2003年5月31日(土)「しんぶん赤旗」
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主要国首脳会議(エビアン・サミット)が六月一日から三日間、仏レマン湖畔の保養地エビアンで開かれます。初日には主要国(G8)と途上国首脳による南北首脳会議がおこなわれ、中国が初参加します。サミットは一九七五年の初開催以来、大国主導の世界秩序維持のための主要国の政治的結束と経済協調の場となってきました。それが今回はイラク戦争をめぐって真っ二つに分裂し、経済面のずれも目立っています。世界の平和と諸国民のためになる政治、経済の体制をつくる問題で、どういう役割を果たすかが問われています。
フランス |
対抗姿勢 |
「エビアンは、各国が人類に奉仕するために理解し合い、ともに行動できるし、そう望んでいることを示す機会である」−各界と外交団を前にしてシラク仏大統領は二十一日、こう強調しました。
議長国としてサミット成功のために、対立を背後に追いやり、「協調」を演出することにシラク氏は腐心しているようにみえます。
イラク問題で反戦国のリーダーとして米国と対立したものの、復興問題では米英主導の安保理決議案に妥協して賛成する「現実主義的」対応をとりました。
その一方で、単独行動主義への傾斜を強めるブッシュ米政権に歯止めをかけようとする意図を隠していません。特にブッシュ政権が描く一極支配の世界像に対しては、多国間の協調、多極世界を主張して「対抗」する姿勢を変えていません。むしろサミットはそのことを世界に示す格好の機会だととらえています。
シラク大統領は四月末、欧州四カ国による防衛ミニ・サミット後の記者会見で、「世界を眺めれば、望むと望まざるとにかかわらず多極的な世界がつくられつつあり、それは不可避だ」とのべ、欧州、中国、インド、南米などがそれぞれ極になるだろうとの見方を示しました。
その中国が今回初めてサミットに招待参加するのをはじめ、インド、マレーシア、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、ナイジェリア、セネガル、モロッコ、エジプト、アルジェリア、サウジアラビアの十二カ国首脳が、G8首脳と会談します。「多極世界サミット」の見せ場になります。
信頼回復 |
シラク大統領は二十一日の演説などで「信頼回復」をキーワードにして、サミットに臨むことを明らかにしています。「エビアンでは、世界経済再活性化のためにわれわれは全力をつくすという、信頼のメッセージを世界に送ることが全参加者の任務である」
その「信頼回復」をさらに「責任」「連帯」「安全保障」の三つのテーマに分けて、サミットの狙いを明らかにしています。
米大企業エンロンやワールド・コムの破たんにみられる金融・会計スキャンダルとは無縁な「責任ある市場経済の諸原則」を確認することを第一にあげています。これは株主優先、企業利益重視の米型経済モデルにたいして、労働者や地域への企業の社会的な責任を重視した「ルールある資本主義の諸原則」と言い換えることも可能でしょう。
第二は、環境問題にも配慮した持続可能な経済成長を確保するための発展途上国との「連帯」です。「健康、食料、水、環境」を基本権として確認し、気候変動にかんする京都議定書の実行を強く迫る意向です。
最後の「安全保障」は国際テロや大量破壊兵器拡散にたいするたたかいですが、「国際法の適法性の枠内で行動する」とクギを刺しています。
この三つのテーマが、ブッシュ政権の信奉する「自由、効率、力」と好対照をなしていることはいうまでもありません。
(パリで浅田信幸)
アメリカ |
譲歩なし |
イラクに侵攻した米、英両国とそれを支援した日本やイタリア。一方、平和解決を追求して戦争反対を貫いたフランス、ドイツ、ロシア、カナダ。サミット参加各国が戦争と平和をめぐってこれほどまでに対立したのは、二十九回目となる今回が初めてです。
「ブッシュ大統領はサミットの機会に亀裂を修復しようとしている。しかしそれは、ブッシュ大統領側の条件に沿ってであって、イラク戦争に反対した国に譲歩はしない」。ワシントン・ポスト紙(二十八日付)が伝えた米政権高官の発言です。
同記事はさらに続けます。「ブッシュ大統領は、イラクでの軍事勝利が、『大統領と米国に大きな政治的資本をもたらした』とみている」。戦争を支持する国の「有志連合」を率いて、イラクで「戦勝」した唯一超大国としての「実績」。それを支えに、世界のリーダーとして振る舞おうというのです。
「フセインがいなくなって世界がよくなった、と思わないものが一人でもいたら顔を見てみたい」。ライス大統領補佐官(安全保障担当)は二十八日の会見で、世界は米国の軍事力を尊重し、協力すべきだと主張しました。「米国の力というのは『監視すべき』ものではなく、共通する目的に向かって協力し合おうというものだ」。
ブッシュ大統領は、フランスに冷たい視線を投げます。フランスはロシアやドイツとも違う。イラク戦争で意見が違ったというだけでなく、フランスは積極的に米国のじゃまをした、というわけです。
イラク戦争直前、米国の提出した戦争容認決議案をめぐって、国連安保理で多数派工作が展開されました。そのさなか、ドビルパン仏外相はアフリカの三非常任理事国を歴訪し、決議に賛成しないよう説得しました。米国は、決議採択に必要な賛成をついに確保できず、国連のお墨付きを断念。厳しい孤立感を味わいました。
「ブッシュ大統領が世界の指導者をどうみているかを理解するには、『忠誠度メーター』をみる必要がある」というのは米ブルッキングス研究所のダールデル上級研究員。同氏が測るシラク大統領のブッシュ大統領への「忠誠度」は、「ゼロ以下」。
意趣返し |
ブッシュ米大統領が、エビアンでの滞在を丸一日だけと短縮し、中途退場することが憶測を呼んでいます。ホスト国フランスに対する意趣返しだとする見方です。ブッシュ大統領がサミットの機会に行う二国間会談も、今回は、初顔合わせの胡錦濤中国国家主席だけ。ホストのシラク仏大統領とは顔を合わせるものの、かたちだけにとどまります。
だが、出席を早々に切り上げるのは、サミットの場では「戦勝」という「政治的資本」を振り回せないからではないかとの指摘もあります。
ブッシュ大統領がフランスで、イラク「戦勝」を掲げて世界のリーダーを自任し、「力」に頼った政策を追求すれば、欧州世論の反発は必至。フランスばかりでなく、米国との和解を模索しているドイツにも反発を飛び火させることになります。
ロシアもすでにサミット直前の中国との共同声明で、イラク問題は「国連の軌道に戻せ」と言明し、対抗軸を明確にしています。
米国の強硬路線は、イラク戦争をめぐって起きた安保理の対立を将来に向かって固定化し、米政権の足を今後とも引っ張りかねません。
ブッシュ大統領が今回の歴訪で重視するのはエビアンより、実はポーランド訪問だとの見方があります。ポーランドはイラク戦争に積極的に協力し、いま七千人の軍を送り込んで米英占領体制を支えようとしているからです。
ブッシュ大統領は同地で米国と欧州との関係について演説します。新たな同盟国の国内で重要演説をしサミットは早々に切り上げる−。「力」を誇りながら、実は「孤立の不安」が垣間見える歴訪になりそうです。
(ワシントンで浜谷浩司)
エビアン・サミットの経済分野での注目点の一つは、これまでの米国主導の貿易・外為など世界経済の「グローバル(地球規模)化」戦略の行方です。それが、世界不況の進行や、米英のイラク攻撃で広がった欧米間の亀裂の中で、米国によってどれだけ“修復”されるか、それとも、より米国の単独行動主義が経済でもあらわになるかです。
このサミットに向けて開催された財務相会合(十六、十七日、フランス・ドービル)は声明で、世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(新ラウンド)の期限通りの合意達成をめざすことをうたいました。
しかし、今年三月末が期限だった農業交渉が決裂したのに続き、五月末期限の非農産品交渉や紛争処理規則改正交渉も最近相次いで決裂。新ラウンド七分野の交渉のうち、三分野が暗礁に乗り上げた形です。
WTOの新ラウンドは、米国など輸出大国のためのいっそうの貿易「自由化」が狙いですが、それが発展途上国の発言力の強化もあって、行き詰まっているのです。
一方、日本はじめ世界に影響を持つ米国経済は、「IT(情報技術)バブル」崩壊を受け、低迷を続けています。ブッシュ政権は、それを事実上のドル安放置による自国の輸出大企業保護政策で切り抜けようとしています。
しかし、米国のドル安放置政策は、米主導の「グローバル化」で推進されてきた外為「自由化」の下、米国金融資本の投機を誘い、円やユーロの急騰を招いています。これは、日本や欧州の輸出産業に打撃を与え、それらの国の産業「空洞化」を招くなど、新たな景気悪化要因として浮上してきています。
(今田真人記者)
小泉純一郎首相のサミット出席は今回が三回目です。イラク戦争をめぐる米英と仏独ロの“対立”のなかだけに、首相の態度がいっそう鋭く問われることになります。
先の日米首脳会談では、「イラクについて大統領は困難で勇敢な決定を下し、私は支持した。われわれの決定は正しかった」と“戦勝”を喜び合うなど、強固な日米同盟を印象付けました。
一方でイラク復興をめぐって、首相は四月末の仏独両国歴訪で「国連が中心的役割を果たすべきだ」ということで一致しました。しかし日米首脳会談では、国連の役割にはいっさいふれませんでした。
首相は二〇〇一年のジェノバ(イタリア)では地球温暖化防止の京都議定書からの離脱をめぐって、昨年のカナナスキス(カナダ)では、パレスチナ自治政府のアラファト議長退陣要求をめぐって、それぞれ欧州諸国から批判を浴びたブッシュ米大統領を、ひとり擁護しました。
日米首脳会談で「対話と圧力」を強調した対北朝鮮政策で、日本政府としては、この路線をサミットの場に反映させたい考えです。今回はじめて中国がサミットに出席することで、サミットにおける“アジアの一員”としての日本の立場に変化が生まれるのかどうかも注目です。
(山崎伸治記者)