2003年5月9日(金)「しんぶん赤旗」
八日、衆院有事法制特別委員会の参考人質疑で青山学院大学法学部の新倉修教授(日本共産党推薦)がおこなった意見陳述(大要)は次のとおりです。
「武力攻撃事態」への対処をめぐって、さまざまな意見がありますが、その議論の前に、もう少し考え直すことがあります。この法案は“全体像”を描ききれていない。
「絵柄」として私が想定するのは二つです。一つは、日本国憲法とユネスコ憲章です。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」という憲法前文は、戦争を放棄したという国民の決意のなかに、何もしないというのではなく、諸国民の公正と信義を信頼するということがあると思います。それより一年前にできたユネスコ憲章には「人の心の中に平和のとりでを築こう」とあります。そこから「人間の安全保障」という新しい潮流が生まれつつあるわけです。
もう一つの「絵柄」は集団的自衛権の体制づくりという方向です。これは日米安保条約、日米新ガイドライン、いわゆる「アーミテージ報告」に示された内容です。これは今日の事態を想定して、日本に対してかなりはっきり注文をしています。そこには「国内法の整備」があり、パートナーシップを完全にするために日本に積極的な役割を期待するということがあり、そちらの方にこの法案が組み込まれていくということになれば、大きな進路の変更がわれわれに求められるのではないでしょうか。
この法案は、単に日本が武力攻撃されるという事態だけではなくて、すそ野の広いところまで含めています。その先には「周辺事態」との連続性ということをどうしても否定しきれない。これはイラク攻撃のように「同盟軍」を派遣せよという動きと連動しかねないのではないか。
イラク攻撃では、米国の大統領が「危険だ」と宣言して事態は動いていきました。この法案はそういう事態も前提に、日本をそういう方向へかじを切るということではないでしょうか。
むしろ国としてやるべき課題が転倒されているのではないか。平和のための課題をもっと具体的にリアルに描いて、それに取り組むという姿勢を示すことの方が、日本が世界から尊敬されるのではないかというふうに思います。
四つ取り組むべき問題があります。(1)アジア地域における安全保障協力機構の設立(2)北東アジア非核地帯条約の締結(3)国際刑事裁判所条約の批准(4)NGOや地方自治体の自主的な平和活動の支援――われわれは国益だけを考えて、世界の中で栄誉ある地位を占めたいと思っているのではなくて、まさに世界の平和を愛する諸国民と手を結んで共生するというメッセージを日本の国として発していくということが大事ではないかと思います。