2003年4月15日(火)「しんぶん赤旗」
与党が十四日、野党との合意がないまま個人情報保護法案の単独審議を特別委員会で強行したことは重大です。
もともと同委員会には野党案も提案されており、与党単独で審議するのは異例中の異例です。国民の不安は強まるばかりです。
同法案は、先週行われた本会議の質疑を通じても、根本的な問題はなんら解決していないことが浮かび上がりました。
報道は規制の対象外ですが、報道目的であるか否かを判断するのは主務大臣であり、報道に介入する余地を残す危険な構造はそのままです。
なぜ野党案のように直接の行政機関から独立した第三者機関にしないのか−。小泉首相は「行政改革の流れに反する」と拒否しました。
独立した監視機関の設置は、EU(欧州連合)も個人情報保護指令で欧州各国に指示し、多くの国々で実施しており国際標準です。
国民のプライバシーの権利や報道・表現の自由を守るため、公正・中立の機関を設置することは、「行革に逆行」どころか、国民のための行政の改革そのものです。
政府案は、個人情報の取得、利用、第三者への提供などに本人が関与できる「自己情報コントロール権」を明確にしていません。これは、この権利を明記した野党案と比べて大きな欠陥です。
「さまざまな見解があり明確な概念として確立していない」という首相答弁は、まったくの言い逃れです。この権利は、OECD(経済協力開発機構)の勧告でも明記しており、国際的に確立した原則です。
しかし、政府案は個人情報の目的外の利用や提供、自分の情報の開示と訂正、停止に広範な例外規定を設けており、抜け穴だらけです。野党案のように、この権利を保障することこそ必要です。
政府案に、思想・信条、病歴、犯罪歴などセンシティブ情報の原則収集禁止の規定がないことは、国民の不安を呼んでいます。
首相が「あらかじめ類型的に定義することはきわめて困難」と否定するのは、人権感覚のなさを示すだけです。すでにこの規定は多くの国が設け、東京、神奈川、大阪をはじめ個人情報保護条例を制定する地方自治体でも約六割が設けています。
行政機関の個人情報保護法案も問題は残されたままです。その典型が批判を受けて設けた罰則規定です。
防衛庁リスト作成事件の場合は処罰されるか−。首相は「どのような事実認定がなされるかによる」として適用を明言しません。結局は「職務の用」があれば、この事件でも処罰されない恐れが強いのです。
すでに住民基本台帳ネットワークが個人情報保護の仕組みもないままに始動しています。官庁が保有する個人情報をデータマッチング(情報の照合、結合)し、一括管理されるのでは、と危ぐの声が出ています。
改めて浮き彫りになってきたのは、国民の権利より個人情報を扱う民間企業や官庁の都合、利便性を優先し、その円滑な運営の範囲内でしか権利が守られないことです。
個人情報保護という国民の権利にかかわる法案を、与党単独で審議入りするのは、国民の危ぐをいっそう裏付けるものです。
与党が重大な問題点はそのままに、早期の衆院通過を図ることは許せません。野党案が示しているように法案を抜本的に見直すべきです。