2003年5月25日(日)「しんぶん赤旗」
小泉首相は、米国での日米首脳会談で、イラク戦争と戦後「復興」での米国の占領政策支持、現地への自衛隊派遣を表明したその足で、中東訪問中です。二十四日にカイロでエジプトのムバラク大統領と、二十五日にリヤドでサウジアラビアのアブドラ皇太子と会談します。イラク戦争後初めての日本の首相の中東訪問。これまで総じて親日的だったアラブ諸国の国民はいま厳しい目で日本の首相の訪問をみています。
イラク戦争に反対したエジプト政府とこれに賛成というより協力した日本政府の違いは明らかです。しかし、日本との関係発展を望むエジプト政府は小泉首相の訪問を歓迎しています。外務省のアジア担当のシャラビ次官は「日本のイラク戦争支持は両国関係に影響しない」「すべての問題で見解は一致しないものだ」と表明。同時に、「国際的合意がなかったイラク戦争は違法だ」というのが政府の立場だと強調しました。
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大多数の市民の見方は「日本は戦争を支持」したというより、むしろ「参加」したというもの。
カイロ市内に住むビジネスマンのアルマニ氏(40)は、日本の自衛隊の米軍への給油援助もよく知っていました。「アラブはみんなアメリカに反対だ。日本がアメリカ支持を続けたらアラブの友人はみんな失うぞ」と警告します。
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市内のカフェで出会ったアリム氏(55)は「(被爆の)ヒロシマ・ナガサキに同情する」と話します。米国に痛い目にあったのはアラブと同じという思いです。イラク戦争で日本は米軍を援助したと伝えると「おれは信じない」と言い張ります。米国に攻撃された日本が米国の戦争を助けるのは彼の想像を超えているようでした。(カイロで小玉純一)
サウジアラビアを最近訪れたある日本人ビジネスマンはいいます。「サウジの庶民はいま完全に反米。くわえて急速に高まっているのが反日の声です。実際にアラビア海を往来する日本の自衛艦を目撃した市民から、あれはいったいなんだと怒りの声をぶつけられました」
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中東湾岸諸国はほとんどの国が親米、米国と友好関係あるいは同盟関係にあります。しかし、イラク戦争にあたっては、明確に反対あるいは批判的な姿勢をとりました。戦争の拠点となったカタールですら、政治的にはイラクの主権尊重を表明しました。
これにたいして、イラク戦争を公然と支持しただけでなく、積極的に協力し、戦後のブッシュ政権の中東支配政策を支持する小泉政権。対米従属のその日本政府の中東外交はいまアラブ諸国市民の目には明確に、中東敵視の外交と映り始めています。
「なんでアメリカを支持するんだ」。イラク戦争の間中、ヨルダンの首都アンマン市内で、こちらが日本人だと知った市民から決まってかけられた言葉です。取材拒否にあったことも一度や二度ではありませんでした。ある日本人記者は「アメリカのイエローモンキーとののしられた」といいます。
友人の市民はいいました。「ヨルダン人はみな家庭で、衛星テレビで、小泉首相が米国の戦争を支持するといっている発言を繰り返し目にしているんだ。イラクで、たくさんの同胞が死んでいるときに」。とりわけ、憲法で戦争を禁じている平和国家日本のイメージが強いだけに、期待を裏切られたことに怒りが広がっているといいます。
アンマン大学で英文学を専攻する女子大生ラナ・シャミさん(22)は「日本政府の立場をとても悲しく思いました」といい、「第二次世界大戦で大きな被害を受けた日本は、戦争に最も強く反対すると思ったからです。戦争で被害を受けた人々はその惨状を最もよく知っているはずです」と続けました。
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ラナさんの友人のモハメド・サブリさん(24)=グラフィック・デザイナー=は、「日本が戦争を支持することをすべての人々が予測していませんでした」と切り出し、「原爆を落とされたことのある日本がすることは、戦争反対を貫くことではないのでしょうか」と逆に質問を返してきました。
市内の電器店で働くマイスーン・アブドラさん(28)はこう語ります。「なぜ日本は戦争を支持したのでしょう。理解できません。原爆を落とされ、第二次大戦で被害を受けた日本こそ、戦争の悲惨な実態を知っているはずでしょう」
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さらに、アンマンの国連教育科学文化機関(ユネスコ)に勤務するラミ・アヤシュさん(27)はいいます。「日本の人々が戦争に反対していることを知っています。政府は、国民の意見に従わなければならないはずです。にもかかわらず、日本政府は、国民の声を無視し、戦争を支持するという間違った道に進みました。日本政府がそんな態度を取るとは思いもよりませんでした。国際的な紛争は、戦争ではなく、国連などを通じた外交で問題を解決すべきです。そして、これこそ、平和国家日本の政策だったのではないのでしょうか」
(アンマンで岡崎衆史)
アラブ首長国連邦の新聞アルイッティハド十六日付は「日本の湾岸諸国に対する外交政策」と題する論評を掲載しました。同論評は次のように述べています。
日本の外交に欠けているのは、この地域の人々の人間像と、敵対している諸国民の感情と歴史的経験―それはすべての湾岸諸国の政策に大きな影響を与えているのだが―を真に理解し把握することにあるようである。そしてこのことが、日本が幅広く責任ある外交的役割を果たす真の能力を持てないでいる最も重要な障害なのかもしれない。
日本のこの地域への関心は、起こってからの問題によるものであり、真にさまざまな利益に基づく関心ではない。石油はこれらの要素の中のたった一つの要素にすぎないのだ。したがって、日本の現在の関心は、紛争が石油供給の停止につながるかもしれないという恐れに基づいたものである。だからこそ、日本の湾岸地域に対する外交政策は、日本への石油供給が脅かされることがないと感じた瞬間に変わるのである。このような政策は短期的なものに過ぎず、結局は失敗するものだ。