2003年6月20日(金)「しんぶん赤旗」
厚生労働省は、二〇〇四年の年金制度「見直し」にむけて、パートなど短時間労働者の厚生年金への加入を拡大し、新たに四百万人のパート労働者に保険料を負担させる案を示しています。低賃金のパート労働者からも保険料を徴収して制度の支え手を増やし、保険料の増収をはかるねらいがあります。(秋野幸子記者)
政府の調査によると、パート労働者は約九百五十万人。このうち厚生年金に加入しているのは三割(二百八十五万人)程度です。(二〇〇一年、パートタイム労働者総合実態調査)
現在、サラリーマンの妻はパートで働いていても、年収が百三十万円未満などの条件を満たせば「第三号被保険者」とみなされ、保険料を負担しなくても基礎年金を受けることができます。厚生年金に加入するのは、労働時間が正社員の四分の三以上の人。正社員が一日八時間労働なら、六時間以上ということです。
厚労省の「見直し」案は、この加入条件を「労働時間が週二十時間以上」、または「年収(年間賃金)が六十五万円以上」に拡大するというもの(図1)。労働時間が正社員の二分の一以上になるか、収入が月額に換算して五万四千円を超えると、厚生年金に加入しなければならなくなるのです。同省は、これによって厚生年金の加入者が最大で四百万人増えると見込んでいます。
この案が実施されると、家計にはどんな影響があるでしょうか。
月収七万円のパート労働者の場合、現行制度にあてはめると、新たに月六千六百五十四円の厚生年金保険料がかかります。保険料計算の際に収入の最低基準(月九万八千円)があり、実際の収入がそれ以下でも、月収は九万八千円とみなして保険料(13・58%、労使折半)を計算するためです。
これでは負担が重くなりすぎるとして、収入の最低基準を月七万円まで引き下げる案も出ています。この場合、保険料は月四千七百五十三円となります。一年間で五万七千円もの負担増です。
さらに、健康保険も厚生年金と同じ加入条件になっているため、こちらも年金と同様に夫の扶養家族でなくなると、新たに保険料を負担することになります。四十歳以上なら介護保険料も加わります。
厚労省の試算では、月収七万円で政府管掌健康保険に加入している場合、保険料負担は医療(8・2%、労使折半)で月二千九百円、介護保険(0・89%、同)で月三百円となります。厚生年金と合わせれば、月七万円の賃金から八千円が新たに保険料として引かれてしまうのです。(図2)
横浜市に住むAさん(41)は、スーパーで一日五時間、週五日パートで働いています。月収は約九万円。厚労省案が実施されれば、毎月一万円を超える年金、医療、介護の保険料が必要になります。「家のローンもあるので、二人の子どもの教育費や食費に私のパート代をあてています。保険料で一万円も引かれたら家計への打撃は大きい。夫の会社も不景気なので、不安です」と話します。
また、保険料は労使が折半して負担するため、とくにパートの雇用が多い中小企業の事業主からは「いまでもぎりぎりのコストで経営しているのに、保険料負担が増えたら死活問題だ」との声が出ています。
こうした保険料を負担した場合、老後に受け取る年金はどうなるでしょうか。
厚労省の試算では、月収七万円のパート労働者が厚生年金に四十年加入した場合で、基礎年金(月六万六千円)に上乗せさせる厚生年金は月一万五千円です。
先のAさんは「不況で生活が苦しいときに、私のようなパートの少ない収入からも保険料をとる前に、国がやるべきことがあるのではないでしょうか」といいます。
パート労働者も厚生年金に加入できるようにすることは、将来の生活保障のために基本的には必要なことです。しかし、いま日本のパート労働者がおかれている状況をふまえれば、まず、きわめて不安定な雇用状況や、同じような仕事についていても正社員にくらべて低すぎる賃金を是正するなど、労働条件を改善することが不可欠です。