2003年5月16日(金)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長が十五日、衆院本会議で有事三法案が強行されたことを受けた抗議行動(衆院議員面会所)で行ったあいさつ(大要)は次のとおりです。
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みなさん、ごくろうさまです。いま衆議院本会議で、与党と民主党などによって、有事三法案の採決が強行されました。私は、みなさんとともに、強い怒りを込めてこの暴挙に抗議をしたいと思います。(大きな拍手)
この有事法案について、政府・与党は、国民をあざむきつづけました。すなわちこの法案は、「日本を守る時の備え」だと、あざむき続けたのです。しかしこの法案の本質は、まったく違ったところにあります。つまり「攻める時の備えだ」ということです(「そうだ」の声、拍手)。米軍がイラクのような先制攻撃の戦争をやった時に、自衛隊が武力行使をもってそれに参戦する、そしてその戦争に日本国民を罰則つきで強制動員する――まさに「攻める時の備え」をつくろうというのが今度の法案の本質です。
そのことは国会論戦ですっかり明らかになりました。にもかかわらず数の力を頼んで、この歴史的悪法を強行した。許すことはできません。みなさん、この憲法じゅうりん、世界の平和のルールに挑戦する暴挙に、きびしい抗議の声をつきつけようではありませんか。(大きな拍手、「そうだ」の声)
第一に、この法案は、これまでつくられた自衛隊の海外派兵法案のなかでも、初めて公然と海外での自衛隊の武力行使に道を開く法案です。
この法案は、「わが国に対する武力攻撃」のさいの「対処」をきめたものですが、わが党が国会で「わが国」とはどこかと聞いたのに対して、「周辺事態法」や「テロ特措法」で海外に派兵されている自衛隊の艦船もすべて「わが国」となるという。つまり世界の七つの海がすべて「わが国」となりうるのです。
すでにつくられている海外派兵法で、海外に乗り出している自衛隊の艦船が危なくなれば、この法案が発動される。「武力攻撃の予測」の段階から有事法制は動き出し、この段階での武力の行使にも法案には歯止めはありません。攻撃されれば応戦するというのが答弁です。まさに自衛隊が世界のどこででも武力行使ができるというところに、公然と道を開いたのが、今度の法案であって、これ以上明々白々の憲法じゅうりんはないではありませんか。(「そうだ」の声、大きな拍手)
第二に、米軍の戦争とは何かということは、イラク戦争ではっきりと示されました。アメリカは先制攻撃戦略を、ただ紙の上の方針として書いているだけではない。すでに実行にうつしたのです。ああいう戦争を、つぎはどの国を標的におこなうのか。その危険が世界を覆っています。
米軍が、イラク型の先制攻撃の戦争にのりだした。その時に米軍を支援している自衛隊が危なくなった。そういう場合――米軍が先制攻撃の戦争をやった場合にも、有事法制は発動されるのか。このようにわが党議員がただしたのにたいして、政府の答弁は、どういう原因によるものであろうと、米軍の先制攻撃によるものだろうが何だろうが、「わが国」の艦艇が危なくなったら、この法律は発動されるというものでした。
みなさん、そうなりますとこの法案は、憲法をじゅうりんするだけじゃない。国連憲章の平和のルールにたいする挑戦ともなる(「そうだ」の声)。世界の平和のルールを破壊することに道を開く法案だということを、私は強く糾弾したいと思うのであります。(「よし」の声、拍手)
第三に、そうした戦争に日本国民を強制的に総動員する。罰則つきの強制をもって、総動員することが、この法案の恐るべき中身です。
これはどういうことを意味するでしょうか。日本は憲法九条をもっている国です。憲法九条では、戦争を禁止しています。戦争をしたら犯罪になるということです。その国で、戦争に反対する国民を犯罪者とするというのが、この法案です。これを憲法じゅうりんといわずして何というのか。
どこからどう見ても憲法を踏みやぶり、世界の平和ルールを壊すことに道を開く法案の本質は、明りょうであります。
与党と民主党は、「修正協議」なるもので、この本質に指一本触れたわけではありません。わずかなりとも変更を加えたわけではない。民主党が「修正」でもとめてきたのは、この本質に触れないごくごく枝葉の問題です。それをあたかも、「画期的な修正」であるかのようにのべて、賛成にまわった。
民主党は少なくとも去年の国会では、こう言っていた。「『専守防衛』の観点から見てこの法案には問題がある」「周辺事態法との関係が不明りょうだ」。さらに、民主党は、ともかくもイラクに対する先制攻撃には反対しました。この自らとってきた態度と、この法案に賛成したことを、どうつじつまを合わせようというのでしょうか。つじつまなど合わせようもありません。わが党がそれを国会でただしても答弁できません。民主党は、この歴史的悪法に加担したという重大な歴史的責任を負いました。このことは、きびしく批判されなければなりません。(大きな拍手)
たたかいの舞台は参議院にうつります。私は、内外の世論との大きな矛盾、その怒りの広がりは避けられないと思います。
きょうの朝日新聞に、全国の知事のアンケート調査が出ています。アンケートの設問自体に問題を感じますが、そのなかでもともかくも全国の知事の八割が、「政府から十分な説明を受けていない」と答えていることは重大な結果だと思います。この法律で強制動員の対象となる地方自治体のなかから、批判の声が広がることはさけがたいでしょう。
陸海空の運輸にたずさわる労働者のみなさんは、みずからの命にかかわる重大問題として、断固として反対の運動の先頭にたっています。宗教者や文化人・知識人のなかからの理性ある反対の声も広がっています。
私たちはきょう、こういうファクスを韓国からもらいました。韓国の国会議員の三十名連名の訴えです。「尊敬する衆議院議員各位 有事法制三法案に反対していただけることを訴えます」(拍手)との訴えです。こうのべています。
「我が議員たちと大韓民国の国民たちは、有事法制が過去のアジア諸国家と国民たちに大きな痛みを与えた不幸であった戦争の歴史を再演しうるということに対し、深刻な憂慮を持っております。有事法制の通過は直ちにアジアの軍事・安保環境を悪化させる充分な契機となるという点からも、極めて大きな憂慮をもっております」
「日本憲法九条は、軍隊を持ったり、戦争をすることを禁止しています。それゆえ、日本の憲法は大韓民国でも『平和憲法』と呼ばれています。ところが、有事法制は平和憲法の精神に真っ向からはずれるものだと考えます」
こういって韓国からも三十名の国会議員の連名の訴えが届いている。私は今度の暴挙は、東アジア諸国の中からも、こういう理性と平和の立場にたった批判を呼び起こさざるをえないと思います。
参議院にたたかいの舞台は移りますが、私たちは最後の最後まで、そういう内外の理性の声、平和を守る声との団結と共同を広げ、この歴史的悪法の廃案のために、全力をつくす決意をのべて、私のあいさつといたします。(大きな拍手)