん(23)は思わず息をのみ、顔を手で覆いました。
新聞一ページ全部に空爆の犠牲になった子どもたちの写真。頭を砕かれた小さな遺体、ベッドで鼻にチューブを差し込まれ目をつぶったままの少年。正視できない姿の連続でした。
イラクの子どもたちもエジプト人と同じ言葉を話すアラブ人です。「愛する子どもがこんな姿になったら。道理のない戦争をなんと説明すればよいのか。人間はいつまでこんなことを続ければ平和の大切さに気がつくのか」。そう考えるうち米英軍への憎しみがこみ上げてきました。
テレビではイラク攻撃を指揮する米軍のフランクス司令官の記者会見。「歴史上かつてないたたかいだ」「作戦は極めて順調に進んでいる」。同司令官は、罪のない犠牲に広がるアラブ民衆の心にどれだけ気がついているのでしょうか。
「イラク南部バスラでの戦闘で米英軍がクラスター(集束)爆弾を使用。イラク人五十人以上を殺害、四百人を負傷させた」。カタールの衛星テレビ・アルジャジーラが二十二日、バスラでの被害を「大量虐殺」と伝えました。
クラスター爆弾は一昨年十月に始まったアフガニスタン戦争でも大量に使用されました。一つの親爆弾から二百もの子爆弾が飛散し、広範囲を一気に爆撃し、住民を殺傷します。アフガンでは直接の被害はもちろん、子どもが不発弾に触れ、即死したり、手を吹き飛ばされたりといった被害が後を絶ちませんでした。
「アラブ人の命の価値がここまでおとしめられているのかと、米軍による大規模空爆で実感しました。空爆強化と比例して、アラブ全体が侵略者米国への憎悪の感情を深めていくでしょう」。カイロ大学教授のアーメド・ユセフ教授が指摘します。
パレスチナへの侵略と弾圧。アラブの人々はイスラエルへの怒りと、後ろ盾になっている米国への不信を募らせてきました。その対米不信が今度の戦争で確実に憎悪に変わりつつあります。
憎しみは米国への従属を深める自国の政権への不信、反発をよんでいます。戦争前、エジプトでも政府与党の主催で数十万規模の反戦集会が開かれました。しかし人々の怒りは収まりません。集会デモの禁止を破って街頭の民衆が米大使館につめかけ治安部隊が放水する事態も生じています。
イラクの隣国ヨルダンでも各地で連日、抗議集会が開かれ、二十三日は一万人以上が参加しました。アンマン市内の職業別組合などが主催した反戦集会には、約二千人が参加。殺害されたイラクの子どもの生々しい写真を掲げ「米英両国は殺人者、犯罪者」と厳しく批判しました。
参加者からは「イラクの事態は戦争というより破壊行為だ」「子どもたちが殺されている姿をみて黙ってはいられない」との声が聞かれました。
アブドラ国王は二十二日の閣議で「イラクの兄弟が被っていることに怒りを感じるのは当然だ」とのべ、戦争の即時中止を求めました。ラゲブ首相も戦争に深刻な影響を受けていると懸念を表明。国民の怒りの爆発を抑えるのに懸命です。批判の矛先は米国だけではありません。「怒りは戦争を支持する国にも向けられる」(ユセフ教授)といいます。
「日本政府が米国の軍事行動を支援しているとの報道が広く行われていることから、日本人に対するエジプト国民の感情が悪化する懸念もあります」。駐カイロ日本大使館は二十三日、エジプト在住の日本人に「警告」しました。
アラブの人たちには中東への帝国主義的進出の過去をもたず、平和憲法を持つ日本への好感があります。小泉政権がイラク攻撃支持をだしたことで、そうした感情を傷つけ、アラブ世界と日本の関係を決定的に損なおうとしています。実際、エジプトでは政府系有力紙を含む各紙が「イラク戦争絶対的支持の日本」などと批判の報道を続けています。
ヨルダンの主要紙アッドストール二十二日付は、日本の米国支持の背景として「日本の国土に四万五千人の米軍が駐留しており、米国にノーといえないからだ」と指摘、そのことはイラク戦争での日本の態度の言い訳とはならないと厳しく批判しました。
カイロ大学のイサム・ハムザ準教授は、「戦争が激しくなればなるほど、アラブ世界は、誰がこの戦争を支持しているか真剣に考えるようになる」と今後、批判が強まると予想しています。(カイロで小泉大介、アンマンで岡崎衆史)