2003年5月7日(水)「しんぶん赤旗」
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年金課税か消費税増税か、給付減か保険料引き上げか−。二〇〇四年度からの年金制度「改革」に向けて、高齢者などに負担増を迫る計画案が、公的年金を所管する厚生労働省だけでなく、政府税制調査会からも出されています。このうち、年金への課税強化の動きをみると−−。
政府税調(首相の諮問機関)の基礎問題小委員会は、税制の将来像を示す六月のまとめに向けた検討のなかで、厚生年金、国民年金など年金への課税を強化することを確認しました(四月十八日)。具体的には年金への所得税課税を緩和している年金控除(メモ)を縮小することを検討。〇四年度の税制「改正」に取り入れる考えです。
石弘光税調会長(一橋大学長)は、十八日の小委員会後の記者会見で「国際比較すると非常に課税が甘い。大方の意見は公的年金等控除、老年者控除のあたりで見たらいいという議論だった」「高齢者世帯が年金も通じて優遇されてきた。高齢者の世帯にはある程度負担してもらう方向だ」とのべました。
年金控除は、年金が高齢者の生活の柱という考えに立っています。「公的年金等控除」は六十五歳以上の場合、最低でも百四十万円まで課税対象外にするものです。「老年者控除」はさらに、年間所得一千万円以下なら五十万円を課税対象から差し引くものです。これに現役世代と同じ基礎控除(三十八万円)、配偶者控除(三十八万円)などを差し引くことができます。それらを差し引いた額が課税所得になり、それに税率をかけて所得税額が決まります。これらの控除が縮小されれば増税になります。
この課税強化は約三千万人の年金受給者の生活に直接影響します。仮に公的年金等控除と老年者控除を二つとも廃止すると、所得税で一兆一千億円もの増税になります。四月に実施された物価スライド適用による年金の0・9%引き下げで三千七百億円の負担増ですから、その三倍です。年金控除の縮小・廃止は毎年の増税としてかぶさってきます。
厚生労働省もこの年金課税の強化では同じ方向です。ただ、使い道で財務省が一般財源にしたいとし、厚労省が年金の国庫負担引き上げ分にあてたいとしている点が違っているだけです。
税調は、いま所得税がかからない遺族年金についても課税する方向です。遺族年金は、夫をなくした妻などの遺族に支給される年金(約五百八十五万人に支給)で、生活の支えとしている人が多数です。
政府内には、消費税引き上げで年金など社会保障財源を生み出すことに強い期待感があります。ただ、世論の反発を恐れ、「在任中に消費税率の引き上げはしない」と小泉首相がいっているため、当面、所得税の課税強化を先行させているのです。厚生労働省などはこの年金課税で生まれた財源を、基礎年金への国庫負担引き上げ(三分の一から二分の一に〇四年度予定、約二兆七千億円必要)にあてる財源にしたい考えです。
【メモ】控除 生活条件の違い(配偶者がいるか、子ども・老親と同居か、障害があるかどうかなど)による負担を軽くするために、所得額からあらかじめ一定額を引き、税金をかける対象額を減らすこと。