2003年6月23日(月)「しんぶん赤旗」
二十四日の衆院本会議で審議入りするイラク特措法案は、戦後はじめて、現に戦闘がおこなわれている戦場に自衛隊の陸上部隊=地上軍を派兵することを定めています。「自衛隊の海外派兵の歴史の中でもはじめての、新しい領域に踏み込む」(日本共産党・志位和夫委員長)ものです。
イラク特措法案でとりわけ重大なのは、政府がこれまで海外派兵の際の“歯止め”としてきた原則をことごとく踏みにじるものになっていることです。
この原則は、PKO(国連平和維持活動)法(一九九二年成立)で定められたもので、「PKO参加五原則」と呼ばれています。
具体的には、(1)紛争当事者のあいだで停戦の合意が成立している(2)自衛隊の派兵について紛争当事者が同意している(3)活動は中立の立場でおこなわれる(4)以上の原則のいずれかが満たされないときには部隊を撤収できる(5)武器の使用は隊員の生命・身体を防衛するための必要最小限に限る―というものです。
政府は、この「五原則」について、海外に派兵された自衛隊の活動が「憲法で禁じられた武力の行使にあたることがないように設けた」「五原則のすべてが憲法との関係で必要とされている」と繰り返し説明してきました。
ところが、イラク特措法案は、自衛隊が活動する地域として、そもそも紛争当事者のあいだの停戦合意が成り立つ余地のない「イラク」を明記しています。イラクでは、米英占領軍とフセイン政権残党勢力との武力衝突がつづき、いまだに「全土が戦闘地域」(イラクの米地上軍を指揮するマキャナン司令官)です。
しかも、法案は、イラクへの派兵は「イラクにおいて施政をおこなう機関の同意によることができる」とし、紛争当事者の一方の側にすぎない米英両国の占領機関(CPA)の同意だけで可能としています。
自衛隊がおこなう活動も、燃料や水の補給、武器・弾薬や兵士の輸送など、米英占領軍にたいする軍事支援にほかなりません。武器の使用基準についても、政府は、PKOなどで適用されてきた「部隊行動基準」(ROE=戦規則)の見直しによって緩和する方針です。
このように政府自身が憲法違反にならないようにとして設けた原則をことごとく踏みにじるイラク特措法案を許せば、まさに歯止めなき自衛隊の海外派兵に道を開くことになりかねません。
実際、政府も、PKO法審議のときには、自衛隊の海外派兵が今後、「PKF(国連平和維持軍)にとどまらない、たとえば多国籍軍的なものにまでいってしまうのではないか」との質問にたいし、「五原則が歯止めになる」(一九九一年九月二十六日、衆院PKO特別委員会、海部俊樹首相)と強調していました。
PKO法につづいて自衛隊の海外派兵はテロ特措法(二〇〇一年成立)によって拡大しました。同法は、アフガニスタンで米国がおこなっている対テロ報復戦争を支援する目的で、戦後はじめての戦時派兵を実現するものでした。
しかし、それでも政府は、当時、タリバン政権が崩壊し、だれが紛争当事者か確定できない場合には、「当然、PKO自体もおこなわれていないし、わが国は参加すべきではない」(二〇〇一年十一月六日、衆院安全保障委員会、中谷元防衛庁長官)とし、アフガン国内に自衛隊は派兵できないという立場をとっていました。
政府・与党は、こうした歯止めさえイラク特措法案からとりのぞこうとしているのです。しかも、それを突破口に、自衛隊をいつでもどこでも自由に派兵できる「恒久法」の制定までねらっています。海外派兵の自由化ともいうべき事態に道を開くことになる同法案の成立を許してはなりません。(榎本好孝記者)