2003年6月1日(日)「しんぶん赤旗」
「いつまでも審議を続けることはできない。入り口もあれば出口もある」(五月二十九日、参院有事法制特別委員会の山崎正昭委員長)。政府・与党は、有事法案の参院審議を早々に打ちきり、早期成立をはかろうとしています。しかし、これまでの参院有事特別委での審議で、米国の先制攻撃の戦争に自衛隊が公然と武力行使をもって参戦し、国民を強制動員する法案の危険は、いよいよはっきりしてきました。
米軍への兵たん支援 |
池田幹幸議員(日本共産党) 航空会社が(米軍物資輸送を)いやだといったら、どうするのか。強制できる法律を別につくることを想定しているのか。 石破茂防衛庁長官 強制するかしないかを含め今後の検討課題だ。(五月二十六日) |
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有事法案では、政府が指定する民間企業・機関(指定公共機関)が、日本が武力攻撃を受けていない「武力攻撃予測事態」の段階から米軍への物品・施設・役務の提供=兵たん支援を行うことを定めています。また、「指定公共機関」が「武力攻撃事態」「武力攻撃予測事態」に対する「対処措置」の実施を拒否した場合、首相は別に定める法律にもとづいて実施を指示できるとしています。
石破長官の答弁は今後定める「別の法律」によって航空会社などを米軍支援に強制動員できるようにすることも検討する考えを示したものでした。
ガイドライン(日米軍事協力の指針、一九九七年)では、「武力攻撃予測事態」と重なり合う「日本に対する武力攻撃が差し迫っている場合」に、日本が米軍の「来援基盤を構築し、維持する」と明記しています。
防衛庁の守屋武昌防衛局長はこの「来援基盤」について、(1)航空機を迎え入れる場合に運用する飛行場(2)船が入る場合の港湾(3)その活動を維持するための必要な物資の輸送、補給−−を例示し、「米軍の戦力発揮を維持する機能」と答えました。
「予測事態」から日本全体が米軍の兵たん基地となり、「指定公共機関」がその重要部分を担わされることになります。
さらに法案では、「予測事態」から自衛隊の陣地構築のため、国民の私有地を一片の公用令書で強制使用できることを規定しています。
「掩体(えんたい)=銃座、砲座など=、鉄条網、指揮所、監視哨、対戦車ごう…」。石破長官は二十八日、日本共産党の岩佐恵美議員に対し、この陣地につくられる施設を例示。
しかも石破長官は米軍がこれらを使用する可能性について、「現在のところは想定していない」とのべるだけで否定していません。国民の土地が、無法な先制攻撃を行う米軍のために強制的に取り上げられる危険があります。
米軍支援法制 |
平野達男議員(自由党) A国とB国が紛争になり、周辺事態法が適用され、A国が、日本が(B国=米軍の)後方支援をしているのはけしからぬと攻撃のしぐさを見せたら、「周辺事態」から「予測事態」に、武力攻撃事態法(有事法案)にスイッチ(移行)することはあり得るのではないか。 石破茂防衛庁長官 理屈の上からはあり得る。スイッチする事態がないとはいわない。(五月二十七日) |
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有事法制はどのような事態で動き出すのか−。有事法案をめぐる審議で焦点の一つになっているのが、この問題です。
石破長官は、周辺事態法にもとづき海外で米軍の戦争を支援する自衛隊に、相手国が攻撃をしかけようとした場合でも有事法制が発動されることを認めました。
一方で石破長官は、周辺事態法では、戦闘地域では米軍を支援しない、近くで戦闘が起きれば活動を一時中止することになっているため、「現実には起こり得ない」と繰り返します。
しかし実際には、海外で米軍の戦争を支援する自衛隊への攻撃こそ「ほとんど想定されない日本への武力攻撃のなかで一番あり得る」(日本共産党の吉岡吉典議員、五月二十七日)のです。
吉岡氏は、攻撃するかどうかは、日本の意思ではなく相手国の判断であること、米軍支援が国際法上参戦行為とみられること、自衛隊が逃げるところへ向かって相手国が攻撃する可能性もあることなどを指摘。「逃げるから大丈夫という理屈は成り立たない」ことを明らかにしました。
五月二十九日の福井市での地方公聴会では、有事法制賛成の立場の専門家からも、「周辺事態」そのものが、有事法制を発動する事態に近く、「現実的シナリオとして考えたとき、両方が発動されることが一番多い」(村田晃嗣・同志社大学助教授)との指摘があがりました。
筆坂秀世議員(日本共産党) 対米支援法では、周辺事態法と同じ制約を設けるのか。 石破長官 今後の検討だ。(五月二十日) |
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周辺事態法に“戦闘地域には行かない”“危なくなったら逃げる”という制約があるのは、戦闘地域で米軍を支援すると、「米軍の武力行使と一体化する」ため、憲法が禁じている集団的自衛権の行使にあたるという理屈からです。
それでは、周辺事態法にもとづいて海外で米軍の戦争を支援する自衛隊への「武力攻撃予測事態」が起きて、有事法制が動き出した場合、米軍支援はどうなるのか−。筆坂氏は周辺事態法にある制約を、このときにもつけるのかとただしました。
有事法案は、「武力攻撃事態」や「武力攻撃予測事態」に際しての米軍支援法制を今後速やかに整備すると定めています。しかし、政府はその具体的内容は「今後の検討」というだけで示そうとしません。
石破長官は「集団的自衛権に触れる立法はあり得るはずがない」とも答弁しました。しかし、その保障であるはずの“戦闘地域には行かない”“危なくなったら逃げる”という「制約をつける」とは、何度追及されても、答弁しませんでした。
米軍支援法制は戦闘地域での米軍支援=「武力行使と一体」になった米軍支援に公然と道を開く危険があるのです。
実際、閣僚や与党、衆院で有事法案に賛成した民主、自由両党からあがっているのは、集団的自衛権の行使ができるようにすべきだという大合唱です。(別項)
小泉親司議員(日本共産党) 「周辺事態」では、米国の先制攻撃に協力しないのだな。 川口順子外相 米国が国際法に違反することは考えられない。(五月二十七日) |
小泉氏の追及に、川口外相はこう繰り返し、「協力しない」とはいいませんでした。
川口外相は「日本が国際法上認められない活動に加わることはない」とも答弁しました。しかし政府は、世界の圧倒的多数の国々が国際法違反と非難したイラクへの先制攻撃の戦争についても「国連決議にもとづくもの」といってはばからない立場です。衆院の審議で政府は、米国の先制攻撃によるものでも有事法制の発動があり得ることを認めています。いくら「加わらない」といっても、保証は何もありません。
「基本的人権尊重」の中身は… 民主党は、与党との共同「修正」案に「基本的人権の最大限の尊重」が盛り込まれたことを「成果」として誇っています。しかし、「国民の自由と権利」に「制限が加えられる」という法体系はそのままです。 そもそも、「有事の際に自由が制限されるのは当然。戒厳令や土地・物資の強制収用、言論統制、行動の規制は国権の発動上、当然のこと」(自衛隊OB、五月二十九日の横須賀市での地方公聴会)なのです。 例えば、有事法案の一つ、自衛隊法改悪案では物資保管命令に違反した場合、懲役刑が科されることになっています。 「戦争は嫌だという行為を処罰するのは、その人の思想・良心の自由の制限になるのではないか。これは基本的人権の尊重なのか」。こうした質問に、「修正」案提出者の渡辺周衆院議員(民主党)は、「協力を求められた人間が拒否した場合、国益にかなうか否かで判断せざるをえない」と答弁(五月二十三日)。 個人の思想・信条の自由よりも「国益」を優先させる考えを示しました。 |
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“集団的自衛権行使認めよ”の大合唱 福田康夫官房長官 舛添要一議員(自民) 「(憲法に)国際協調の下での武力行使は認めるとはっきりした方が分かりやすい。集団的自衛権は当然持っていい」(22日) 椎名一保議員(自民) 「集団的自衛権についても主権国家として当然に保有する権利であり、保有する以上行使できるのは当たり前だ」(27日) 前原誠司議員(民主) 「(集団的自衛権行使容認に向け)大いに議論し、最終的には国民に資する政府解釈、あるいは憲法を築き上げていく必要がある」(22日) 若林秀樹議員(民主) 「日米同盟にもとづいて仮に武力攻撃予測事態になって攻撃されたときに(集団的自衛権行使を認めないからといって)日本が報復できないことは、米国民には考えられない。その瞬間、日米関係は崩壊する」(22日) 平野達男議員(自由) 「(「周辺事態」では)火事に例えると、どんどん大きくなってきたら(自衛隊は後ろに)下がる事態になる。そういうときだからこそ本当は自衛隊は行って、輸送活動をやらねばならないはずだ」(27日) |