2003年3月27日(木)「しんぶん赤旗」
「(イラク戦争によって)世界は力が支配する石器時代に逆戻りしてしまった。今後は超大国の気まぐれによって独立国家の国境が脅かされるだろう」(マレーシアのマハティール首相)。世界の識者や政治家が警鐘を乱打しています。国連決議がなく同盟国からも国際世論からも孤立してブッシュ米大統領が始めた違法なイラク攻撃。それは、イラク問題の平和解決を断ち切ったばかりでなく、国連憲章と国際法への正面からの攻撃であり、世界平和の秩序ある体制を築こうとしてきた諸国民の多年の努力を一挙に覆すものです。
歴史をみれば、十七世紀に全欧州を巻き込んだ三十年戦争の後、一六四八年のウエストファリア条約によって主権国家による国際社会の基礎が固まりました。当初、各国は紛争を暴力―戦争で解決してきました。十八世紀から十九世紀までは、戦争の正否を問う制度はなく、戦争を行うときのルールが存在しただけでした。
ようやく二十世紀に入って、二つの世界大戦で数千万人の犠牲者を出す中、戦争そのものを違法化し、戦争を防ごうとする努力がおこなわれました。第一次大戦後、一九二九年に発効した不戦条約は、紛争解決の手段としての戦争を否定し、紛争の平和的解決を義務づけました。日本も含め六十カ国が批准しました。
しかし、さらなる大戦を防げなかったため第二次世界大戦の終結(一九四五年)で発足した国際連合は憲章で平和的手段による紛争解決を義務づけ、武力による威嚇や武力行使を禁じました。
武力行使が許されるのは、攻撃を受けたときの自衛と、国連安保理が承認した集団的な措置だけに厳格に制限し、先制攻撃を違法としました。この基準は、各国の主権・平等と民族自決、内政不干渉の諸原則とともに、国際秩序の根本原則として確立しています。
ブッシュ米政権は、イラクへの先制攻撃でこの平和ルールを公然と踏みにじりました。それだけでなく、イラク攻撃を突破口に、これを慣例化し、国際社会の平和秩序そのものを「改変」しようとしています。米政権の担当者たちはその意図を隠していません。
チェイニー副大統領やウルフォウィッツ国防副長官ら現政権の中枢を担う人たちは、ソ連崩壊後の九〇年代初頭からこれを企図してきました。両氏は国防総省の内部文書「一九九四―九九国防計画指針」のなかで「国連を中心とした世界秩序から究極的には米国とそれに同調する有志が支える世界秩序への転換」を構想していました。
ライス米大統領補佐官は一昨年、9・11テロ直後のインタビューで「新しい世界秩序の構築にいかにこの機会を生かすか」と提起。「国際の地殻変動が起こされた」「従来の国際条約や機関にとらわれることなく米国の行動を支持する自発的連合を形成すべきだ」とのべていました。
同じグループに属する人たちのなかからは「無秩序の世界を指導する新しい帝国主義の必要」(リチャード・ハース国務省政策企画局長)とか「国民国家体制から市場を基礎にした市場国家体制への改変過程で一連の戦争は避けられない」(フィリップ・ボビット元国家安全保障会議スタッフ)など、現存の国際秩序の体系を否定し、米国の単独主義を合理化する理論が相次いでだされています。
『ニューズウィーク』誌三月二十六日号は「アメリカの横暴」と題した特集記事でつぎのように警告しています。「世界の人びとが何より恐れているのは、唯一の超大国、米国の思うままの世界に生きなければならないことだ。だからこそ世界は米国を疑い、恐れている」
「戦争に勝てば米国の外交政策にたいする世界の根深い不信と憤りが晴れると思っていたら、大きな間違いだ。この戦争はうまくいっても、イラク問題を解決するだけだ。米国の問題の解決にならない」
エジプトのカイロ大学のハッサン・ナファ教授もいいます。
「いかに米国が強大だからといって、世界の問題を一国で解決することはできません。世界の人びとは民族、宗教、文化もちがい何千年の多様な歴史のなかで生きています。世界は多様です。米国一国システムを力で押しつければ、いっそうの抵抗と反乱に直面するでしょう」(田中靖宏記者)