2003年4月1日(火)「しんぶん赤旗」
今アメリカでは、全米最大都市のニューヨークを含む百六十二の自治体がイラクに対する先制攻撃に反対する決議を可決し、他の多くの都市でも同様の案が採択待ちの状況にあります。
自治体レベルでのイラク先制攻撃反対決議は、「シティーズ・フォー・ピース」が開始した全米プロジェクトの一つです。ひとたび戦争が起きれば、軍に従事している自国民も含め、多大な人命と経済的負担を強いられる国民ですが、その決断に関して民意が十分に反映されていないのが現状です。このキャンペーンは戦争と平和という大きな課題に対し、一般国民が民主的プロセスにもっと参加できるよう願ってつくられました。
市民の間でどのような議論が交わされ、そして決議がどのように採択されているのか。カリフォルニア州サンフランシスコ郊外のパロアルト市を例にリポートします。
人口約六万一千人(市議会定数七)のパロアルト市では二月十七日に、約一週間に及ぶ議論の末、六対一で採択しました。しかし肝心の市長は決議案が出された瞬間、退席。採択当日も代理人を送りました。市長代理は決議案に唯一の反対票を投じました。「市議会は(決議案を)話し合う適当な場ではない」というのが市長退席の理由でした。
傍聴席には議場に入りきれないほどの市民が集まり決議の行方を見守っていましたが、市長退席に傍聴者の一人、ウィンター・デンバックさんからは「侮辱だ」と抗議がありました。その後も市長には「民主的プロセスを無視した」として、抗議メールが殺到しました。
この日、市議会での発言を申し出た市民は二十人以上。決議案反対を訴えたのは一人だけでした。反対を訴えた男性はフセイン大統領の威嚇を強調、放っておけば第二次大戦のようになると、ブッシュ政権のイラクへの先制武力行使を強く支持しました。しかし、発言台に上がった圧倒的な数の市民は決議案を支持しました。
その多くは、「先制攻撃は侵略戦争であり国際法に反する」、「パロアルト市からも中東に派遣されている若者がたくさんいる。彼らの命を無意味な戦争で失うのはやめよう」、「先の湾岸戦争と経済制裁でイラク国民は苦しみのどん底にある。超大国アメリカがそんな国に先制攻撃を仕掛けるとは非人道極まりない」といったものでした。
中にはイラクの子どもたちを記録した写真を提示したり、戦争にかかるコストで、どれほど市民生活を豊かにできるかを語る人もいました。傍聴席は「ノーウオー」と書かれたポスターを掲げる人で埋まり、これには市議会議員や関係者も圧倒されていました。議場は拍手が禁止されているため、集まった市民はポスターを左右に揺らすことで、発言者への支持を表しました。
決議案を提出したパロアルト市議会議員の一人、ジュディ・クレインバーグ議員は、「この戦争による地方自治体への経済負担と、失われるであろう人命を考えた上で、決議を出すことを決意しました」と語ります。
パロアルト市では決議案が採択され、反戦・平和の声が議会で承認されましたが、これは地元の平和グループが連日のように署名集めをしたり、イラク問題への勉強会を地域で行ってきた結果であり、まさに市民が勝ち取った採決だったといえるでしょう。(米カリフォルニア州在住)