2003年5月24日(土)「しんぶん赤旗」
〈問い〉 裁判の「迅速化」を目的とする法案が出ているそうですが、どうしようというのですか。(東京・一読者)
〈答え〉 迅速な裁判は国民の「裁判を受ける権利」を実質的に保障する重要な要素です。しかし、政府が今国会に提出している「裁判の迅速化に関する法律」案は、大前提となる人的・物的・制度的充実を何らはかることなく、すべての裁判に一律に「迅速化」を迫り、これを最高裁判所がチェックするという統制色の強いものです。
法案は、「二年以内のできるだけ短い期間内に」などと、裁判を終結させる期限を明示しています。
そして、法廷指揮権をもつ裁判官に「目標を実現するよう努める」との責務を課し、最高裁判所が長期化した裁判について原因の「検証」を行います。
実際には、政府の調べでも、ほとんどの裁判は二年以内に終結しています。二年以上かかる裁判は、行政事件や労働事件、公害など、事実認定や法的判断が難しい事件です。しかも市民にたいし圧倒的に優位に立つ行政官庁や大企業が、手持ちの証拠を隠したり出し渋ることが多く、裁判長期化の原因となっています。刑事裁判も、警察や検察が密室捜査で作成した供述調書に頼っているために、調書の任意性が争われ、また検察が証拠を全面開示しないため長期化しているのです。
これらの裁判に「二年以内」などと迅速化を促すなら、現在でも必要な証拠調べや鑑定が省略されているのに、いっそうまともな証拠調べは行われなくなります。とりわけ裁判官人事権を握る最高裁の「検証」は、裁判官を圧迫し「裁判官の独立」を侵す危険をはらんでいます。
日本弁護士連合会は、民事裁判の証拠収集手続きの抜本拡充や、刑事裁判の「全面的な証拠開示」「捜査過程の可視化」などが迅速化に不可欠と指摘し、「検証」も「訴訟手続を利用する市民と訴訟関係者からなる第三者機関」によることを提起しています。
(水)
〔2003・5・24(土)〕