2003年4月21日(月)「しんぶん赤旗」
段ボールに思いを書いた手製のプラカード、カラープリントした自作のビラをもって、「イラク戦争やめて」「有事法制反対」と訴えている人がいます。イラストレーターの徳重りこさん(27)。カラフルなビラをたくさんつくり、新作には「STOP有事法制 憲法にも国際法にも違反」の言葉がつづられています。
地球規模で広がった反戦・平和を求める声。しかしアメリカは、圧倒的な軍事力でイラクを攻撃しました。日々テレビに映し出される死傷者や崩壊した建物…。「爆撃で両手をなくした十二歳のアリ君は、『これが解放なの』といいながら、あふれる涙を自分でぬぐうこともできなかった。イラクの人たちにあったはずの可能性をアメリカが奪った。その責任はだれがとる?」
徳重さんはプラカードを持って電車に乗り、注目している人を見るや、すかさず語りかけます。ピースウオークの行動予定を印刷した手のひら大のカードを手渡します。結びついた人たちと一緒に、六本木などのカフェやバーに飛び込みでビラの張り出しをお願いします。これまで五十軒ほどの店に協力してもらっています。
行動の原点は、「報道されていない事実を知らせたい」ということ。一月ごろ、イラク戦争が近づいていることを感じたとき、大好きな詩の一編を思い出しました。
「何よりも、私の身体(からだ)、そして魂よ、精気のぬけた観客とならないよう気をつけなければならない」(エメ・セゼール『帰郷ノート』から。翻訳・徳重さん)。自分は「精気の抜けた観客」になってないだろうかと自問しました。
「黙っていたら、戦争に賛成していることと同じ」と考えた徳重さん。ホームページで探した末に、米軍横田基地(東京)前のピースウオークに参加しました。思ったより少なかった参加者。そこで知った「ワールド・ピース・ナウ」などの行動。「知ったら参加する人はたくさんいるはず。私たちにできるやり方で広げたい」。でもお金のかかる宣伝はできない――。友人と思いついたのが口コミ作戦でした。
すべての人が自分たちと同じ思いではないことも、わかってきました。「許せないよね、この戦争」「私も参加したい」。そうした反響の一方で、「平和、平和と無責任に言うが、北朝鮮が攻めてきたらどうするんだ」「フセインを放っておいてもいいのか。アメリカがやってくれて良かった」という人も少なくありませんでした。多くは五十代以上の男性でした。
「『フセインを倒すためなら、イラクの子どもたちが犠牲になったり、何十万も難民になってもいいのでしょうか』というと、むすっとした顔で黙って去ってしまう人がほとんど。ちゃんとお互いの意見を言って、議論をしたいのに」。“戦争反対”“平和的解決を”がメーンストリーム(主流)でないなら、自分たちでメーンストリームにしちゃおう――。あちこちの学習会に顔を出し、必死に考えました。
そんな徳重さんを勇気づけたのは、アジアやアラブの国々が、アメリカの圧力を恐れず、「国連を中心とした解決を」と声をあげたことでした。これまで、「理想を掲げる運動だと思っていた」ピースムーブメント。いまは、「戦争や核兵器は、確実に人を殺し、自然を破壊する。話し合いや国際ルールによる平和的解決こそが、何よりも現実的な手段なのだと思うようになりました」といいます。上の世代が守ってきた「平和のたすき」をつなげたい――。
小さいころ、父親の仕事の都合でアメリカで生活した徳重さんは、「自分はまわりの人たち(欧米人)とは違う」ことを痛切に感じてきました。おとなになってから訪ねたアジアで抱いたのは、一体感にも似た親近感。同時に、「侵略戦争の反省も謝罪もしない日本」の孤立した姿勢も再確認しました。
いま、アジアの一員として世界の人たちとつながっていくべきときに、独りアメリカの方ばかりを向いている日本政府に、危険なにおいを感じずにはいられません。「先制攻撃は国際法違反。国民の命や人権、自由を奪って、まるでアジアの小アメリカのように、先制攻撃をするならず者国家になろうとしている。それが有事法制だと思う」
これから自分たちはどこに向かおうとしているのか――。「少なくとも、有事法制をもつような国づくりではないですよね」という徳重さん。
「クラスター爆弾を自衛隊が持っていることもわかった。大量破壊兵器でしょう、信じられません。武力を持たないと決めた平和憲法は、まるで骨粗しょう症みたいにされてしまっている。もう一度肉づけをしていかなくちゃと思います」(丸山 聡子記者)
東京・芝公園で開かれた学生平和集会「ピース・ムーブメント」(十九日)には全国から約五百人が集まりました。戦争を「しかたがない」とあきらめるのではなく、どうしたらなくせるのかをいっしょに考えていこう、とアピールしました。
信州大学一年生の笠原芳恵さん(19)は、先頭に立って集会の宣伝をしてきました。
「世界の世論が無視された形でイラク戦争が始まってしまった。最近まで、反戦運動はなんて無力なんだろうとさめた目でみていた」といいます。入学後、出会った先輩が歴史の流れを教えてくれました。平和を訴える人たちがいたからこそ、世界は戦争違法化へと進んできたのだ、と。
「それで考え方が変わりました。今の平和があるのは昔の人の努力があったからだって。私たちの活動も、きっと未来の平和の役に立ちます」
名古屋大学一年生の及川沙織さん(18)は「あきらめたらダメ」といいます。高校生平和大集会(三月二十一日、東京)にも参加しました。「何もしなかったら変わらない。行動すれば、小さな力でも、変わる可能性があると思うんです」
自作のビラで集会への参加を呼びかけてきました。それを見て「あ、行きたいです」と声をあげた男子学生もいました。
「対話すれば、戦争はやっぱりだめだよね、となる。イラクも悪いけどアメリカのやり方も間違っているって。いま、平和サークルをつくりたいなって話しています」
和光大学(東京都)では、四十数人が宣伝をしてきました。呼びかけ人の一人、大内響(ひびき)さん(20)=三年生=は、学生総数三千人のうち「一割くらいには声をかけたんじゃないかな」といいます。
「イラク戦争は終わったわけじゃない」「無関心になっちゃいけない。これから、どう平和をつくっていくのか考えよう」と呼びかけました。「丁寧に話をしていくと、多くの学生が平和を望んでいることが分かる」と大内さん。
呼びかけにこたえ、新入生七人が集会に参加しました。渡辺みさとさん(18)もその一人。高校では、まじめに戦争や平和について話す機会がなかったといいます。「宣伝しているのを見てうれしくなりました。私みたいに、きっかけがないだけで、考える場を求めている人は多いと思います。私も、周りの人に知らせていきたいです」
集会の司会をした日本大学(東京都)の上沢真平さん(21)は話します。「ここからが始まりです。僕も学内で平和や社会について学べる仲間を集めて、平和の流れをつくっていきたい」(和田 肇記者)
「平和のルールをまもろう」の声をふたたび日本と世界に発信しよう、とよびかける全国高校生平和大集会が五月四日(日)午後一時半から、東京・渋谷駅近くの宮下公園でひらかれます。イラク戦争開始直後の三月二十一日に千五百人が集まった全国高校生平和大集会の実行委員会が主催します。
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