2003年3月27日(木)「しんぶん赤旗」
「これは国際法違反の侵略戦争だ。石器時代への逆戻りだ」―二十四日夜、ドイツ・ライプチヒでニコライ教会の牧師が集会参加者五万人に静かに語りかけました。
ライプチヒで毎週月曜夜に行われる十一回目のイラク反戦デモ。十四年前の民主化要求運動の拠点は今、平和運動の拠点へと変わっています。
イラク戦争は米国の国際法違反―ドイツのマスコミは素早く反応しています。開戦の翌日、南ドイツ新聞二十一日付は「弱肉強食の世界」との社説を掲げ、「ブッシュは国連憲章が他国への侵略だと(認定)するような、国際法の重大な違反をした」と指摘しました。
「唯一の超大国による法律破り」が「ホッブスのいう弱肉強食の世界へ導くのか」と問いかけながら、「国際法が無価値になったわけではなく、国際法違反を厳しく批判し、戦争協力をいっさい控えることが重要だ」と主張しています。
フィッシャー独外相も米国の国際法違反を批判しました。最新号の独誌『シュピーゲル』で「世界で一番強い国が勝手に軍事力行使の基準を決めれば世界の規律は働かなくなる」と米国が国際法に従わず一方的なイラク戦争を開始したことを非難したのです。
この間、シュレーダー政権は世論に支えられるように「平和的手段による問題解決の可能性はまだくみつくされていない」とイラク問題の国連査察による政治的解決をいい続けてきました。
国民の支持は強く、戦争が始まってから初の世論調査(独誌『シュテルン』二十四日号)では、シュレーダー政権のイラク戦争反対の姿勢を肯定的に評価する意見が81%を占めました。昨年の総選挙以来落ちつづけていた首相支持率が上昇に転じ、先月より約10ポイント近くあがって43%となったのが特徴的です。
ドイツ国民の戦争反対の原点には、悲惨な戦争体験があります。
一月三十日、シュレーダー首相はブラウンシュワイクでの演説で、ドイツのイラク戦争反対は過去にドイツが体験してきた戦争の「血の体験」から導かれた「国民の大多数の自覚である」と強調しました。イラク戦争反対にドイツの悲惨な過去の戦争体験の教訓があることを改めて明らかにしたのです。
フィッシャー外相も欧州と米国を比較しながら、「米国には戦争の悲惨さを象徴するような場所、ベルダン(仏北東部の第一次世界大戦の激戦地)もアウシュビッツもスターリングラードもない」(『シュピーゲル』誌インタビュー)とのべ、欧州が戦争の教訓から平和的手段での紛争解決や欧州統合を推進していることを強調しました。
一方で、独政府はイラク戦争で米国に基地使用や領空通過を認め、生物・化学兵器対応部隊のクウェート派遣や空中警戒管制機(AWACS)のトルコ派遣を実施しています。米との決定的な対決を避けていることも事実なのです。
ナッサウアー汎大西洋安全保障ベルリン情報センター所長は「独、仏、ロシアは国際機関・国際法の強化を望んでいる。自国の利益のためには国際法を破るという態度では米国の政策は信用できなくなるし、このような政策には限界がある。政治的にどう米国を国際法の舞台にもどすことができるのか、ドイツ(政府)は礼を失しない限度で米国を批判し模索している」と説明しています。
しかし、イラク反戦デモでは政府の領空通過許可を批判する声が高まっています。今後、ドイツ政府がどう対応していくのか注目されます。(ベルリンで片岡正明)