2003年4月18日(金)「しんぶん赤旗」
十六、十七日の両日ギリシャのアテネで行われた欧州連合(EU)首脳会議と中東欧諸国十カ国による加盟条約調印で、EUは現十五カ国から二十五カ国への拡大へと具体的な一歩を進めました。EU拡大は、第二次大戦後の欧州分断に終止符を打つ「歴史的」事件であることは間違いありませんが、その一方で、拡大にともなう機構改革など待ったなしの課題にも直面しています。とりわけイラク問題をめぐる路線対立が拡大EUの将来に影を落としています。(パリで浅田信幸)
「きょうは二つの陣営に分断された大陸の分裂を克服する歴史的な日だ」─EU現議長国ギリシャのシミティス首相は十六日、調印式の式典で誇らしげにのべました。
二十世紀に二度の大戦で荒廃した欧州は来年五月、EUという機構のもとに人口四億五千三百万人の巨大な政治・経済圏に統一されます。
独仏の歴史的対立に終止符を打った欧州統合の理念は「平和、安定、繁栄」の言葉で表されます。統合の第一歩をしるした一九五二年石炭鉄鋼共同体(ECSC)は、軍事に直結する戦略産業であったからこそ国際管理のもとに置くことが決意され、同設立条約の前文冒頭で「世界平和の擁護」がうたわれました。
ところが厳粛かつ未来への明るい展望に満ちたはずの加盟調印式を覆ったのは、イラク戦争をめぐる深刻な内部分裂でした。米国が強行した先制攻撃を支持するか、平和解決をめざすかで、深い亀裂が生まれました。それはEUの理念をめぐる対立でもあったといえます。
「米国の単独行動主義にとことん追従することで、(戦争支持の諸国は)法による紛争の平和解決というEUの本質そのものを否定した」(仏紙リベラシオン)
現在の十五の加盟国でイラク戦争支持を明確にした国は英国を先頭に五カ国。EU内部では少数派にとどまりました。ところが新規加盟国のうち八カ国(北大西洋条約機構=NATO=加盟国・候補国でもあります)は戦争支持を表明しており、拡大EUでは多数派となります。
また中東欧諸国は、経済政策では米国型自由主義モデルの移入に熱心だといわれます。仏独などが中心となって推進している労働者や国民の生活と権利を保護する「社会的欧州」の建設には関心が薄く、EUを単なる「自由経済地域」とみているとの評価がフランスでは一般的です。
しかし、イラク戦争では中東欧諸国でも国民世論は戦争反対が圧倒的多数を占めています。政権交代とともに政策が変わることもありえます。また、何よりもEUには半世紀にわたる努力の蓄積があります。欧州統合の理念の行方に注目しておく必要がありそうです。