日本共産党

2003年5月14日(水)「しんぶん赤旗」

徹底検証

イラク問題での

国連の積極的役割


 米国主導のイラク侵略戦争によって国連の無力が明らかになった―いまこんな見方が広められています。実際には、国連はイラク問題の平和的解決にかつてない積極的な役割を果たし、その努力が実を結ぼうとした時、これを破壊して戦争に突入した米国という構図が浮かび上がってきます。イラク問題で見えてきた国連の役割を検証しました。


米国の先制攻撃戦争を容認せず

 ブッシュ米大統領は昨年一月の一般教書で、イラクとイラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と非難。九月には、イラクのフセイン政権が「平和にとっての脅威だ」として単独攻撃も辞さない構えを国連総会で表明しました。

反戦世論が安保理動かす

 十月には、英国とともに対イラク武力行使容認決議案を国連安全保障理事会に提出しました。

 しかし、非同盟諸国の要請により開催された公開会合では、圧倒的多数の国が武力行使に反対、懸念を表明。世界中に広がった反戦世論が安保理を動かしました。

 十一月には査察の再開によりイラク問題の平和解決を求める安保理決議一四四一が全会一致で採択され、米国がもくろんだ「あらゆる必要な措置をとる」として武力行使容認を明文化した決議案の採決は拒否されました。

 当然、採択された決議一四四一は、イラクがこれを受け入れなければすぐ武力行使してもよいというものではありませんでした。フランス、ロシア、中国の安保理三常任理事国の共同声明はそれを確認し、ネグロポンテ米国連大使も「決議は、武力行使についてのあらゆる『隠された引き金』も『自動性』も含んでいない」と言明していました。

 これにたいしてイラクは同決議の受け入れを表明。国連査察団が首都バグダッド入りし、一九九八年以来四年ぶりに査察が再開されました。

 これは、国際社会がイラク問題の平和解決を求める声を結実させ、米国の勝手な武力行使をその段階では許さなかったという点で、重要な出来事でした。

査察による政治的解決を

 国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)のブリクス委員長は今年一月、安保理に査察の中間報告を提出し、「イラクの大量破壊兵器保有の決定的証拠や査察妨害の事実はない」としました。イラクがまだ大量破壊兵器を持っているはずだから、という米国のイラク攻撃「正当化」に結びつく事実は示されなかったのです。

 このあとイラクが査察に協力姿勢を強めたと国連査察団は報告しています。パウエル米国務長官は一月、安保理に「証拠」を持ち出し、「イラクは国連を欺いている」との印象を与えようと試みました。しかしスパイ衛星写真や秘密盗聴テープ、にせ情報まで持ち出しましたが、国連査察による政治的解決をという大勢を変えることはできませんでした。

 米国は二月二十四日、英国、スペインとともに、査察を中断しイラクへの先制武力行使を認める新決議案を国連安保理に提出しました。これに対し、仏独ロは査察強化を求める「覚書」を提出、中国も支持しました。

 米国は、新決議案への賛否を明確にしていない安保理非常任理事国六カ国に、経済援助をからめたなりふりかまわぬ多数派工作をすすめました。

 ブリクス委員長やエルバラダイ国際原子力機関(IAEA)事務局長はイラクの査察継続が必要で、「数カ月」で査察結果をはっきりさせられるとの見通しを報告しました。結局、米国は、各国からの支持を得られないまま、武力行使を容認させようとした二度目の試みも失敗し、新決議案を取り下げました。

国際的ルール踏みにじる

 こうして米国は、国連の査察によって平和的に問題の解決をはかろうとする国連安保理国の多数の意見にそむき、国連の場から飛び出て国際的なルールを踏みにじり、英国など一部の国を引き連れイラクへの無法な先制攻撃に突き進むことになったのです。(雨河未来記者)


占領決議案で論議再開

 イラクを軍事侵攻した米英両国と、それを支持したスペインが9日、イラクへの経済制裁を解除し、米英によるイラク占領を国連に承認させる決議案を国連安保理に提示しました。イラク問題の議論は舞台を再び国連に移しています。

 戦争に強く反対してきた仏独両国は、「建設的な精神」で取り組む(シラク仏大統領)としながらも、「国連の屋根のもとでのイラク復興をめざす」(シュレーダー独首相)「疑問や困難な面もある」(ドラサブリエール仏国連大使)と述べています。米英スペイン案をめぐる安保理の本格協議は14日に始まります。(ワシントンで遠藤誠二)


国連無力化はかる勢力の“敗北”

査察が成功していれば

 国連憲章は、国際紛争の平和的解決に努力するよう各国に義務づけています(第三三条)。イラク問題での国連安保理の活動は、紛争の平和解決で新たな財産を国連にもたらす可能性を秘めていました。

 国連査察団の責任者らが証言するように、イラクの大量破壊兵器問題は、国連の査察によって解決できる現実的可能性がありました。

 国連憲章第二六条は世界平和のために「軍備規制」を実行する必要を規定しています。これが国連の査察によって実現できることがイラク問題で証明されれば、核を含む全世界の大量破壊兵器の廃絶にとって大きな先例を提供することができます。実はそれこそが、世界最大の大量破壊兵器開発・保有国である米国が恐れていたことでした。

 ブッシュ政権の軍事外交政策に大きな影響を及ぼしている新保守主義者(ネオコン)の主張には、国連などを通じて世界平和のルールを確立し、武力によらずに国際紛争を解決しようという世界の大きな流れへの敵意、それを逆転させようとの野望が読みとれます。

 ところがイラク問題への対処で国連が大きな役割を果たした結果、彼らの当初の狙いとは逆の結果が生まれようとしたのです。それは、安保理の承認も得られないまま米国がイラク侵攻を急ぐ要因の一つとなりました。

常任理事国が犯した戦争

 もともと現行の国連憲章では、米国などの常任理事国は拒否権をもっており、常任理事国自らが犯した戦争に対しては、安保理は最初から阻止できない仕組みになっています。常任理事国の戦争で国連が「機能」するのは、安保理がそれを承認する場合だけです。

 もしイラクへの先制攻撃戦争を安保理が承認、許可していれば、「戦争の惨害から将来の世代を救」うとの国連憲章の基本精神は破壊されていたでしょう。米国の先制攻撃にお墨付きを与えることを国際社会が拒否したのは、国連の無力の証明どころか、国連を無力にさせたい勢力の「敗北」、国連の平和のルールを守ろうとする国際世論の「勝利」を意味します。

今日の世界に不可欠な国連

 国連が今日の世界に不可欠であることは、新型肺炎(重症急性呼吸器症候群=SARS)の対策で今、国連の専門機関である世界保健機関(WHO)が国際的に展開している活動一つをみても明らかです。

 国連という国際平和機構の特徴の一つは、「戦争の惨害から将来の世代を救」う(国連憲章前文)ため、軍事力による対応にとどまらず、人間の尊厳や男女平等、「すべての人民の経済的及び社会的発達を促進する」(同前文)などの経済・社会・文化・人道面での国際協力を重視している点にあります。

 この考え方は、軍事力一辺倒の「安全保障」ではなく、人々の生命と暮らしの擁護を世界の安全を維持する課題として最優先する「人間の安全保障」論として、一九九〇年代以降、新たな展開をみせています。(坂口明記者)


ベトナム戦争時などと比べると…

 国連憲章の前文は「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救」うことを決意すると述べ、本文の第一条は国連の目的が「国際の平和及び安全を維持すること」にあると規定しています。戦争の非合法化と国際紛争の平和的解決が憲章の根本原則です。

 しかし実際には米国は国連憲章を踏みにじる侵略戦争を繰り返してきました。それに対する国連の対応は―。

 あからさまな米国の侵略戦争だったベトナム戦争に対し国連は、(1)米国による侵略拡大の発端となったトンキン湾事件(一九六四年)の際に安保理で審議(2)南ベトナムの仏教徒の迫害について総会が調査団を派遣(3)ベトナムとカンボジア国境へ安保理が調査団を派遣、しただけでした。

 米国が北爆を本格化させた(一九六五年)後に、安保理でベトナム問題を取り上げた非公式協議が行われましたが、理事国の対立が解消しないまま終了。結局、米軍による侵略が激化する一方で、「ベトナム問題は安保理事会や総会でしばしば言及されたが、議題として正式に審議されることはついになかった」(明石康『国際連合―その光と影』)のです。

 米国は八三年十月にグレナダを、八九年十二月にパナマを「在住米国人の安全確保」を理由に急襲、侵攻し、政権を転覆させました。これは米国による明らかな軍事侵攻で、どちらの侵略行為に対しても国連総会は「国際法違反」と非難する決議を採択しました。しかし安保理は米国を制止する措置をとることができませんでした。

 一方、九一年初めの湾岸戦争では、米国は武力行使を容認する安保理決議六七八(九〇年十一月)を根拠に「多国籍軍」を率いてイラクを攻撃しました。これはイラクが九〇年八月、クウェートを侵略し併合するという国際法違反を犯したことをうけてのものでした。

 この時の米国の軍事行動は安保理決議に基づいている点で、それまでのものとは異なります。しかし平和的手段を尽くさないまま戦争を急ぎすぎたという問題点がありました。

 湾岸戦争の停戦条件―イラクの大量破壊兵器廃棄を含む―を決めた安保理決議六八七(九一年四月)はイラクも受け入れました。この六八七と関連諸決議が実施されれば、イラク問題は平和的に解決されるはずでした。(島田峰隆記者)


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