2003年5月5日(月)「しんぶん赤旗」
三日に東京・日比谷公会堂で開かれた「2003年5・3憲法集会」でおこなった日本共産党の志位和夫委員長の発言(大要)は次のとおりです。
みなさん、こんにちは(「こんにちは」の声)。日本共産党の志位和夫でございます。きょうは、会場いっぱいの多くのみなさんがようこそおこしくださいました。まことにありがとうございます。(拍手)
私たちは、今年の憲法記念日を、イラク戦争がおこなわれ、有事三法案強行の危険が切迫するなど、戦争と平和をめぐる大激動のなかで迎えました。
私は、憲法九条の恒久平和主義には、二つの意味があると思います。一つは、日本がかつてのような侵略国家にならないこと。もう一つは、国連憲章の平和のルールを日本が世界に率先して実行することです。すなわち、「自ら戦争をしない」「他の国にも戦争をさせない」――ここに憲法九条の真髄があるのではないでしょうか。(拍手)
小泉・自民党政治というのは、この両方において、憲法九条を泥靴でふみつけにする政治をおこなっています。
しかし、日本国民のなかには、憲法九条の「戦争をしない」「戦争をさせない」という精神にたって、平和を守りぬこうという熱い思いが脈々と流れていると、私たちは信じています。きょうのこの集会には、その熱い思いが結集しています。
みなさん、この記念すべき日を、新たな出発点にして、世界に誇る憲法九条を守りぬく運動を、大きく広げていこうではありませんか。(拍手)
世界では、イラク戦争にたいして、空前の人びとが心を痛め、怒り、行動しました。
昨日、米国のブッシュ大統領は、米空母のうえで、「戦争に勝利した」「イラクを解放した」と、誇らしげに宣言しました。たしかに米軍は軍事力では、イラク制圧に成功したかもしれません。しかし、私は、これはまともな「勝利」とはよべないし、ましてや「解放」ともよべないと思います。(拍手)
ほんとうの勝利とは、正義と道理にたったものだけが口にできる言葉であり、ほんとうの解放とは、その国の国民自身が国の主人公になったときに、はじめていえる言葉ではないでしょうか(「そうだ」の声、拍手)。アメリカには、その言葉を口にする資格はありません。(「そうだ」の声、タンバリンの音と大きな拍手)
イラク戦争にかかわって、国際社会が、いまけっして許してはならないことを、私は、二つ強調したい。
一つは、この無法な戦争を追認してはならないということであります(拍手)。戦争の帰趨(きすう)にかかわりなく、この戦争が、国連憲章を蹂躙(じゅうりん)した無法な侵略戦争であったこと、数千人といわれる罪なき市民の命を奪った非人道的な戦争であったこと――このことにいささかも変わりはありません。失われた命や、粉々にちぎれた子どもたちの手足は、二度ともどってはきません。この戦争で、いったいどういう無法と犯罪がおこなわれたのか。国際社会は検証し、追及を続けるべきではないでしょうか。(「そうだ」の声、拍手)
そして、この無法な戦争に、米国いいなりの思考停止でまっさきに支持をあたえた小泉政権と、自民党、公明党などの責任も、きびしく問われなければなりません。(「そうだ」の声、拍手)
小泉首相は、イラク戦争支持の弁明のために、さまざまな言葉をのべましたが、みなむなしく響く言葉ばかりでした。ぜひ首相がのべた言葉を、検証してみてください。一時間ぐらい前に、ブッシュ大統領が演説したことを、日本語に訳して話していただけですよ(笑い)。こんな政権に日本のかじ取りをする資格はないということを、はっきりのべておきたいと思うのであります。(大きな拍手)
もう一つは、新しい植民地主義を許さないということであります。米国は無法な戦争のうえに、無法な軍事占領をおこない、それを梃子(てこ)に米国いいなりの政権を樹立することをめざしています。しかし、このくわだては、すでに激しい矛盾に出合っています。「サダム・ノー、アメリカ・ノー」を叫ぶイラク国民の運動が広がっています。それに米軍が発砲し、ここでも死傷者がでる。私は、新しい植民地主義には、けっして未来はないと考えるものであります。(拍手)
イラクの復興支援の主体となりうるのは、唯一国連のみであります。国際社会は、このことを確認し、その枠組みのなかで、すみやかに米英の侵略軍を撤退させるべきであります。(「そうだ」の声、拍手)
その重要な一歩として、私は、国連査察団を復帰させることを提案したい(拍手)。国連の査察団による大量破壊兵器の査察を再開させるべきであります。大量破壊兵器の問題は、米英軍が戦争をはじめるさいに、最大の口実とした問題でした。しかし、いまだに見つかっていないではありませんか。「戦争をはじめればすぐに見つかる」と言っていたラムズフェルド国防長官も、いまになって「発見は困難」(どよめき)だといいだしました。国連査察団の責任者であるブリクス委員長は「アメリカが大量破壊兵器を発見したといっても信用されない」(どよめきと拍手、「そうだ」の声)とはっきりのべ、国連による査察再開を求めました。
こういうジョークがいわれております。「大統領、大量破壊兵器をとうとう発見しました」「どこでだ」「わが軍の兵器庫です」(爆笑)。アメリカが「発見」といっても信用されません。
国連の査察団を、イラクに復帰させて、査察を再開し、真実を世界に明らかにし、白黒をはっきりさせ、この問題の解決をきっぱりはかろうではありませんか。(大きな拍手、「そうだ」の声)
それでは、世界の平和のルールをとりもどしていく希望はあるでしょうか。私は、危険は直視すべきだが、おおいに希望はあると思っています。
今度の戦争ほど、国連が戦争を食い止めるための力と機能を発揮したことはありませんでした。半年間にわたって国連安保理事会を舞台にした激しい外交的なたたかいがおこなわれました。そのなかで米国は、二度にわたって外交では敗北をしました。
第一の敗北は、昨年十月はじめに米英が提出した武力行使容認の決議案が拒否され、十一月はじめに安保理決議一四四一という査察による平和解決をすすめる決議が採択されたことでありました。
第二の敗北は、今年二月に米英が提出した、査察を中断して戦争にきりかえる決議案が拒否されたことでした。米国は血眼になって、多数派工作をおこないましたが、国連安保理はこの決議案をついに受け入れなかったのです。
こうして、国連安保理は、半年間にわたって超大国の戦争を食い止めた。そして米国に、最後まで、戦争を容認する国連の“錦の御旗”をわたさなかったではありませんか(「そうだ」の声、拍手)。力ずくで戦争に訴えはしたが、米国は外交では敗北したという事実を、確認しておこうではありませんか。(大きな拍手)
実は、こんなことは国連の歴史では、かつてないことなのです。
一九五〇年代の終わりから七〇年代前半にかけて十数年にもおよぶベトナム侵略戦争では、国連は無力でした。国連は十数年の間、ベトナム戦争を食い止めるために、ただの一度の決議も、ただの一度の措置も、とることはできませんでした。
ベトナム人民の正義のたたかいと、世界の平和運動の力によって、侵略は撃退され、歴史的な勝利をかちとりましたが、国連は無力だったのです。今回のイラク戦争では、堂々と侵略反対の声をあげた非同盟運動も、ベトナム侵略戦争のときには、侵略反対の声をあげることができませんでした。
この時と比較しますと、イラク戦争では、国連が超大国の戦争を食い止めるために、その本来の力と機能を発揮したといえるのではないでしょうか。これは文字どおり史上初めてのできごとです。
そしてそれをささえたのが、世界の諸国民の平和のたたかいでした。私は、この諸国民の平和のたたかいの歴史的な意義は、その規模が史上空前のものだったというだけではないと思います。「国連憲章を守れ」というスローガンを正面からかかげて、世界中で数千万という人々がたちあがった初めてのたたかいとして、歴史的意義をもつものであることを、強調したいと思うのであります。(大きな拍手)
あるドイツの国際法の研究者は、「世界的な反戦運動によって国際法は強化された」とのべました。私は、その通りと思う。法というものは、人々の自らの血となり肉となってこそ、真の力をもつものです。
イラク戦争反対のたたかいは、国連憲章を守るたたかいを新たな段階に高めたたたかいとして、人類の歴史に記録されるでしょう。これは必ず二十一世紀の未来に生きるたたかいとなります。国連が超大国の戦争に無力だった時代から、それを食い止める力を発揮しつつある時代へ、二十世紀から二十一世紀へというスケールでみると、人類の歴史にはたしかな進歩が刻まれています。ここに確信をもって、世界の平和のルールを取りもどし、築きあげる、新たなたたかいにのぞもうではありませんか。(タンバリンの音、大きな拍手)
目を日本にうつしてみますと、イラク戦争を支持した勢力によって、有事三法案の強行がはかられようとしています。
この法案の本質は、この一年あまりの国会論戦で、すでに明らかです。それは「日本が攻められたさいの備え」の法案ではありません。米軍の先制攻撃の戦争に、日本が武力行使で参戦し、国民を罰則つきで強制動員する。「攻めるときの備え」をつくるというのが、この法案の本質です。
私は、国会の論戦で明らかになった二つの重大問題について、ご報告しておきたいと思います。
第一は、この法律が、海外での自衛隊の武力行使に、はじめて公然と道を開くものとなっているということです。
この法案は、「わが国への武力攻撃」に対処するということが建前ですが、ここでいう「わが国」とは何か。まずここが、実はくせものなのです。わが党が国会でこのことをただしますと、「わが国」とは、日本の領土だけでなく、公海上の自衛隊艦船なども「わが国」だという。これが政府の答弁です。すなわち、いま、「テロ特措法」でインド洋に派遣されているイージス艦も「わが国」となる。「周辺事態法」でアジアの各地に派遣される自衛艦隊も「わが国」となる。世界の七つの海が、どこでも「わが国」(笑い)になりうるというわけです。
そして、ここが危ない状況――「武力攻撃が予測される事態」になれば、有事法制が動きだします。そして、相手から攻撃されれば、「武力の行使」で対抗するということは政府も答弁でみとめました。
一九九九年に「周辺事態法」が強行されましたが、この法律では、「海外での武力の行使をしない」ことが建前とされています。危ないところでは活動できないというのが建前です。わが党が、「米軍を支援している自衛隊が危なくなったらどうするのか」と質問しますと、「その場から逃げるのです」(笑い)という答弁です。そんなことができるのかどうかは別にして、これがともかくも建前だったのです。しかし有事法制では危なくなったら法律を発動し、その場にふみとどまり、武力の行使をふくめた活動をおこなう。攻撃されたら応戦することになる。これがこの法案に書いてあることです。
みなさん、憲法違反の海外での武力行使法案を、絶対に許すわけにはいかないではありませんか。(拍手)
第二は、米軍の先制攻撃の戦争に参戦する法律だということです。
わが党の議員が、先日国会で質問しました。「米国の先制攻撃の戦争でも、この法律を発動するのか」。この質問に、石破防衛庁長官は、「武力攻撃事態、あるいは予測事態に至ったという場合には、この法案が適用される。米国が先制攻撃をやるとは考えていないが――イラク戦争があったのにまだこんなことを言っているのですね(爆笑)――、そうであったらこの法律が発動できないというわけではない」と答弁しました。
つまり、国連憲章をふみやぶったイラク型の先制攻撃の侵略戦争にも、自衛隊が参戦するということを認めたのです。重大な答弁です。
米軍の先制攻撃の戦争に、武力行使をもって参戦し、国民を強制動員する。これが有事法制の本質です。
政府は、法案の「修正」なるものをほどこしましたが、少しも内容、本質は変わりません。昨年と事情が変わったのは、米軍の先制攻撃が、方針から現実のものとなったということであります。いよいよ法案の危険性は現実のものとなったということです。
有事法案を許さないたたかいは、憲法九条を守り抜くたたかいであるとともに、世界の平和のルールをとりもどすたたかいでもあります。昨年のこの日を思いおこしますと、「憲法のつどい」が一つの出発点となり、四万人、六万人という規模での有事法案反対の大集会がもたれ、二度にわたって国会での強行を食い止めてきた。ぜひこの力をさらに大きく広げ、有事法案を廃案に追い込むために共同のたたかいを、いま急速に広げようではありませんか。(拍手)
さて、一部に、「北朝鮮問題があるので、有事法案の成立を急ぐ必要がある」という議論があります。こうした議論にどう答えるかは、有事法案を廃案に追い込むためにも、大変重要な問題です。
もちろん北朝鮮問題の解決は、北東アジアの平和と安全にとって重要な課題であります。とくにいま北朝鮮がすすめている核兵器開発計画を放棄させることは、重大な国際問題にもなっています。被爆国日本の国民の強い声です。ただみなさん、これは、あくまでも平和的・外交的手段でおこなうべきであって、軍事の手段を許してはならない(拍手)。そして、現に動いている方向も、米朝中の三国会談がはじまりましたが、外交交渉による解決という方向です。
私は、ここでいま国際社会が知恵と力をつくすべきは、北朝鮮にたいして「道理をもって説く」というところにあると思います。それはどういうことか。北朝鮮が、核兵器問題での国際的な取り決めを次々と破り、これに違反していることへの批判をすることは、当然必要なことです。しかし、それにとどまらないで、私は、北朝鮮が核兵器開発をすすめている「論理」そのものの誤りをただすことが大切だと思います。
その「論理」とはどういうものか。北朝鮮の朝鮮通信などは、「物理的な抑止力によってこそ安全保障がはかられる」ということを、核兵器開発を合理化する「論理」にしています。
しかし、北朝鮮にとっての一番の安全保障の問題というのは、「物理的な抑止力」が足らないことにあるのではありません。問題は、北朝鮮が、周辺諸国とのまともな外交関係をもっていないということ、まともな近所づきあいができていないということ、この国が国際的に孤立しているというところにあるのではないでしょうか。
そして、少なくとも、その原因の大きな部分は、北朝鮮自身にあるということをいわねばなりません。この国が、テロや拉致などの国際的な無法行為をおこなってきたこと、国際的なルール破りをおこなってきたことなど、北朝鮮自身にも原因はあるのです。それを本気になって清算し、ただして、周辺諸国とほんとうの平和友好の関係を築くことこそ、北朝鮮にとっても一番の安全保障になるということを、いま国際社会が「道理をもって説く」べきではないでしょうか。(拍手)
北朝鮮が、そういうまともな努力をやらないで、「物理的な抑止力」といって核開発にまで手を染めるのは、アジアと世界にとって有害であるだけでなく、北朝鮮にとってもますます孤立をまねき有害なことになる。このことを「道理をもって説く」外交によって、解決すべきだということを、私は強く訴えたいと思うのであります。(拍手)
日本国憲法は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」することこそ、安全保障の最大の土台だとのべています。この憲法の精神で、北朝鮮にたいして、「道理をもって説く」外交努力をおこなう、このことを、私は、日本政府に強く求めたいと思うのであります。(拍手)
そしてみなさん、ほんらい平和的・外交的に解決すべきこの問題、解決できるこの問題を、有事法制の強行のために利用することは、国民をあざむく党略的態度であり、北朝鮮問題のただしい解決にとっても有害きわまりない態度だということを、私は、きびしく指摘したいと思うのであります。(大きな拍手)
憲法九条を守り、国連憲章にもとづく平和のルールをとりもどすために、立場の違いをこえ、さらに大きな共同の輪を広げようではありませんか。みなさん、ともにがんばりましょう。(大きな拍手、歓声)