2003年4月20日(日)「しんぶん赤旗」
欧州連合(EU)は十六、十七日にアテネで開いた首脳会議で、イラク復興における「国連の中心的役割」をこれまでより明確化した「イラクに関する議長声明」を一致して採択しました。イラクでは米軍が引き続き軍事作戦を継続しながら、事実上の占領統治の既成事実づくりを進めています。声明の内容は、この米国による単独行動主義をけん制するものです。イラク問題の今後の国際社会の動きに重要な一石を投じました。(パリで浅田信幸)
今回の会議の特徴は、一挙に二十五カ国に拡大するEUが新規加盟調印国十カ国の賛同も得て、“国連中心”を共通の立場として確認したことです。議長声明は、「イラク人による自主的統治にいたる過程を含めて、国連は中心的役割を果たさなければならない」とし、人道援助の分野だけでなく、米国が一方的に着手し始めている暫定行政の段階も含めて国連の下に置くべきだとの立場を表明しました。
イラクに侵攻し、そのまま居座っている米軍については、占領の是非については言及を避けつつ、その役割については「人道援助」と「安全な環境の確保」の面にだけ言及して、「責任を負う」と、戦争がもたらした無秩序からの回復の責任を提起しつつ、長期駐留を既成事実化させない立場を示唆しています。
またEU自体としてイラクの政治的、経済的復興に「重要な役割」を担うことを約束するとともに、世界銀行など国際金融機関の復興参加に支持を表明しました。
イラク戦争をめぐってはEUは武力行使に反対し、平和解決を求めたフランス、ドイツなどと、米国に追随し戦争を支持した英国やスペイン、旧東欧諸国とに分裂しました。しかしこの声明の特徴は、英、スペイン、仏、独の両派に属する四カ国が文案づくりを主導し、その合意案が他の十一カ国首脳に提示され承認を得たというその成立過程にもあります。
戦争それ自体についての評価ではEU内に依然として意見の違いが続いています。しかしイラクの今後について「国連中心」を一致確認したこの合意は、国連に人道援助の仕事しか認めず米国主導の復興を進めようとしているブッシュ政権とは正面からぶつからざるをえません。
パウエル米国務長官は七日、米英首脳会議に先立って「政治的リスクを負い、命を犠牲にした連合(米英)が、復興局面でもイラク国民が選ぶ政権の樹立でも、支配的役割を担うべきだ」とのべています。EU声明はこうした言明への挑戦となっています。
ただ米国支持を明確にしているデンマークなど、米国の要請に応じてイラクの治安安定化部隊の派遣準備を進めている国もあり、EU内部には複雑な状況があります。
米国がイラク復興での主導権を譲ろうとしません。そのなかで、今後国連安保理での討論やさまざまな外交努力を通じてEUのこの合意がどのように現実化していくかが注目されています。