2003年4月6日(日)「しんぶん赤旗」
米国では、ブッシュ政権がイラクへの軍事侵攻を始めた後も、反戦・平和運動が衰える兆しをみせません。「ベトナム戦争以来」といわれる運動は、人種や宗教、世代の区別なく広がり続けています。そのなかで注目されるのが、各種集会・デモで大動員をかける労働組合の役割です。ベトナム戦争、アフガン軍事侵攻時にもなかった労組による反戦組織が旗揚げし、最大全国組織AFL・CIO(米労働総同盟産別会議)の指導部をつきあげています。(ワシントンで遠藤誠二 写真も)
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ボストン平和集会で、地元教職員組合を代表して参加した高校教師のディアスさんはこう話しました。「政権は戦争に莫大(ばくだい)なお金を費やしている。一方、失業者は増え、学校は閉鎖され、福祉は貧しいまま。われわれ労働者をめぐる環境は悪化の一途をたどっているのです。これが労組が反戦の先頭にたっている理由でもあります」。イラク戦争は米国労働者の生活と結びついているというのです。
小学校教師のスーザンさんは、「アフガン侵攻のときは周りの同僚はみんな戦争支持。でもいまはほとんどがイラク戦争に反対している」といいます。
連邦首都ワシントンでは戦争突入直後の三月二十日に労働者による抗議デモと集会がおこなわれました。組合員千三百万人のAFL・CIO本部事務所前を出発した数百人のデモ隊は、ホワイトハウス前を横切り近隣の広場に結集。集会で、地元AFL・CIOの代表は「史上初めて反戦決議を採択した。これは歴史的なことだ」と声をあげました。
AFL・CIOは二月下旬にフロリダ州で開いた全国理事会で、米国によるイラク単独攻撃に異議をとなえ、国連の査察による問題解決をよびかける反戦決議を採択しました。自国のベトナム侵略戦争や湾岸戦争、一連の対外干渉戦争を一貫して支持してきたAFL・CIOにとってたしかに画期的なことでした。しかし二十日の開戦直後、「大量破壊兵器を取り除く目的を支持する」とスウィーニー議長名の声明を発表してしまいました。後退した指導部の姿勢にたいし、現在、労働者の間では「声明を撤回せよ」との批判が続出しています。
全米規模の労組による反戦組織が旗揚げされたのは、一月十一日のことです。地方労組代表ら有志数十人がシカゴに集まり、「戦争に反対する米国の労働者」(USLAW)を発足させました。三月末現在で、十の全国組織、二百六十七の地方組織などが参加、メンバーは現在約五百万人に膨れ上がっています。英国、ドイツ、パキスタンなど世界各国の労組とも連携し、活動範囲は北米だけでなく国際的に広がっています。
USLAW創設者の一人、ボブ・メレンキャンプ氏は、「これまでの戦争と違うところは、労働者が反戦運動に積極的に参加しているということだ。シカゴなど場所によっては、労組が反戦運動をリードしている。運動に加わっている人は、戦争だけでなく、ブッシュ政権の外交、国内政策を嫌っている人たちだ」と指摘します。
USLAWは、ブッシュ政権が戦争を開始した直後に声明を発表しました。「無実のイラク国民と米兵士が必要のない死に至る」イラク攻撃を「軍事侵攻」と規定し、「国際法と国連憲章に違反する」と非難しました。同時に、「第二次大戦後、新たな戦争を招かないことを目的に築いてきた国際法を粉々にし、一国が他国を正当な理由なしに攻撃する先例となる危険性がある」と警告を発しました。
反戦連合体の一つ「平和と正義のための連合(UFPJ)」代表のレスリー・ケーガンさんは、「今回の運動の特徴は、地方の労組が反戦運動を推し進め、国家レベルにまでインパクトを与えたこと」と強調します。中央からのトップダウン方式とは反対の草の根から広げ根付いた活動は、中央幹部の日和見的な「戦争支持」表明で左右されるほど軟弱ではないといいます。
メレンキャンプ氏は、イラクへの軍事侵攻のみならず、経済的な目的から他国を侵略する米国の「戦争経済」政策が問題視されるべきだと主張します。「今、米国の労働者はこの政策を変えさせる機会をつかんでいる」とまでいいます。