2003年4月2日(水)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長は、一日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、イラク戦争の状況や米国内の「新保守主義」をどうみるか、有事法制の危険な動きなどについて、質問に答えました。聞き手は、朝日新聞編集委員の佐々木芳隆氏でした。
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佐々木 イラクの戦況が刻一刻テレビで伝わるんですが、いま、どういう印象でご覧になっていますか。
志位 米軍が当初予定していた作戦が、思惑通りにいかない、誤算につぐ誤算だというのは、間違いのないことだと思います。
米軍は、三つの仮定の上に軍事作戦をたてたという指摘があります。一つは、イラク軍はたたかわずして投降するだろう。二つ目は、イラク国民は花束をもって歓迎するだろう。三つ目は、世界の世論はいったん軍事行動に踏みきればついてくるだろう。この三つの「だろう」にもとづいて(戦争を)始めたんだけれども、三つとも現在のところ思惑通りにいっていないわけです。
軍事作戦の推移というのは、圧倒的な力を米軍はもっているわけですから、先はなんともいえないのですが、イラク国民にとっては侵略の戦争ですから、心の底からこれを歓迎することはありえないことです。世界の世論についても、こういう無法がやられたからといって、それを容認する流れになることは、絶対にありえないことです。圧倒的な世界の平和を求める世論に逆らい、安保理でも孤立し、外交で失敗し、そのなかで突っ込んだ戦争だという、そこから大きな誤算が生じていると思います。
佐々木 思うようにいかないのは彼らのやっていることに正当性がないことも響くのかもしれませんね。
志位 そのとおりですね。(戦争開始から)十日あまりたちまして、この戦争の無法性、そして非人道性、これが世界の前にあらわになっていると思うのです。
無法性ということでいいますと、やはり国連憲章にもとづく平和のルールを正面からやぶった戦争、すなわち無法な先制攻撃(の戦争)だということです。戦争目的についても、最近は大量破壊兵器の問題などはどっかにいってしまって、「フセイン政権の打倒」「中東の民主化」という完全な内政干渉、主権侵害―これが戦争目的だということを、ブッシュ政権は公言しているわけで、明りょうな侵略戦争という様相を呈してきたと思います。
一方、非人道性が日を追うごとに深刻になっています。米英の研究者がつくっているプロジェクトで「イラク・ボディ・カウント」というプロジェクトがあります。イラクの市民の犠牲者がどれだけいるかという統計をとっているんです。いろいろなメディアをもとに分析した数ですけれども、現在のところ最小で四百三十三人、最大に見積もって五百四十一人の死者が出ているという数字です。
誤爆といわれるけれども、「これだけ誤爆が続いたら、大量殺りくそのものだ」という告発が現地からくるという事態が、いま毎日のように続いている。とりわけイラクの子どもたちのおかれている現状が深刻だということが伝えられる。この民間人の犠牲が、世界の諸国民、アラブの世界、イスラムの世界の人々の怒りを本当に広げています。
こうした無法性と非人道性が日を追うごとに深刻になっている。そして、国際世論がこれにたいする批判の声を日々強めているのが、いまの状況だと思います。
佐々木 最近のアラブ現地の情報では、周辺国から義勇兵を名乗る人たちが戦線に加わる現象まで起きている。そういったアラブ世界全体の屈折した心情をどうみられますか。
志位 アラブ世界の民衆の怒りというのは、沸騰状態に達しているといわれています。アラブ世界というのは、共通の言語をもっているわけですし、同胞意識が非常に強いわけです。ムスリム(イスラム教徒)としての宗教的な連帯感ももっている。
いかにフセイン政権が問題のある政権だとしても、どうみても大義もなければ道理もない、無法そのものの侵略行為がやられているということになりますと、これはアラブ世界全体にたいする侵略だ、イスラム世界全体にたいする侵略だととらえるわけです。この怒りは非常に深いものがあると思います。
背景にはもう一つ、イスラエル・パレスチナ問題があります。イスラエルが、パレスチナの占領地から撤退しない。国連決議で撤退を求められているのに、こちらの方の国連決議は守らない。しかもイスラエルは大量破壊兵器をもっているといわれている。(アメリカは)こちらの方の大量破壊兵器は問題にしない。そしてアメリカはイスラエルの支援をする。もともとアラブの民衆が、このダブルスタンダード(二重基準)に対する深い憤りをもっているところに、今度の侵略行為がやられたということで、怒りの沸騰状態に、いまアラブ世界はあると思うのです。
佐々木 周辺諸国の為政者たちが親米の立場をとろうとすると民衆から反発をかう現象が起きているようですね。
志位 政府の行動について、そういうなかで注目すべきだと思うのは、アラブ連盟が緊急の外相会議をもちまして、クウェート一国は保留したのですけれども、ほかの国は全部一致して「今度の戦争は不法な侵略だ」と批判し、「侵略軍はただちに撤退することを求める」決議が一致してあげられたんですね。
アラブの世界が政府レベルでみても、いろいろな矛盾も抱えながらも一致して、今度の戦争を侵略と断定し、侵略軍の撤退を要求したこの事実は、非常に重いものがあると、私は思います。
佐々木 自爆攻撃というのが誘発される傾向も出ているようですけれども、そういうことも含めて悲惨な戦争を早く終わってほしいですね。
志位 これはやはり侵略という無法なことをやったわけですから、この戦争をただちに中止する、侵略軍が撤退する―これをいま強く求めていくべきですね。そしてこれ以上戦火が拡大して、罪のない民間の方々の犠牲が増えるようなことにならないようにする必要がある。
仮にもバグダッドの市街戦という事態になれば、これはもう民間の死者の数は、いまの事態とは何ケタも違うような悲惨な事態が予想されるわけで、その前に戦争の手を縛るということが強く求められていると思います。
佐々木 ブッシュ政権の先制攻撃、レジーム・チェンジ(体制転覆)という戦略の推進力になった勢力のことを最近は「ネオコン」、いわゆる新保守主義者とよぶようになりまして、その動きが少しずつ目にみえてくるようになりました。「ネオコン」について志位さんは、どのような知見をお持ちですか。
志位 (「ネオコン」とは)いまブッシュ政権の中枢にいるグループ―チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ウルフォウィッツ国防副長官、そしてパール国防政策委員会前責任者、こういう勢力の一連の動きをさしていると思います。
この勢力はシンクタンクもつくって、いろいろな提言などを重ねてきたわけですけれども、私はいまの世界の平和秩序を根底から覆す危険な思想、主張、活動がこのグループにははっきりあらわれていると思います。
志位 一つは、先制攻撃論を公然と振りかざしているということです。
たとえば、「テロリスト国家」あるいは「ならず者国家」と彼らが断定した国に対しては、攻撃されるまで待っていることが間違いなのだ。それより先に先制攻撃することこそ唯一の選択肢なのだということで、先制攻撃論をいわばドクトリンの中心に据えているというのが一つです。
それから二つ目に、私は、この勢力が、アメリカ型の政治体制、あるいは価値観、これを唯一絶対のものとして世界に押しつける、異常な独善主義の立場をむき出しにしていると思うのです。
彼らは「中東の民主化」というスローガンを掲げています。これは、「民主化」というと聞こえがいいけれど、中東の諸国にアメリカ型の政治システムを無理やり外から押しつけるというやり方であるわけです。
私は、「ネオコン」のあるイデオローグの(テレビでの)インタビューを聞きましたけれど、彼が言うには、「イスラム社会自体に問題がある。イスラム教というのは社会的な規制をつくって、社会、政治、経済で独特のシステムをつくっている。これ自体が民主主義と相いれないシステムだ。これ自体が問題なんだ」(という)。まさにイスラムそのものの否定にまで行きつくような立場にたって、アメリカ型の「民主主義」を外から押しつける、価値観を押しつける。一番やってはならないやり方なんですね。
私は、アラブ・イスラム世界にも、その世界としての独特の自主的な民主主義への探求があると思うのです。これを無視して、外からそういうものを押しつけるというのは絶対やってはならないやり方です。
志位 三つ目に、パール氏の議論などに極端に出ていますけれど、国連否定ですね。彼は、(イラク)戦争が起こった直後の三月二十一日に論評で、「有志の連合はわれわれの最良の希望だ」という言い方で、「国連が新しい世界秩序の基礎であるという考え方は幻想であり、リベラル派のうぬぼれの知的瓦礫(がれき)だ」と、つまり国連はもう必要ないのだというところまで極論を言っています。
この勢力が必要とするのは、国連ではなく「有志の連合」です。アメリカに付き従う―今度は三十という国の数を数えて、若干その後付け加わって四十五にしたようですけれど―そういう「有志の連合」があればいいんだという。国連というのはもう「瓦礫」だというところまで言い切るわけですから。これは私は、非常に重大な挑戦をいま、国連憲章に基づく平和秩序は受けていると思うんですよ。
これが通るならば、国連憲章というのは本当にまさに瓦礫のようにうち捨てられて、それに代わるまさに横暴と恐怖の「世界秩序」が押しつけられることになるわけです。それを絶対に許さないというたたかいがいま世界に問われている。国連憲章に基づく平和秩序をいかに横暴から守るかということが、非常に重大な世界の課題になっているということを言いたいですね。
佐々木 イラクの復興ということは気が早いかもしれませんが、「ネオコン」のような主張を持ち込むようなことになると、大変な混乱になるかもしれませんね。
志位 「復興」というのは政権の打倒が前提になっている議論ですから、いま私たちとしてはくみしえない議論です。私たちは戦争の中止を要求しますけれど、イラクの問題は、「混乱」という意味で見ますと、イラクで終わりではないのです。
ある意味でイラクというのは始まりであって、イラクでまずフセイン政権を倒すと、それをテコにして周辺諸国―たとえばシリア、サウジアラビア、ヨルダン、イランなど、そういう国を次々とアメリカのいいなりになっていく国に「体制転換」させていく。そして中東地域全体をアメリカのいいなりの体制につくりかえていく。これをモデルにして、世界のどこにでも同じようなやり方で「体制転換」を迫っていこうという恐ろしいことになります。
イラク戦争に、世界がどう対するかというのは、イラクの問題だけではなくて、二十一世紀の世界の秩序をどうするかという問題に、直接かかわってくると思います。これを絶対に許してはならないという声を、いま本当に広く結集して、無法な世界秩序を押しつけようとする暗黒の勢力の手を縛る必要があるという、非常に大事な場面にきていると思います。
佐々木 欧米では、一つのうねりと表現しても言い過ぎでないような反戦ムードが流れていると思うんですが、日本の国内に目を移しますと意外に反応が目立たないですね。小泉さんはブッシュ大統領のそばに寄りそうという政策選択をしたと思うんですが、内閣支持率が意外に減らないんですね。これはどういう流れだと見ますか。
志位 内閣支持率はいろんな要素の組み合わせで出てくるものですけれども、どの世論調査を見ても日本の世論もだいたい65〜70%が今度の戦争に反対するという数字が出ているのは、当然の動きだと思います。
それから国内でも数万人、数千人の単位でのいろいろな行動が全国で起こっていますし、私たちも起こしています。それから若い人たちが、たとえば高校生が全国から集まって声をあげているのもいまの特徴だと思います。私は大いに希望をもっていまの動きを見ています。
志位 小泉首相について言いますと、私ははっきり言って、ブッシュ大統領のスピーカーだと言ってきたのです。ブッシュ大統領が一時間ぐらい前に記者会見をやると、それをそのまま日本語に訳してしゃべっているだけです。
たとえば戦争を支持する唯一の「根拠」らしいこととして小泉首相が言ったのは、「武装解除の意思がイラクにはないと断定されたので、戦争を支持することにした」というものでした。そこで、党首討論のときに、「断定をだれがしたのか」と聞いたら答えられなかったわけですね。国連は断定していないわけですから。アメリカが勝手に断定したというだけの話だったわけです。
さらに、衆院予算委員会で木島(日出夫)議員が、(小泉首相が)「イラクはさらなる重大な(国連安保理決議)違反を犯した、だから戦争を支持するんだ」と今度は言ったので、「『さらなる重大な違反』というのをいったい国連安保理は認定しているのか」と聞いたら、「認定していません」というわけです。
すべて、アメリカがいったことだけが、戦争支持の「論拠」になっているという本当に恥ずべき―私は「対米追随の思考停止だ」といっているんですけれど、そういうありさまがいま出ているわけで、やはりこの姿は、国民のみなさんの厳しい批判を呼び起こさざるをえないだろうと思っています。
佐々木 イラク戦後の国際秩序がガラッと変わるんじゃないかということをいう人が最近出てまいりまして、欧州とアメリカの亀裂というような事態になったときに、どっちについたらいいのかというような計算高い新秩序論があります。それが小泉さんの選択を正当化する一つの理由にもなっているようですが、どうご覧になりますか。
志位 いわゆる「ネオコン」の人々の理論にとびついて、吹聴している論者が日本国内にいるのは嘆かわしいことだと思うんですが、私はたしかにいま国連憲章にもとづく平和秩序というのは、重大な挑戦を受けていると思います。
しかし、けっして暗黒の力に未来はないと思います。
私は、いろいろジグザグがあるかもしれないけれども、国連憲章というのは二つの世界大戦を経て、人類があれだけの犠牲を払ってつくったルールであって、それを守ろうという力が、世界の諸国、諸国民のレベルでは圧倒的多数です。私は、その力を本当に結集して、いまこのルールを守れというたたかいを全世界的に起こす、日本でも起こしていくということによって、二十一世紀が平和の世紀になるという希望は大いにあると思います。
ただ、そのうえでも、いま起こっているイラク戦争を許したら、これが悪い前例になるわけですから、これを許さないという声を本当にあげていくことが大切ですし、今度は選挙ではそういう審判も下していこうじゃないかということを私たちは呼びかけています。
佐々木 昨年の暮れあたりから、アメリカ政府のサイドから、日本政府に対して、復興プランといったものが戦争が始まる前から示されて、そっちの方に目がずっといっているんですが、どういう役割を日本はいま果たしていくべきか。
志位 ズバリ果たすべき役割は、無法な戦争を支持することをやめることですよ。そして、戦争の中止を求めるという立場に転換する、侵略軍の撤退を求めるという立場に転換するということです。これが一番やるべきことです。
(憲法)九条を持つ国の政府として、これが一番求められていることであって、侵略を当然の前提にして、その先どうするかで、お金出しましょうと買って出るというのは、本当に偽善的な態度だ。やはり、そこの転換を強く求めたいと思います。
佐々木 そこで、イラクに対する対応の仕方と、われわれの身近な北朝鮮の核開発疑惑、あるいは拉致問題では、対応が変わってくるだろうという人もいるんですが、どうご覧になりますか。
志位 私は朝鮮半島の問題というのは、世界のどの国も、そして日本も軍事的衝突を望んでいない。政治的・平和的解決をみんな望んでいるわけです。そうした解決がはかられるために力をつくす必要があるんですが、はっきりいいまして、イラクでああいう無法な戦争を許すことは、朝鮮半島の問題の平和的・政治的解決にとっても悪い前例をつくるということもいわなければなりません。
いまはともかくアメリカは、(北朝鮮にたいしては)イラクと違った対応をするといっていますけれども、イラクで仮にそういう横暴、無法を世界が許してしまったら、世界のどこにつぎにふりかかってくるのか、これは本当にわからない。そういう意味でも、朝鮮半島の問題の本当の平和的解決の意味でも、いまの戦争に反対するということが非常に大事だと思います。
この問題に関連して、よく「日米同盟の重要性」を指摘して、これがあるから戦争支持は当然なんだという議論があります。
私は二ついいたいんですけれど、まず、軍事同盟を結んでいるということは国連憲章を破っていいということの合理化の理由にならないということです。フランスだって、ドイツだって、カナダだって反対しているわけですから。NATO(北大西洋条約機構)に属していても。
もう一つ、日米軍事同盟が、無法な戦争への支持・加担を強要する同盟だったら、そういう同盟が二十一世紀の日本の国に必要かということを問いなおすことも必要ではないか。私たちは日米軍事同盟をなくして、本当の独立国である日本をつくるということを展望していますけれど、そういう日米軍事同盟をつづけていいのかということが深刻に問われているということをいいたいですね。
佐々木 日米同盟というのはもともと軍事同盟という性格をもっているわけですが、その軍事色が近ごろ進行しているなという気がするんですね。
志位 そういう点では“火事場泥棒”的な動きとして非常に危険だと思うのは有事法制ですね。有事法制をこの機に一気にとおしてしまおうという動きが与党の側からもあがっています。
これは決して、日本が攻められたときの備えというんじゃなくて、アメリカが海外で攻めたときの日本の参戦と総動員の備えだというのは、私たちが明らかにしてきたことですが、この動きが、まさに“火事場泥棒”といいますか、“戦争泥棒”といいますか、そういうドサクサにまぎれて、いまきな臭い空気が街に流れていると、これを使って一気呵成(いっきかせい)に通してしまおうという動きには絶対反対するといっておきたいと思います。
佐々木 衆院の早期通過をはかろうという与党の動きが出ていますね。(他の野党と)相談はなさっているんですか。
志位 野党のあいだでそれぞれ立場の違いはあっても、こういうときにドサクサまぎれでやるというやり方にたいする可能な抵抗の共闘は、探求していきたいと思っています。