日本共産党

2003年7月8日(火)「しんぶん赤旗」

イラク戦争と世界

第3部 中東・周辺国から (7)

高まる米国支配への懸念

連載インデックス


米国主導のきっかけ

 六月下旬にヨルダンで開催された世界経済フォーラムの臨時年次総会。世界各国から集まった政府、ビジネス・リーダーがイラク「戦後」の中東地域の経済の展望について語りあいました。

 米国からは、パウエル国務長官、ゼーリック通商代表部代表ら大物が参加。また、イラクの「戦後」復興責任者、米軍占領統治機関である暫定行政当局(CPA)代表のブレマー文民行政官も出席しました。

 米国の狙いは、イラクでの「勝利」をテコに、米国主導の政治・経済中東未来像を編み出すきっかけにすることにありました。たしかに一部のアラブの国からは、米国への期待の表明もあったものの、全体としては、むしろ米国にたいする批判と不安、懸念の声が相次ぎました。

 パウエル長官は、「イラク国民は自由を手に入れた」と強調。ブレマー行政官は、イラク人代表による政治評議会の設立予定にふれながら「自由市場の確立、競争の原理の導入や民間企業の育成」などを主張しました。

 また、ゼーリック米通商代表部代表は、ブッシュ大統領が五月九日の演説で示した米・中東「自由貿易圏」を二〇一三年までにつくる構想のより具体化した内容を、中東内外の企業家や政治家に直接示しました。

 中東湾岸諸国は石油産業貿易依存だけでは立ち行かなくなってきた現状から多角的な経済への改革に挑んでいます。この状況をにらんでの米国の企業の進出の条件づくりを進める狙いです。

 その背後には米国主導の中東「民主化」構想が横たわっています。中東の政治的安定、安定した親米国家群をつくる必要があります。

アラブ側の共通の声

 これにたいして、アラブ側から共通してあがったのは、「イラクでは治安の回復すらおぼつかない、その上、米軍が安泰ではなくなっているのが実情。経済を語るどころではないではないか」という声。

 そして「民主化」構想にも批判の声があがりました。アラブ諸国二十一カ国とパレスチナ自治政府が加盟するアラブ連盟のムーサ事務局長(元エジプト外相)はこう指摘しました。「民主主義は米国や欧州からアラブへの贈り物ではない、国民から生ずるものだ」「われわれは変わらなければならないが、変化は他国から押し付けられるべきではない」。それは、米国主導の「自由貿易圏構想」への警戒にもつながるものです。

 パレスチナ問題の解決は、米国にとっても米国主導の中東を狙う上での重要課題です。しかし、ロードマップ(行程表)は具体化が始まっているものの、先行きはまだ不明。この問題でのアラブ諸国の米国への警戒と疑念は消えていません。

 エジプトの中東専門家のモクタダル・ハーン氏は、アルアハラム紙週刊版六月第一週号で、世界二十カ国の世論調査を行ったピューリサーチセンターの分析「反米が世界文化になりつつある」を引用しこう分析しています。「米国の外交は、米国の安全を確保するよりも、米国とその利益を大きな危険に陥れる条件をつくり出している。とくにイラクへの侵略と占領によってだ」。

 ハーン氏は、イラクへの占領、大量破壊兵器が見つからないこと、アフガニスタンの混迷、シリア、イランへの脅しなどが、人々の不安と怒りを高めていると指摘しています。(カイロで小玉純一)(第3部おわり)

連載インデックス


もどる
「戻る」ボタンが機能しない場合は、ブラウザの機能をご使用ください。

日本共産党ホームへ「しんぶん赤旗」へ


著作権 : 日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp