2003年3月29日(土)「しんぶん赤旗」
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【ワシントンで山崎伸治】米国の首都ワシントン。ホワイトハウス前の公園で二十六日行われたイラク戦争に抗議する宗教指導者の集会。参加者の一人が、米軍の爆撃で傷つき、ベッドに横たわるイラクの子どもの写真を掲げて声を上げました。「マスメディアはこうした写真を掲載できない。掲載しない。これは戦争の姿だ。われわれが恥ずべき戦争の姿だ」
エンベディッド(埋めこまれた)メディア−−。イラクに侵攻した米軍と一体で「戦果」発表を垂れ流す米国のメディアに批判があがっています。米軍の犠牲者については、その数から家族の声まで大きく取り上げるのにイラク市民の被害はほとんどとりあげません。
「戦争では非戦闘員が死傷するものだ」。イラク攻撃の開始後の初会見でフランクス中央軍司令官はこう発言しました。ところが、イラク市民の被害が拡大し弁明に追われるようになると、非難の矛先をイラクのフセイン政権に向け、責任をすりかえるようになっています。
二十六日、バグダッド市内アルシャアブ地区の市場が爆撃を受け、民間人十五人が死亡。これが国防総省の記者会見で取り上げられると、国防総省当局者は「残虐なフセイン政権が軍事施設を市民の周辺に置きわざと脅かしているのだ」と言い放ちました。
「そんな言い分にはまったくくみすることはできません。(イラクの)民間人が死亡している責任は米国と英国にあります」。米国のカトリック系平和組織パックス・クリスティのジョニー・ゾコビッチさんは怒っています。
「米国の爆弾、米国の軍事行動が罪のない数百人の子どもやイラクの人々を殺しています。このままでは数千人にものぼることになります。米国の戦争こそがイラク市民にとって大きな脅威になっているのです」
「抑圧された人々を解放する」−−ブッシュ米大統領は二十六日の演説でも、米軍の行動はイラクの人々を“解放”するためだと強調しました。そして、そのため精密兵器を用いて、攻撃目標として軍事施設を正確に選び、民間人の犠牲を最小限に抑える−−というのが、米政府のふれこみでした。
ところが実際には“解放”するはずのイラク市民に犠牲が生まれていることにいらだちを隠せません。それが、すべてをフセイン政権の責任に押しつける国防総省当局者のコメントとなって現れています。
米政府の当初のもくろみに反し、戦争が長期化する可能性もあるなか、イラク戦争に対する米国民の見方に変化が現われ始めています。圧倒的な軍事力を誇る米軍が短期間で勝利を収めるといった幻想が崩れ、戦争のむごたらしさが不安を強めているのです。
民間調査機関のPEW研究センターが二十五日発表した世論調査によると、戦争が「非常にうまくいっている」とみる人は、開戦から二日目、三日目には71%の高率を記録。しかし、その後は52%、38%と日を追って低下しました。
ここに示されているのは、おもに米軍兵士に戦闘による犠牲者や捕虜が出始めたことへの米国民の嫌悪感です。しかしそこにとどまらず、“解放戦争”という政府のもくろみへの疑問という根本的な受け止め方の変化につながる可能性も秘めています。
再び、ホワイトハウス前での抗議行動−−。息子がクウェートに駐留しているというベトナム戦争の帰還兵スティーブン・クレッグホーンさん(53)は、絞り出すように訴えました。
「私の息子は、この国を守るために軍隊に入ったというのに、いまでは“帝国”のために他国で人殺しをしている」
米政府がなによりも恐れているのは、戦争目的が国民の目に明らかになることです。
(ワシントンで山崎伸治 写真も)