2003年6月6日(金)「しんぶん赤旗」
政府・与党は、民主党、自由党の賛成をえて、五日の参院有事法制特別委員会で有事三法案の採決を強行しました。推進する勢力は「国家存立の基本」などと必要性を国民に説きますが、法案の危険性、問題点については、重大法案にもかかわらず、まともに審議しようという姿勢は、かけらもありませんでした。
衆院の特別委での審議は、全体で約八十八時間。参院での審議は、その半分の約四十八時間でした。しかも、与党と民主党の「修正」案を衆院で審議したのは、わずか二時間であり、参院でこそ、国民の声を十分に聞いた慎重な審議が求められていました。
法案は、国民一般に戦争協力の努力義務を課し、自治体や、政府が指定する民間企業・機関である指定公共機関にたいし、戦争協力を「責務」として課す重大法案です。「責務」とは「ある意味で法的な義務」(内閣官房)とされ、動員される当事者の声を聞くことは、法案の性格上、不可欠なものでした。
実際に参院有事特別委の地方公聴会の際、有事法案に賛意を示す自治体首長からも、法案の根幹である法案発動規定の「武力攻撃予測事態」について「説明は何回も受けているが、分からない。市民に説明しても理解は難しい」(沢田秀男横須賀市長、五月二十九日)との声があがりました。これに対し、ある政府高官は「深刻に受け止める」と語りました。
にもかかわらず、その後たった二日間審議しただけで、与党は委員会の採決日程を提案。衆院だけでなく参院でも、広く国民から意見をのべたい人を公募し、声をきく中央公聴会の開催も拒否しました。
野党である民主党も「気持ちは共有するが、審議全体のバランスがある」と同調し、国会改革連絡会(自由党、無所属の会)も五日の委員会採決に賛同しました。
わずかな参院審議の中でも、「国を守る」どころか、米国が海外でおこす戦争に、日本が攻撃を受けていない「武力攻撃予測事態」の段階から、自衛隊が参戦し、国民を総動員する明々白々の違憲法案という危険が明らかになりました。
米国がアジア太平洋地域に軍事介入したとき、自衛隊が米軍支援する周辺事態法には「戦闘地域には行かない」という制約がありました。しかし、同じ制約を有事法制に課すのかとの日本共産党の筆坂秀世議員の追及に、石破茂防衛庁長官は、決して「戦闘地域にはいかない」とは、ついに口にしませんでした。
自衛隊や自治体、民間企業・機関が具体的にどんな米軍支援を強いられるのかについて、今後整備する米軍支援法制で検討するというばかりで、ほとんど明らかにしませんでした。日本共産党の岩佐恵美議員が自治体に強いられる米軍支援の項目を明らかにするよう求めたのにたいし、内閣官房が示した文書は「地方公共団体の有する権限及び能力を適切に活用する」というものの、その内容は「今後具体的に検討し、定めていく」というだけでした。
法案の危険については語らず、国民の不安には耳も傾けない――。動員対象となる国民の理解を得ようともしない推進勢力のこうした姿勢のどこに、建前ではあっても自ら掲げた「国を守る」というまじめさがあるのか。
国民不在のやり方で、日本の進路を左右する重要法案をおし通した推進勢力の責任は、今後も問われ続けるでしょう。(田中一郎記者)