2003年7月5日(土)「しんぶん赤旗」
四日、衆院を通過したイラク特措法案は、自衛隊の陸上部隊を戦後初めて、現に戦闘がおこなわれている戦場に派兵するというものです。その危険な本質は、衆院でのわずか一週間の審議でも明らかになりました。審議は参院に移りますが、法案の重大問題をみると──。
第一に、法案は、「人道復興支援」とは名ばかりで、米英両国による無法なイラク戦争にもとづく軍事占領への支援を目的にしています。
法案は、イラクへの自衛隊派兵について、五月二十二日に国連安全保障理事会が全会一致で採択した決議一四八三を根拠にしています。
ところが、日本共産党の木島日出夫議員が「安保理決議一四八三は、米英両軍によるイラクに対する武力行使を、国際法上、正当化・合法化するものか」と追及したのに対し、小泉純一郎首相は「一四八三は触れていない」と答弁。同決議がイラク戦争を正当化・合法化したものではないことを認めました。(三日、衆院イラク特別委員会)
しかも、決議一四八三の中に「各国政府に対して、軍隊をイラクに派遣し、占領している米英両軍を後方支援してほしいという要請はあるか」と木島氏が追及したのに対し、首相は「軍隊をもって支援しろと、そこまで言っていない」と述べました。(同)
決議一四八三は、イラク戦争に正当性・合法性を与えていないし、軍隊の派遣も要請していないことを認めたのです。
国際法上、合法化・正当化されていない戦争にもとづく軍事占領に対し、国連の要請もないのに、自衛隊を派兵して支援するということになり、そのこと自体が違法・不当なものです。
支援の内容も重大です。
法案は、米英両軍による「イラクの国内における安全及び安定を回復する」活動に対し、自衛隊が「安全確保支援活動」を実施するとしています。その内容は、医療、輸送、保管(備蓄を含む)、通信、建設、修理・整備、補給、消毒などで、米英両軍へのあらゆる兵たん支援が可能です。
政府は、「イラクの国内における安全及び安定を回復する」活動とは「犯罪の防止、社会秩序の回復」だと答弁。その趣旨にかなえば、米軍がイラク各地で展開している旧フセイン政権残存勢力の掃討作戦も含まれるとの見解を示しました。
自衛隊は、こうした米軍の軍事作戦への支援も行うことになるのです。
第二に、法案が建前としている「非戦闘地域」での活動は、不可能だということです。
法案は、自衛隊の活動について「現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域」(非戦闘地域)で実施するとしています。
政府は「わが国が(憲法九条が禁じる)武力行使を行ったと評価されないための制度的な担保として『非戦闘地域』で行うという概念を設定している」と説明しています。
しかし、国際法上も、イラクの実情からも、「非戦闘地域」の設定はフィクション(虚構)にすぎません。
国際法からみれば、どうか。
国連安保理決議一四八三は、米英両国に対し、占領地の治安の維持、住民の生活と福祉の尊重、保護という国際人道法上の義務、責任を果たすよう求めたもので、軍事占領そのものを合法化したものではありません。
そのため、イラク国民には、米英両国による占領を違法、不当な軍事占領だとして、レジスタンス(抵抗)闘争を行う国際法上の権利があるということになります。
法案にもとづいて自衛隊がその米英占領軍の活動の一翼を担えば、違法、不当な占領に抵抗しようとするイラク国民と敵対することになり、法的には「自衛隊の行動するところ、どこでも攻撃される可能性をもつ」(木島氏、二日の衆院イラク特別委)ことになります。「非戦闘地域だと思ったところが、いつでも戦闘地域に変わりうる」(同)のです。
イラクの実情も、繰り返されている武力衝突が、単に旧フセイン政権残存勢力との衝突というだけでなく、一般市民との衝突が拡大しているというのが特徴です。
政府は、法案でいう「戦闘行為」とは「国または国に準ずる者による組織的・計画的な国際紛争」であって、「国内治安問題にとどまるテロ行為、散発的な発砲、小規模な襲撃」などは「戦闘行為」に該当しないと説明。こうしたことが起こる地域も「非戦闘地域」であって、自衛隊の活動は可能だとしています。実際に攻撃を受ければ、武器の使用もできます。
軍事占領に抵抗するイラク国民にたいして自衛隊が銃口を向けることも可能だというのです。それが、武力の行使、交戦権を禁止した憲法に反することは明りょうです。
国連安保理決議1483を踏まえ、イラクの人道復興、安全確保支援活動を行う。
【自衛隊の活動】
安全確保支援活動として、米英の占領軍に対し、医療、輸送、保管(備蓄を含む)、通信、建設、修理・整備、補給、消毒の活動を行う。武器・弾薬の陸上輸送も含む。
【相手国の同意】
外国での活動は相手国の同意が必要。ただし、イラクについては「イラクにおいて施政を行う機関」=占領機関の同意だけで可能。
【活動地域】
現に戦闘行為が行われておらず、活動の期間を通じ戦闘行為が行われることがないと認められる地域。
【武器使用】
自衛官は、自己と自己とともにいる自衛隊員、自己の管理下にある者の生命・身体を防衛するために武器使用できる。
【国会承認】
政府は、対応措置開始から20日以内に国会へ承認を求める(事後承認)。
【効力】
4年間の時限立法。しかし、4年を上限に効力延長を重ねることができる。