2003年4月11日(金)「しんぶん赤旗」
【ワシントン9日坂口明】バグダッド中心部を制圧したブッシュ米政権は九日、これまでのイラク侵攻を正当化する一方で、戦争終結宣言は「あまりに時期尚早」(フライシャー大統領報道官)と述べ、侵略戦争をあくまで継続する意図を表明しました。
今回のイラク侵略戦争の特徴の一つは、どのような条件が成立すれば戦争が終わるかの「出口戦略」が極めてあいまいにされていることです。
引き合いに出される第二次世界大戦の対日戦争では、連合国が降伏条件を示したポツダム宣言を天皇制政府が受諾し、無条件降伏を表明して戦争は終わりました。
ところがイラク戦争は、イラクの「政権交代」を外部の軍事力で強行すること自体を目的としています。戦後管理を国連に委ねる意図もありません。
イラク当局者の降伏表明も想定されません。ラムズフェルド米国防長官は今後の課題としてフセイン政権指導者の捕捉、戦争捕虜の帰還、大量破壊兵器の捜索などをあげました。結局のところ、米国自身が満足ゆく結果を得たと判断しない限り戦争は終わらない仕組みです。これでは不必要に戦争を長引かせ、被害を拡大させます。
三週間の戦争の経過も疑問だらけです。イラク攻撃開始の理由としてあれほど議論されたイラクの大量破壊兵器(WMD)開発や国際テロリスト支援については、侵攻が進んでも確実な証拠は出てきません。「WMD発見は二次的目標だ」との国防総省クラーク報道官の発言(四日)は、ブッシュ政権の道義的退廃を浮かび上がらせています。
米国が軍事的勝利を宣言しようとも、侵略戦争の違法性は、いささかも正当化されません。逆に戦争の経過は、その無法性をいよいよ明らかにしています。
米国は、侵攻を継続する一方で、主要な軍事連合相手の英国の主張も聞き入れず、イラク単独軍事支配の既成事実を積み重ねようとしています。
その橋頭堡(きょうとうほ)となる国防総省復興人道援助室(ORHA)のウォルターズ退役将軍らは八日、初めてイラク入りし、南部のウムカスルで作業を開始。米国はイラクの全面占領を待たずに軍事支配を具体化しつつあります。
「占領ではなく解放戦争だ」という宣伝を「裏付ける」ため米国は六日、亡命イラク人の反フセイン組織、イラク国民会議のチャラビ氏をイラク南部に米軍機で送り込みました。しかし米国は実際には、同氏をかいらい政権の長にする意図はありません。
これらの動きは、米国によるイラク侵略の狙いが、「民主化」どころか、石油資源を含むイラクの占領と、先制攻撃戦争の先例として米国の覇権的地位への他国の挑戦を封じる点にあることを、米国自身の行動で裏付けています。
「イスラエルは一九六七年の第三次中東戦争で勝ったが、その結果、パレスチナ解放機構(PLO)が生まれた。米国は九一年の湾岸戦争で勝ったがアルカイダが生まれた。問題は今度は何が出てくるかだ」─パキスタンの外交政策研究家フセイン・ハカニ氏は、こう問題提起し、イラク侵攻の反作用を警戒します(USAトゥデー紙九日付)。
アフガニスタンでは九日、米軍が民間人十一人を殺害し、一昨年十月からのアフガニスタン戦争が、まだ続いていることを想起させました。イラクでの戦争も、まだ続ける構えです。しかもラムズフェルド国防長官を先頭に「次の攻撃目標はシリアだ」との信号を送り、イラク侵略が「世界先制攻撃戦争」の序曲にすぎないと示唆しています。