2003年5月21日(水)「しんぶん赤旗」
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「『戦闘地域には行けない』という制約を法律の上で取り払うというのが有事法制だ」−−。日本共産党の筆坂秀世政策委員長の追及に、政府は、有事法案にもとづく米軍支援法に周辺事態法と同じ“制約”をつけるとはけっして明言しませんでした。二十日の参院有事法制特別委員会での筆坂氏の質問は、海外で自衛隊が戦闘地域であっても米軍支援をおこなう「きわめつけのアメリカ戦争支援法」という、有事法制の危険な本質を明らかにしました。
新ガイドライン・周辺事態法で自衛隊が海外でおこなう米軍支援には、「戦闘地域には行かない」「米国の武力行使と一体化しない」、もし危なくなれば「逃げる」という制約があります。
同法にもとづき海外に展開する自衛隊にたいし武力攻撃が「予測」されたとき、つまり、有事法制が発動される「武力攻撃予測事態」になったとき、この制約はどうなるのか−。筆坂氏がただしたのは、この点でした。
筆坂 「武力攻撃予測事態」(での米軍支援)では、「戦闘地域に行かない」「米国の武力行使と一体化しない」という制約は取り払うのか。
石破茂防衛庁長官 (「周辺事態」と「予測事態」とでは)事態が違う。取り払うとか、しないとかの議論はなじまない。
石破長官は、何度追及されても「制約をつける」とは明言しません。
政府は、「予測事態」での米軍支援について、「今後、米側のニーズ(必要)を踏まえて具体的に検討し、必要な法制を整備する」(川口順子外相、五月十三日)としています。
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筆坂氏は「『アメリカのニーズ』は明りょうだ」と指摘し、米国家安全保障会議のマイケル・グリーン日本・韓国部長が、日本にたいし「『武力行使の一体化』禁止原則の緩和」を要求していたことを紹介(別項)。石破長官も「ここは危なくなりましたから『さようなら』といった場合に何が起こるんだろう。同盟国とは何だろう。実際の現場でそれが本当にもつのか」(三月五日、参院予算委員会)と答弁していたことを指摘しました。
筆坂氏は、重ねてただしました。
筆坂 有事法制では「さようなら」といわなくするのではないのか。「予測事態」で(戦闘地域での米軍支援を)やるのか、やらないのか。
石破 これから議論することだ。なし崩し的に集団的自衛権行使に触れることはない。
それでも石破氏は結局、「制約をつける」とは明言しませんでした。米軍を支援する自衛隊が戦闘地域でも、逃げ帰らずに支援をつづけかねない危険が浮かび上がりました。
さらに筆坂氏は「政府はすでに、『戦闘地域には行けない』『米国の武力行使と一体化しない』という原則を踏み破っている」と強調。テロ対策特措法にもとづき派遣された海上自衛隊の補給艦が二月二十五日に、イラク戦争の「コンバット・ゾーン」に米国が指定したオマーン湾で、米給油艦を通じて米空母キティホークに給油した問題を指摘しました。キティホークはこのとき、テロ対策特措法の支援対象外であるイラク南部の監視・爆撃作戦「サザン・ウオッチ」に参加していたことが明らかになっています。
「コンバット・ゾーン」とは、「戦闘部隊が作戦遂行のために必要とする地域」(米統合参謀本部)で、まさに戦闘地域そのものです。
筆坂氏は「『アメリカのニーズ』があれば、アメリカが指定した『コンバット・ゾーン』にまで入っていくということではないのか」と追及。
石破長官が「コンバット・ゾーンとは…」と答弁を始めると、自民党席から「戦うところだ」とヤジが飛びました。
それでも石破長官は「(自衛隊の給油支援は)テロ対策特措法の範囲内でやっている」との答弁を繰り返すばかり。
筆坂氏は「ごまかしだ。すでに制約は踏み破られている。それを有事法制は、法律の上でも取り払おうというものだ」と批判しました。
筆坂氏は、新ガイドラインで「新たな施設・区域の提供」を約束していることを指摘し、有事法案では、「予測事態」から陣地をつくることになっており、それを米軍に提供することが大きな目的の一つになっているのではないかとただしました。
川口順子外相は、「検討課題の一つだ」「必要であれば日米地位協定にもとづいておこなう。施設・区域(の提供)ということも入る可能性はある」と認めました。
筆坂氏は、米軍に陣地を提供するため、罰則付きで国民の土地の強制収用までおこなおうとするものだと批判。「こんな法律をつくることは、絶対に認められない。廃案にすべきだ」と強調しました。
「私は、…憲法改正(あるいは少なくとも解釈の変更)が必要であると信ずるものである。…最初の段階目標は、『武力行使の一体化』禁止原則の緩和である。日本の安全保障に影響を及ぼす周辺事態について、自衛隊が米軍を効果的に支援することを妨げている内閣法制局の見解は、きわめて現実離れした独善的なものである。…したがって、最初の『落としどころ』は、『武力行使の一体化』禁止原則を緩和することであろう」(「日本が取るべき現実的安全保障政策とは」=『論争 東洋経済』2000年3月号から)
新ガイドライン(日米軍事協力の指針) 日米両政府が一九九七年九月に合意。日本「周辺」地域での「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」(周辺事態)で、軍事作戦を展開している米軍にたいし、日本が、新たな施設・区域の提供や、補給、輸送、整備、医療といった兵たん活動などをおこなうことを決めました。米国がアジア太平洋地域でおこなう介入・干渉戦争に、日本が武力攻撃を受けていないのに、参戦、協力する仕組みをつくるものでした。
周辺事態法 新ガイドラインを国内法として具体化したもので、九九年五月に成立しました。政府は、建前のうえでは、“憲法上、海外で米国がおこなう武力行使と一体化した活動はできない”としてきました。このため、同法では、海外での米軍への兵たん活動は、戦闘行為がおこなわれない公海とその上空に限り、近くで戦闘が起こったり、それが予測される場合には、撤退することになっています。