2003年4月10日(木)「しんぶん赤旗」
イラクの首都バグダッドに侵攻した米軍は八日、市街地での破壊と殺りくの攻撃作戦をおこなうなか、市内から戦争の実情を報じる記者に攻撃の刃を向けました。その攻撃で、三人の国際ジャーナリストが殺され、多数が負傷しました。
殺されたのはカタールの衛星テレビ、アルジャジーラのタリク・アユーブ記者(35)、ロイター通信のタラス・プロチュク・カメラマン(35)、スペインのテレビ第五チャンネルのホセ・コウソ・カメラマン(37)の三人です。三人のジャーナリストに心からの哀悼を表すとともに、米軍の蛮行に断固抗議します。
戦場取材に犠牲は避けられないといわれますが、八日の出来事は、米英軍の野蛮な戦争の実態を報じる国際報道機関を沈黙させるために意図的におこなった軍事作戦そのものでした。それは現場の状況から明らかです。
アルジャジーラ記者を殺したのは支局建物を襲ったミサイルでした。同時に隣のアブダビ・テレビ支局も狙われました。米軍が日ごろから誇る精密誘導兵器による「ピンポイント」攻撃の結果でなくてなんでしょう。
ロイターの記者たちが殺されたのは、外国報道陣が拠点にしていたホテルを狙った戦車からの砲撃によってです。米軍は「ホテルのロビーから銃撃があったので反撃した」「自衛のためだ」などとしています。しかし、同時刻、同ホテルにいたイギリスの放送記者は「銃撃などなかった」と明言しています。しかも、戦車が狙ったのはロビーではなく、ロイター通信の支局がある十五階、首長国連邦の衛星放送アルアラビアの支局がある十七階でした。狙い撃ちでなくてなんでしょう。
これらのメディアは、米英軍がイラクにたいする戦争を開始してから、大勢の市民が住むバグダッドにたいする米軍の爆撃の実態について世界に発信しつづけている報道機関です。犠牲になったジャーナリストは、戦争の真実を命をかけて世界に伝えてきている目であり、耳であり、口です。いわば世界の人民の良心の証人です。米軍がおこなったのは、その目をつぶし、口を封じ、証人自身を殺害することでした。
この蛮行について会見で追及された米国防総省のクラーク報道官は「戦争は危険だと何度もいった」「バグダッドにいるべきではない」などと開き直りました。日本の一部の専門家は「戦争に記者が巻き込まれるのは避けられない、それが戦争なのだ」などと語っています。とんでもありません。これは「巻き込まれ」た結果などではないし、誤爆や過剰な反応の結果でもありません。真実を取材し伝えるジャーナリスト、報道機関を標的にするという前代未聞の組織的な攻撃作戦の結果なのです。それは、野蛮で残虐、非人道的なイラク侵略戦争の実相を象徴する新たな出来事です。
米英軍の戦争は、国連憲章、国際法をじゅうりんする犯罪行為です。連日にわたる爆撃による一般市民無差別殺害、残虐兵器による市民殺害は人道に反する国際犯罪行為です。米英軍はこの「戦争」に勝つかもしれません。しかし、その犯罪は必ず歴史による審判を免れないでしょう。八日の事件は、まさにその歴史の証人を抹殺しようとする国際犯罪であり、イラク戦争の犯罪性を新たに浮き彫りにするものです。
(三浦一夫・外信部長)