2003年5月12日(月)「しんぶん赤旗」
政府・与党は、連休明けから本格的に有事法案について民主党との「修正」協議をすすめる一方、採決を、何度も何度もちらつかせてきました。「修正」協議をテコに今週中にも衆院通過をはかる構えです。
「次回は月曜(十二日)午後四時。(協議は)それで終わりだ」
国会内で記者団に取り囲まれた自民党の山崎拓幹事長は、吐き捨てるようにいいました。与党と民主党との「修正」協議を決着させ、一気に衆院通過をはかる、当初の期限であった九日の与党三幹事長会談終了後のことです。
「十二日の採決はないのか」の問いに、「そんなことはない」と声を荒らげて否定。週内衆院通過を目指していた与党として、一日でも先送りをしたことに苦々しさをにじませていました。
「もう国会で審議することなんかない」。イラク戦争の最中の三月、衆院有事法制特別委員会のある与党理事は記者の取材にこうのべました。政府・与党には、今国会で法案をじっくり議論しようという考えは、かけらもありません。あるのは、年来の念願達成である法案成立は「今しかない」とばかりに急ぐスケジュールの消化だけです。
こうした政府・与党の姿勢に、「法案は、憲法の平和主義に抵触し、国民の基本的人権も制約する。極論すれば、国会を解散し国民に信を問う内容だ」(沖縄タイムス、九日付社説)との批判があがるのも当然です。
有事法案は、米国の先制攻撃の戦争であっても、自衛隊は参戦し、国の各省庁・機関、自治体、民間企業を強制動員するものです。こうした法案の重大な危険への指摘は、広がりつつあります。
北海道新聞は十日付社説で「憲法が想定をしていない『戦争できる国』に日本を変える法案である」と強調、こう警鐘を鳴らしています。
「周辺事態法、テロ特措法と自衛隊の行動範囲を拡大してきた日米軍事同盟の総仕上げである。米国の要請に沿い、米軍の後方支援に地方自治体と民間を『適切に活用する』(日米防衛協力の指針)ことを目的とした法制とも言える」
国民の強い批判の前に、法案成立を断念し、継続審議に追いこまれた昨年の通常国会の会期末。与党理事の一人は「残念」としつつも「通らなくてよかったとも思う。国民の七割くらいが賛成した形で通すべき、そういう性質の法案だからだ」と語ったものでした。
法案作成にかかわった関係者も当時、「この法案は、日本の安全保障にとって、もっとも大事な法案だ。簡単に通すべきものではない。(有事が)差し迫っている情勢でもないのだから、急がなければならない法案でもない」と記者の取材に答えたこともありました。
しかし、その後の審議はどうか。臨時国会ではほとんど審議はなく、今国会ではわずか十一時間半。参考人質疑を除けば、与野党の質疑があったのは、三日だけです。これだけの重要法案なのに、公聴会の設定すら日程に乗せようとしません。
熱中しているのは、国民の目から離れたところで、法案の重大な危険には手をつけない「修正」の論議ばかり。まるで国会や国民の間での議論を恐れるかのような姿勢は、法案が「日本と国民を守る」ものではないことを逆に証明するものです。
正々堂々と議論を尽くす自信のない法案であるならば、それだけでも廃案にすべきです。(田中一郎記者)