2003年4月12日(土)「しんぶん赤旗」
米英軍の戦争がもたらしたイラクの無政府状態、法と秩序の崩壊によって、このままでは人道的な大惨事が引き起こされる−人道支援にかかわる国連の各組織が悲痛な声をあげています。
九日にヨルダンの首都アンマンでおこなわれた国連人道援助機関の共同記者会見の冒頭、国連イラク人道調整官事務所(UNHCOI)のディビッド・ウィムハースト報道官は、「人道援助のためには、困っている人々のところに安全にいける環境が確保されることが必要だ」とのべ、人道援助のための条件が戦争で破壊されていると強調しました。
「水は絶対に必要だ。清浄化された安全な水がすぐに供給されなければ、医療スタッフは傷を洗浄し、包帯を取り換え、もっとも基本的な衛生状態を保障することができない。創傷や手術の跡はすぐに消毒されなければ、体温が急上昇して化のうしてしまう」と訴えました。
世界保健機関(WHO)の報道官は、医薬品が底をつき、水道と電気がストップしたもとでの治療環境がいかにひどいものであるかを生々しく告発しました。
「手術そのものが治療というより命を脅かすものとなってしまう」のです。また、電気なしでは「石油ランプや懐中電灯の明かりで手術を施さなくてはならない」と同報道官は訴えます。
ワクチンや医薬品、輸血用血液を適正温度で保存できなければ、それらを安全に使用することも不可能です。滅菌状態が維持できず、「感染症が流行し、命を脅かす結果をもたらす」ことにもなります。多すぎる負傷者全員に治療を施すことができず、みすみす見殺しにするしかない「医療スタッフのストレスと心労は、強調してもしすぎることはない」ものです。
国連人口基金(UNFPA)が入手した報告によると、戦争開始以来、「流産、早産および帝王切開が急増」しています。イラクでは毎日約二千人が出産していると推定され、そのうち約四百人がバグダッドでの出産です。ただでさえ戦争と長期にわたる経済制裁により「容認しがたいほど」危険な健康状態にあった妊婦たちは、ますます命の危険にさらされています。UNFPAの報道官は、彼女たちが「間接的な犠牲者になるかもしれない」と警告しました。
治安悪化と略奪が横行するなかで、実際に活動の停止を余儀なくされる援助機関も増えています。バグダッドでは、関係者二名が行方不明となった「国境なき医師団」、カナダ人職員が銃撃戦に巻き込まれ死亡した赤十字国際委員会が、活動を停止しました。
共通してあがっているのは、これまで人道援助機関が築き上げてきた援助体制を壊滅状態におとしいれた米英軍の責任をきびしく問う声です。
ユニセフの代表は、戦争前には「イラク国内に、人命救助のためのワクチン接種や栄養摂取の活動、教育などの遂行を助けるネットワークとシステムを持っていた」が、「略奪と混乱、秩序の崩壊で、それらが完全に消滅あるいは崩壊しているかもしれないと強く懸念している」とのべました。
この無秩序状態が続いていることで、戦争開始前から準備してきた医薬品や食料などの援助物資をイラクの国民に届けることもできなくなっています。世界食糧計画(WFP)の報道官は、秩序がないもとでは「必要とされている四十八万トンの食料支援を人びとのもとに届けることはきわめて困難」とのべています。少なくとも占領軍には、民間人に安全な環境を保ち、人道支援が安全におこなえるよう保障するという国際人道法上の責任がある、というのが関係者の主張です。
これにたいして米英軍は現在、イラク国内での救助活動を統制する「人道作戦センター」(HOC)を設けています。イラクで人道援助活動をおこなってきた関係者は、このHOCを廃止し、その業務を国連に移管することを要求しています。軍事行動と人道援助活動が混同され、人道援助活動そのものが危険にさらされるからです。
英国の援助団体オックスファムのヨルダン駐在政策顧問ジョー・ニコルス氏は、「イラク全土への立ち入りを、軍が管理しようとするのは不当だ。NGO(非政府組織)は米英の管理下にある地域だけでなく、求められる場所ならどこでも活動する必要がある」とのべています。国連当局者も、「米軍に、どの援助がどこのだれに届けられるのか指図されたくない」とのべています。
ヨルダン政府当局者からは、米国が「軍事目的を達成するために人道の装いをまとう」ことを狙っている、との声もあがっています。
(党国際局 伊藤知代)