日本共産党

2003年5月12日(月)「しんぶん赤旗」

米のイラク「国際安定化部隊」構想


 米政権がイラクを複数の地域に分割し、米英とポーランド軍を中心とする「国際安定化部隊」で治安維持をはかる案を出し、欧州連合(EU)に波紋を広げています。そこには米政権による露骨な“論功行賞”とEU分断策が透けて見えます。その一方で、この構想は米国が思うようには推移していません。


透けるEU分断策

 伝えられる米国の提起では、イラク北部の“平和安定”を担当する北大西洋条約機構(NATO)加盟国中心の軍隊の指揮をポーランドにやらせようとしています。ポーランドのノワクNATO大使は「ポーランドにとって重要な発展」「史上初めてわれわれは、特定の国と特定の問題の運命を決める大国の仲間入りをすることになる」と、手放しの喜びようです(英紙フィナンシャル・タイムズ六日付)。

 米軍の統括のもとに、ポーランドに重要なポストが与えられるのは論功行賞そのものです。

 イラク戦争でポーランドは、米国の対イラク政策を率先して無条件に支持し、英国やスペインなどとともに、仏独など「反戦国」と対立しました。ラムズフェルド米国防長官が「古い欧州」と揶揄(やゆ)した「反戦国」にたいし、ポーランドは一九九九年にNATOに加盟した「新しい欧州」の代表格です。

 同国は四月末、米国からF16戦闘機四十八機を購入する契約を正式に交わしました。米国は機種選定で激しく英スウェーデン連合および仏と争った上で昨年末に売り込み成功を確実にしました。ブッシュ米大統領はポーランドを「中欧における米国の最も忠実な同盟国」とたたえたといいます(仏紙ルモンド三月四日付)。

 米国は、米軍主導の国際安定化部隊配備により、国連を排除したまま自国に都合のいい実効支配の既成事実を積み重ねようと狙っています。

 EUは四月半ばの首脳会議で、イラク復興における「国連の中心的役割」を明記した文書を全会一致で採択しました。しかしその後も各国の足並みは乱れがちです。

 国際安定化部隊に加わるポーランドやデンマークも一応、アメリカの計画には国連安保理の「正当な委任」があったほうが「望ましい」とはいいます。しかし「前提条件」とはしていません。ノワク大使は「われわれは間違ったことはしていない。EUはこの部隊派遣問題で特別に合意された立場をもっていない」と主張しています。

 「反戦国」筆頭のフランスは対米関係修復を念頭に置く姿勢を示唆しています。ドビルパン外相は「フランスは現地で活動している諸国とともに働きたいが、そのためには、好ましい枠組み、当然国連という枠組みを定める必要がある」とのべています。

 国際安定化部隊の米案が発表された二日、EUの非公式外相理事会がギリシャで開かれました。理事会は、ブッシュ政権の先制攻撃論に対抗する「欧州戦略概念」の策定作業の開始を一致して確認、またイラク復興での「国連の中心的役割」を明確にすることを合意しました。

 しかし、九日の独仏ポーランド三国首脳会談は、EUの共通外交・防衛政策で連携をすすめることでは一致しましたが、イラク“復興”へのかかわり方では食い違いも表面化しました。

 米国の対応と欧州の現況について、仏紙フィガロは「米国の計画が欧州分裂の溝を掘る」(五日)と警告を発しています。(パリで浅田信幸)


国連中心譲らぬ独

派兵、思惑通りには進まず

 米国が無法なイラク占領を続けるなか、ドイツは一貫して米国を助ける多国籍の“安定化”部隊派遣を拒否しています。

 ドイツのこの姿勢を改めて浮き彫りにしたのは、米国が“親米国”として期待するポーランドの提案でした。ポーランドのシュマイジンスキ国防相は五日、米マスコミにたいし、ポーランドが担当するイラクの軍管区に「デンマーク、ドイツ両国軍が参加する」と語りました。

 これにたいし、ドイツ政府のベーラ・アンダ広報担当官がただちに「ドイツ政府の政策はイラク戦争前も、戦争中もそして戦後も継続されている」として、この多国籍軍への独軍参加を否定。シュトルック独国防相も寝耳に水だとして否定しました。その後、デンマークで独、デンマーク、ポーランドの国防相が会談、このポーランド構想は公式に否定されました。

 このあと、独首相府が示したドイツ軍参加の条件は、国連決議のもとに北大西洋条約機構(NATO)が派兵を決めれば、ドイツは派兵を検討、さらに独連邦議会の承認を得られれば可能というもの。イラク復興と軍派遣はいずれも国連主導が必要という原則は変わっていません。

 イラク戦争そのものに反対する姿勢も変わっていません。フィッシャー独外相は、八日付ツァイト紙とのインタビューで、「この(イラク)戦争をまだ合法化しないのか」という問いに、「われわれの態度は変わらない。平和的手段がくみ尽くされなかった」「後からの合法化はできない」と明言。「国連を『有志の連合』に置き代えることはできない」と強調しました。

 イラク戦争後、独政府は、戦争で欧州連合(EU)が米国によって分断されたことを教訓に動いています。EUが一つの声で話せる安保・外交政策を強化することや、イラク戦争に反対した仏、独、ベルギー、ルクセンブルクの四カ国での将来のEU軍構想などがその代表例です。

 シュレーダー政権はその一方で、対米関係正常化を進めています。シュトルック国防相の訪米に続き、クレメント経済相も訪米。シュレーダー首相は「米独関係はこの間のいざこざに動揺しないほど強固だ」と述べ、パウエル米国務長官の訪独に合わせてアジア諸国訪問の外交日程を短縮する気の使いようです。また駐独米軍基地の存続や独領内の米施設への独軍監視パトロールの継続も決めました。

 しかしドイツに限らず、イラク戦争をめぐって引き起こされた米欧間の亀裂の後遺症はなお続いています。

 米国はイラクへの多国籍部隊について米英軍以外に少なくとも四万人は必要とみていますが、参加国の兵力が不足しています。しかし、ハンガリーやポルトガルなど欧州の親米諸国でも、イラクへの軍派遣を検討する段階で野党が「国連かNATO、EUのいずれかの委任が必要だ」と反対を表明しています。デンマークも、米国から五千人の派兵を要請されていますが、今のところ三百八十人しか応じる計画はありません。

 米国は各国の派兵の少なさにたいし、「独仏がNATOを人質にとってNATOとしての多国籍軍参加を妨害している」と非難しています。(ベルリンで片岡正明)


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