日本共産党

2003年4月7日(月)「しんぶん赤旗」

ブッシュ無法戦争(14)

国民の怒り背景に

変化するアラブの対応


 米英によるイラク戦争が拡大し、市民の被害の急増が伝えられるにつれ、周辺のアラブ諸国に激震が走っています。アラブ連盟としては戦争反対、非協力を早くから宣言していますが、中には米軍基地を置いたり、米国と政治、軍事協力関係にある国もあるなど複雑です。しかしこれらの国も含めて市民の怒りは急速に膨れ上がり政府を揺さぶっています。

 「イラクの子どもが傷ついた姿をみて自分も立ち上がらなければと思った」。カイロのデモ参加者がいいます。集会には一般の主婦や学生が多数つめかけ、エジプトの反戦運動には開戦直後とは異なる変化が起きています。

 イラク戦争開戦前後には政府の非常事態令のデモ禁止のもとで野党関係者や平和・市民団体の活動家を中心に反戦デモが展開されました。それが今、デモ禁止は有名無実になり、ほんとうに広範な層の人々が参加するようになっています。

批判の矛先

 デモのスローガンには、「エジプト政府は米英艦船のスエズ運河通過を認めるな」の要求も目立ちます。批判の矛先が米英だけでなく自国政府にも向けられるようになっているのも特徴です。背景には米英軍の侵略と、民間人多数の死者を出している蛮行に対するアラブ諸国の国民の怒りの沸騰があります。

 そうしたなかエジプトやヨルダンなどこれまで「親米」とされてきた各国政府、首脳の対応にも変化が起きています。

 エジプトのムバラク大統領は開戦直前の十九日、国民向け演説で「エジプトは戦争回避のためにあらゆる努力を行った」と自国政府の弁明。同時に「イラク側に真剣な危機打開への努力が欠如していたのが原因だ」とのべ、結果的に米国の責任を免罪したともとれる発言を行いました。

 ところが、三月三十一日に同大統領は同国軍兵士を前にした演説では「イラク戦争は大惨事を引き起こす」「戦争を拒絶するエジプト政府の立場はこれまでも現在もはっきりしている」と言明。戦争の即時停止を求める姿勢を強調。さらに「イラク軍のたたかいは祖国の名誉と威信を守るためのもの」とのべ、米英のイラク戦争を侵略行為とみなす立場も鮮明にしました。

 「大統領のこの発言には、戦争でイラク市民の犠牲が増え続けることに怒る国民の声と、それが知識層にも広がっていることが相当影響している。大統領はかなり難しいかじ取りを迫られている」。政府の政策諮問委員もつとめたある研究者は指摘します。

 アラブ諸国は、昨年三月のアラブ首脳会議で「イラク戦争完全拒否」の声明を採択して以降、全体としては一貫してイラク戦争反対の立場を表明してきました。しかし個々の政府の対応では、さまざまな温度差が指摘されてきました。

米からの援助

 イラク侵攻の出撃基地を受け入れているカタールやクウェート、バーレーンなどの湾岸諸国とともに、米国からの経済・軍事援助に頼るエジプトやヨルダンなども米英両国への批判が弱いという点では同様でした。エジプトは米国から毎年約二十億ドルに上る援助をうけ、これはイスラエルの約三十億ドルに次ぐ規模です。

 国民の怒りの高まりと並行し、二十一日にはエジプトの著名な作家や学者が連名で開戦前の大統領演説に「異議を唱える」とする声明を発表。この流れはさらに広がり、二十四日には同国のすべての裁判官が加盟する「裁判官クラブ」が米英によるイラク侵略を非難する声明を発表しました。

 声明は「イラクへの侵略を主導する米英を非難し、そのもくろみとたたかうこと、そして米英軍に対する基地や施設の提供を拒否することはすべてのアラブとイスラムの政府にとって義務である」と訴えていました。

 国民の怒りが政府の姿勢を動かすという変化はヨルダンでも起きています。米英両国による無法なイラク戦争とその中東支配戦略が、アラブ諸国民との間の矛盾だけでなくアラブ「親米」国家との矛盾も深めているのです。 (カイロで小泉大介)


隣国ヨルダン政府

戦争反対の姿勢強調

 「米英両国のイラク侵略によって罪のない民間人が殺されている。ジャーナリストは、戦争がどんな目的や言い訳の下で行われようと拒否すべきだ」

 三月末、アンマン市内で行われた反戦デモで、ヨルダン新聞協会のモマニ会長が訴えました。国内では俳優・歌手、弁護士、キリスト教徒、女性など多くの団体が、それぞれ集会やデモを行い、独自の抗議運動を展開しています。

 北部の都市イルビットでは、かつてない四万人規模のデモも行われました。内務省によると、一週間に実施されるデモや集会の数は計百件にも上ります。

 同じアラビア語を話すイラク人が、爆撃などで連日殺害されていることに、隣国ヨルダン国民はとりわけ敏感です。抗議行動への参加者は、「動物のように人が殺されているのを黙ってみていられません」(モハンマドさん=二十二歳=エンジニア)「戦火のイラクの人たちに少しでも連帯を示したくて」(バセルさん=二十八歳=非政府組織職員)と、行動に加わった理由を話します。

 多くの国民は、仕事の合間に同僚と、帰宅後家族とともにテレビが伝えるイラクの被害状況を食い入るようにみながら、米英に対する怒りと親米的な政府への不満を抱いてきました。

 ヨルダン政府は一月末に防衛目的に限る形で米軍の駐留を許可しました。しかし国民の抗議のうねりを前にアブドラ国王は二日、「一人の父親として、イラクのすべての家庭、子どもたち、父親の痛みを理解する」「ヨルダン国民とその一人である私は、子どもや女性の殺害を強く非難する」と語り、戦争反対の姿勢をこれまで以上に強調し始めました。

 ラゲブ首相も同日、米国のネーム駐ヨルダン大使を招き、イラク戦争での民間人の死傷者増大を米英両国の責任として厳しく非難し、軍事行動の即時停止を求めました。政府はさらに、米軍機や部隊の領域通過を認めない方針を繰り返し強調しています。(アンマンで岡崎衆史)


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