2003年6月2日(月)「しんぶん赤旗」
有事法案と日本の軍事大国化の動きに、アジア各国から批判が続いています。シンガポールと韓国、中国の論調、政府の対応を紹介します。
六日から訪日する韓国の盧武鉉大統領は五月二十八日、日刊紙ハンギョレとのインタビューで、「北朝鮮の核問題を口実に平和憲法を捨てる動きもある」と問われ、次のように答えました。
「北東アジアの新しい未来、平和と繁栄の新しい未来を国民に提示し、その方向に進むために私たちみんなが努力し、その方向の障害物になることはするな、こういう方向で話そうと思う」
「日本に感情的に指摘すれば、日本が自省する契機にならない」「反日感情が沸き起こったときも、私は国内向けに外国を批判する発言をしなかった」
声高に日本を批判、追及して国内での人気取りを狙うことはしないが、言うべきことははっきり言う、という姿勢です。盧大統領は、「責任ある人と真剣に話す」とも語りました。
国会では五月十九日、与野党議員が有事法制への対応を尹永寛・外交通商相にただしました。
尹氏は、「日本の軍事力膨張の意図の現実化」については「もう少し推移を見守るべき」だと慎重に答弁する一方、「憂慮」を表明。有事法制は「日本国内の保守化の傾向」の「代表的な例」だと指摘し、「平和憲法、専守防衛、非核三原則の基調」を維持するよう日本政府に求めていると説明、韓国政府として「韓日友好関係、さらに北東アジア地域の平和構築と安定に否定的な影響を与えないよう、外交的な努力を続ける」と強調しました。
中国共産主義青年団機関紙、中国青年報(電子版五月三十日付)は、日本の軍事大国化がアジアの不安定要素となることを懸念し、日中両国が歴史問題を乗り越えるには多くの困難があるとする論評を掲載しました。
「日中関係は歴史問題を乗り越えられるか」と題する同論評は、「日中間に激しく逆巻く底流のほとんどが歴史問題に起因するものだ」と指摘。日本がこの二年間で、反テロやイラク戦争、朝鮮問題を利用し、関係国内法を成立させて実質的に日本の「平和憲法」を空洞化させたことは、日本の再武装を助長するとしています。
その上で小泉首相が、自衛隊は軍隊であると公の場で語ったことを紹介。「正しい歴史観がないまま再武装した日本は、東アジアの不安定要素だ」と警告を発しました。
また、経済低迷に苦しむ日本が東アジア協力を建設的に推進する役割を果たさなければ、中韓、東南アジア各国が東アジア協力の大局を形成し、日本を隅に押しやることもあると指摘。このような状況でも「日本はまだ日米関係が対外関係の中心だと強調し、安全保障でもアメリカに頼っている」とのべました。
最近、日本との歴史問題を棚上げすべきだとの意見が中国国内にあることについては、「両国間に誠意と和解がなければ歴史問題を避けることは不可能だ。誰かが棚上げしろといってできるものではない」と批判しました。
シンガポールの華字紙、聯合早報五月二十八日付は、「日本、憲法を迂回(うかい)して戦争を準備」と題する論評記事を掲載し、有事法案に強い警戒を表明しました。
記事は、「歴史的に日本でいわれる『有事』とは一貫して外国での『有事』のことであり、『有事』に備えるというのは海外での武力行使をねらうためだ」と指摘。「そのため、憲法を変更せずに有事法を制定するために何年も費やされた」とのべました。
記事は、「有事法案でいう『有事』には、必ずしも日本が攻撃を受けるという『事実』は含まれていない。むしろ、『攻撃される危険』さえあればよいのであり、それによって日本は自衛隊を出動させて防衛作戦をすすめることができる」と指摘しました。
また、「いわゆる『危険』の予測は、日本政府が一方的に判断できる。石破防衛庁長官によると、情報で北朝鮮が日本へのミサイル攻撃を計画していると証明されれば機先を制して北朝鮮に軍事攻撃を発動できる」としています。
記事は、衆議院で「政治的打算」から有事法案に賛成した民主党を、「『平和憲法』を完全に忘れて自民党政府に万全の戦争準備の権限を授け、日本の軍事大国への道をさらにすすめた」と厳しく批判しました。