2003年6月24日(火)「しんぶん赤旗」
労働者を長時間労働に追いたて、より不安定な身分で働かせる労働基準法改悪案。与党は、今週にも参院厚生労働委員会で採決しようとしています。審議を通じ、労働者の実態を無視した坂口力厚生労働相の無責任な答弁が際立っています。
その一つが、アルバイトより有期雇用の方が安定するかのようにごまかす答弁です。
改悪の柱のひとつは、有期雇用契約の期間上限を、現行一年から三年に延長するというもの。正規職員である常用雇用労働者が有期雇用に置き換えられるとの懸念が相次いでいます。
「不安定な雇用が拡大する。歯止めが必要ではないか」と迫る日本共産党の小池晃議員にたいし坂口厚労相は、「ほっておけば、アルバイト、パートのまま。(有期雇用で)少なくとも三年、五年は、契約であろうと、正規の職員、従業員だというようにしていくことの方が大事だ。常用雇用に向け流れをつくる」などと答弁しました。
期間の上限が延長されても、労働者との契約が必ず三年になるとの保障はなく、アルバイト、パートより安定するかのような答弁はまやかしです。
上限一年の現在は、三〜四回契約更新を繰り返せば常用雇用とみなすというルールが確立しています。
上限が三年になれば三〜四回の更新に十年以上かかり、その先には「契約期間満了」という名の「雇い止め」が待っている事態にもなりかねません。
しかも、契約更新をしてもらおうと思えば、会社に気に入られるように長時間労働もしなければならなくなります。坂口厚労相がいう「常用雇用への道」どころか、不安定な過酷労働の状態が続くだけです。
もう一つは、坂口厚労相が「経済状況の動向に影響される。経済が回復すれば、常用雇用に企業の目は向いていく」と繰り返していることです。
日経連(現日本経団連)は一九九五年に発表した「新時代の『日本的経営』」で、長期雇用は一部に限定し、圧倒的多数の労働者を不安定な雇用形態に置き換えていくことを戦略としています。
小泉内閣の「規制改革推進三カ年計画(再改定)でも、「有期雇用契約の拡大」を明確に打ちだしています。有期雇用の拡大をはかる法整備をすすめながら、「経済が良くなれば常用が増える」とは無責任な話です。
本気で常用雇用を増やすつもりなら、「怒とうのように不安定雇用がすすんでいるときに、その流れに立ちふさがり、歯止めをかけることこそ厚労省の仕事だ」(日本共産党の小池晃議員)との指摘に、真摯(しんし)に耳を傾けるべきです。
三つ目は、長時間労働による過労死を徹夜マージャンと比べるなど、論点をすり替えていることです。
改悪案は、裁量労働制を拡大します。裁量労働制は、実際に働いた時間に関係なく、あらかじめ労使で決めた時間だけを「働いたとみなす」制度です。「八時間労働」の原則を崩し、際限のない長時間労働になりかねないため、無原則に導入しないよう歯止めがかけられています。この「歯止め」である導入要件を大幅に緩和しようというのです。
昨年度一年間で過労死と認定された人は百六十人に達し、過去最多となりました(厚労省調べ)。東京都内では、未払いサービス残業代が、昨年度下半期だけで二十二億七千万円支払われました。その前の一年半で支払われた十五億円をわずか半年で上回りました。
こうした事態を受け厚労省は、昨年の「過重労働防止通達」につづき、五月二十三日には「サービス残業解消対策指針」を発表しました。違法なサービス残業の合法化につながる改悪案は、こうした流れと逆行するものです。
小池議員は、過労死を防ぐための最低限のルールとして、「裁量労働制で働く労働者についても、健康管理に必要な労働時間の把握を使用者に義務づけるべきだ」と要求。坂口厚労相は、「裁量労働制の時間管理は難しい。仕事量がどうであったかということが過労死かどうかの判断になる。マージャンして徹夜して死んだ人はいない」などと論点をすり替え、労働時間の把握すら使用者に求めない態度を明らかにしています。
こうした無責任な答弁で、労働者を長時間で不安定な労働に追い込むことは許されません。