2003年7月17日(木)「しんぶん赤旗」
【ロンドン15日西尾正哉】旧ユーゴスラビアのコソボ自治州、アフガニスタン、そしてイラクと米軍との軍事行動を進めてきた英労働党政権が、米国との軍事的一体化をさらに進めようとしています。
「英国は将来、米国なしに大規模な戦争をすることは極めてまれになるだろう」−フーン国防相は六月末、民間研究所の講演でこう言明しました。同氏は英軍を将来、小規模な部隊が柔軟かつ迅速に世界のどこにでも展開できるような軍備に刷新する必要性を強調しました。米軍の戦略の一翼を担っての「改革」です。
フーン氏はこの講演で「米国はずば抜けた政治的経済的、そして軍事的な大国として存続するであろう。問題は、米国が一極主義か多極主義かを選択することではない。これらの立場を取るか取らないかは、同盟国の役割、説得、そして究極的には軍事能力にかかっていることだ」とのべ、同盟国が米国の軍事外交政策に積極的に付き従っていく必要を強調しました。
今週、訪米するブレア首相は、新たな軍用機のソフトウエアのソースコードを米ロッキードマーチン社と合併した英BAE社と共有することなど、英軍事産業に先端の軍事技術を移転するようにブッシュ大統領に訴えるとみられています。
イラク戦争での英国の突出した米国への支持は欧州に深刻な亀裂を引き起こしました。六月のエビアン・サミットでフランス、ドイツなどは米国の単独主義をけん制、「多極世界論」を強調しました。しかし、欧州内で主導的な立場を目指す英国の政権筋からは「多極世界論」の声は聞こえてきません。むしろ同盟国が米国の一極パワーを盛り立てる役割を引き受けるべきだと強調しています。
米軍と英軍は第二次世界大戦後、特別の同盟関係を発展させてきましたが、フーン氏の言明はメディア・識者の驚きを呼び起こしています。
ガーディアン紙のコラムニスト、マーチン・ケトル氏は「フーン国防相が示していることは重要だ。彼が言っているのは、政府は英国を、予見できるあらゆる状況下において米国のなくてはならない従属国としてみているということだ。米国がその役割をわれわれに望もうが関係ない。…英国の国益は、米国の永遠のボランティアになることにあり、米国の側に立って意味のある軍事の役割を果たす能力をもつことにあると見ている」と指摘、英国の従属ぶりに警鐘をならしました。
米国との軍事的な一体化を進める英国ですが、その関係はもちろん対等平等のものではありません。
ジャーナリストのジョージ・モンビオト氏は、ガーディアン紙に「わが国は兵士を死ぬ覚悟でイラクに送り、政治家はうそをついた。しかし英国政府はさらに先に進もうとしている。国家の主権に関する二つの主要な道具を米国の管理に委ねようとしていることだ。それは司法の権限と軍事政策だ」と指摘しています。