2003年5月24日(土)「しんぶん赤旗」
イラク戦争前、戦争の容認を迫る米、英と、平和的解決を求めるフランス、ロシア、ドイツなどは、国連安保理を舞台に厳しく対立しました。米英両国は安保理の大勢を無視して戦争を開始。それから二カ月余り。対イラク経済制裁を解除する決議が、同じ舞台で、シリア(欠席)を除く全会一致で採択されました。(ニューヨークで浜谷浩司)
「決議は完全なものではない」。「反戦」派の代表格フランスのドラサブリエール国連大使は、決議採択後の演説でこう語りました。
「決議は妥協の産物。ほしいものすべてを手にしたものはいない」。アナン国連事務総長も決議採択後、記者団に語りました。
「妥協」。イラクを軍事占領した側からも、戦争に反対した側からも聞かれたことばでした。三度の修正をへて、国連の役割が拡大され、大量破壊兵器についての国連査察団の活動についても再度考慮する内容も盛り込まれました。それ自体が国際世論の反映でした。しかし、その一方で、米英占領軍の主導権を容認するという原案の基本は残されたままでした。
「国連は(イラクの)政治的、経済的過程において中心的役割を果たすことができる」。ドイツのプロイガー大使は演説で、決議での国連の位置をこう指摘しました。
米、英占領軍に絶対的ともいえる権限を認めた原案に対して、三度の修正をへて、最終的に採択された決議は国連の権限を拡大しています。原案の国連「特別調整官」も「特別代表」に格上げされました。
ロシアのラブロフ大使は、決議のいう国連特別代表に「十分な権限があるのか」との記者団の質問に答えました。「イエスだ。代表はイラクの各勢力にアクセスできるし、強力な権限を持っている」。仏大使も「国連には実体的な役割がある」と強調しました。
イラク戦争に反対した各国が賛成にまわったのは、問題は残されているものの、国連の位置付けは拡大されたとの認識があります。
しかし、その一方で、多くの修正にもかかわらず、決議は米英の軍事占領を承認するものとなっています。
占領軍統一司令部=権限者。占領軍こそが戦後のイラクを当面とりしきる権威者であるとの基本構造は残されました。決議は一九四九年のジュネーブ条約など占領軍のありかたについて定めた「国際法の義務の完全な順守」をうたっているものの、その規定をはるかにこえた新政権づくりへの関与までおこなうことにしています。
しかも戦後復興の主役をになう「イラク開発基金」をしきる中心になるのは事実上「権限者」となる可能性が大です。
決議が軍事占領を認めたことは、その前提である対イラク戦争を認めたものではないのか?その疑問が記者団にありました。「反戦」諸国の大使はこう語りました。
「戦争を正当化するものは、決議にはない」(ロシア大使)。「今回の決議によって、戦争前の立場を変えるものではない」(フランス大使)
決議は、今後の法的枠組みの土台をすえるものだ、と多くの大使が強調しました。その前提として、「決議の交渉は、国連憲章を基礎にして行われた」(ロシア大使)との指摘がありました。
憲章の原則を破った違法な戦争を認めるものではない、との主張です。
決議討論を通じて各国が強調したのは、イラク国民自身による政治的選択の重要性でした。他国の支配を許さないイラク国民のたたかい、それを支える国際社会、国連の新たな役割が重要になってきます。