2003年5月19日(月)「しんぶん赤旗」
石破茂防衛庁長官 武力攻撃事態、あるいは予測事態にいたった場合には、この法案が適用される。前提がそう(米国の先制攻撃)であったからこの法律が発動できないとかできるとかいう議論をするつもりはない。(四月二十四日、衆院有事法制特別委員会)
前原誠司議員(民主党) 有事法制自体は、どのような原因に起因するものであれ、日本に予測事態、あるいは武力攻撃事態が起きたときには法律を適用する。五月十四日、同前)
米軍が先制攻撃の戦争にのりだし、相手国がこれに応戦するだけでなく、米軍基地のある日本にも反撃の意図を表明し、「武力攻撃予測事態」にあたるような状況になれば、有事法制は発動されるのか―。日本共産党の木島日出夫議員の質問にたいする石破、前原両氏の答弁は、まったく同じでした。
要するに、この法律で、米国の国連憲章違反の先制攻撃に自衛隊が武力行使をもって参戦し、その戦争に地方自治体や民間企業・機関、国民を強制動員することが可能になるわけです。
前原議員は、ブッシュ米政権の「先制攻撃戦略についてはわが党は危ぐしている」(十四日、衆院有事特別委)とのべましたが、そうした危険な米国の先制攻撃に日本が参戦しない「歯止め」はどこにもありません。
平岡秀夫議員(民主党)(政府原案よりも)はるかに詳細に基本的人権にかかわる規定を盛り込んでいる。緊急時における人権保障を重視しているということだ。(十四日、衆院有事法制特別委員会)
「修正」案は「基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない」との文言が加えられただけで、「日本国憲法の保障する国民の自由と権利」に「制限が加えられる」という法体系にはいっさい手をつけていません。
国民の基本的人権を侵害し、戦争に強制動員する仕組みはなにも変わっていないのです。
政府は、「武力攻撃事態への対処」は「高度の公共の福祉」だと強調。戦争反対の思想・信条さえも「外部的な行為がなされた場合」には、「公共の福祉による制約を受けることはあり得る」とし、処罰も可能との見解を示してきました。この見解も変わっていません。
実際、自衛隊法改悪案では、物資の保管命令や、土地・家屋などへの立ち入り検査を拒否した者には、懲役を含む罰則が科せられることになっています。
同改悪案では、医療・土木建築・輸送業者にたいする業務従事命令や、土地・家屋・物資の取り上げなども規定されています。
安倍晋三官房副長官は、戦争協力の業務命令を会社から受けた労働者が戦争反対の考えからこれを拒否し、処分を受けても「(憲法に)反しない」(九日、衆院外務委員会)と強弁しています。
地方自治体や、政府が「指定公共機関」に指定する民間企業・機関は、戦争協力の「責務を有する」と規定されています。自治体や「指定公共機関」が協力を拒否した場合、首相は協力を指示し、それでも拒否された場合は、直接実施することもできます。
「修正」案は、このような首相の権限を定めた武力攻撃事態法案の条項について「別に法律で定める日から施行する」としているだけで、仕組みはそのままです。
福田康夫官房長官は、民放や日本赤十字社の「指定公共機関」への指定について「是正のための指示、またはみずから対処措置の実施をおこなうことは想定をしていない」(十三日、衆院有事特別委)とのべました。
しかし、民主党の横路孝弘議員は「できない規定をなぜ残すのかということが問題」と批判。「報道の自由にたいして大変心配がある」「それならば、法律からそこ(日赤)を削除すべきだ。法律の流れからいうと、総理大臣の指示権、実施権に服することになる」と追及していました。(同前)
しかし、与党との共同「修正」案では結局、除外されなかったのです。
民放連の氏家斎一郎報道委員長は、有事法案が衆院を通過した十五日、「政府が放送内容に介入するおそれがなくなったわけではない。こうした懸念が払しょくされない限り、放送事業者への有事指定公共機関制度の受け入れは難しい」とのコメントを発表しています。(おわり)
●事態の定義 「武力攻撃事態」と「予測事態」に二分。「予測事態」から法案が発動されることは変わらず。
●基本的人権 「最大限に尊重」と規定。「国民の自由と権利」に「制限が加えられる」という法体系はそのまま。
●国会の関与 国会の議決による対処措置の終了を規定。国会にはかる前に閣議決定のみで対処基本方針を実施に移せることは変わらず。
●事態対処法 「米軍支援法制」「国民保護法制」などについて「整備を速やかに実施」と規定。
●首相の権限 指示権や直接実施権は「別に法律で定める日から施行」。仕組みはそのまま残る。