2003年7月8日(火)「しんぶん赤旗」
米政府は、戦犯や人道犯罪を裁く国際刑事裁判所(ICC)に米国民だけは訴追させない二国間協定を結ぶよう各国に要求。これに応じない国に、軍事援助を停止する措置を取りました。これに対し対象となった各国政府が反発。特にイラク戦争で米国を支持した東欧諸国では、対米追随外交が結局裏切られる形となったことで、政府の政策を批判する声が高まっています。(ウィーンで岡崎衆史)
欧州連合(EU)のパッテン委員(対外関係担当)のスポークスマンによると、同裁判所をめぐる米国の「圧力」に抵抗した諸国は少なくとも九十カ国にのぼっています。米国務省のバウチャー報道官が、三十五カ国に対して四千七百万ドル相当の軍事援助停止の措置を取ったと発表したのは今月一日。次期会計年度が始まる十月までに、二国間協定締結の圧力をさらにかけるのが狙いでした。
援助停止対象国には、来年に北大西洋条約機構(NATO)へ加盟する、バルト三国とスロバキア、スロベニア、ブルガリアが含まれていました。六カ国は、米国によるイラク攻撃を支持した国々です。これらの政府は米国支援による国際社会での地位向上や経済的な利益を強調し、国内の反戦世論を押し切ってきました。それだけに援助停止措置はまさに“裏切り”。
援助停止措置を受け、スロバキアのクカン外相は二日、記者会見で、米政府の対応に「遺憾」を表明。その上で、「ICCについての立場は維持する」と述べ、脅しをはねのけ、二国間協定の締結を拒否する姿勢を明らかにしました。
ブルガリア外務省も同日声明を発表し、「EU加盟候補国として、米兵の戦犯訴追除外のための二国間協定に反対するEUの共通の立場を維持する」と述べました。スロベニアやバルト三国も、七日現在、米国に妥協する動きは見せてはいません。
ICC支持を打ち出し、加盟候補国に二国間協定拒否を働きかけてきたEUも、議長国イタリアのフラティニ外相が二日、欧州議会で、米国に対して「遺憾」を表明しました。
一方、各国マスコミからは、政府の対米追随外交を批判し、これを改めるよう求める声がでています。
スロバキアの有力紙プラウダ三日付は、「(ブッシュ大統領は)最近、米国はイラク戦争でのスロバキアの支援を忘れないとのメッセージを送ったばかりだ。それなのに、感謝はたった一度のスロバキアの“ちゅうちょ”で消えうせた」と指摘。「ズリンダ首相がわが国を米国の戦略的同盟国と呼んだのは間違いだった」と述べ、結局は裏切られるだけに終わった同政権の対米追従外交を批判しました。
リトアニアのリエトゥボス・リタス紙三日付社説は、米国の軍事援助停止をイラク戦争などで米国を支持してきたリトアニアを含む東欧六カ国の「顔面への平手打ちだ」と批判。今回の出来事は、リトアニアの指導者にとって「いい教訓となる」と述べ、対米追随を改めるよう促しています。
国際刑事裁判所(ICC) ICCは、大量虐殺や人道に対する罪、戦争犯罪を犯した個人を裁く国際法廷で昨年七月に設立されました。米国は、国外に展開する兵士が起訴されるとの懸念から、設立に反対。設立後も、国連安保理に働きかけ、国連平和維持活動(PKO)などに参加する米国人への訴追を猶予する決議を採択させています。米国は、一方で、米兵のICC訴追除外を求めて二国間協定の締結を進め、締結国は公式非公式合わせて、五十カ国を超えています。