2003年7月20日(日)「しんぶん赤旗」
イラク特措法案を審議する参院外交防衛委員会の公聴会で十八日、千葉大学文学部の栗田禎子助教授がおこなった意見陳述(要旨)は、次の通りです。
自衛隊をイラクに派遣することが、イラクの状況を考えたとき、どのような意味を持つのか、イラクのみならず、日本・中東関係全般にどういう影響を与えるのかという問題について、主に話をしたいと思います。
一番目は、イラク戦争の正当性をめぐる問題です。法案の第一条では、イラクへの武力行使は、国連決議にもとづくものだったと明記されています。ところが、国連決議にもとづく戦争という理解は、実は必ずしも国際社会の一致を見ていないという現実があります。戦争前、多くの国が国連中心で平和的に解決することを求め、戦争に反対してきました。(これらの国々は)戦争後も、国連決議にもとづくものではなかったという立場をとっています。
実はこのなかに、中東諸国の大半が含まれています。戦争が国際的に正当だったことについて国際社会の一致がみられていない。その状況で、戦争は正当だったという前提に立つ法案を通すことの問題性をよく考えていただきたい。
第二点目は、戦争の結果成立した現在のイラクの米英占領体制の正当性をめぐる問題です。法案は、国連決議一四八三は、占領体制を正当化しているという理解にもとづいてつくられています。ところが実は、一四八三が占領体制を正当化しているか否かについても、実は多くの疑義が出されています。たとえば、一四八三は、占領を正当化するものではない、占領が存在するという事実を確認し、米英は占領軍としての義務を果たすよう求めたものにすぎないという理解があります。
さらに一四八三の適切性自体についても、実は完全に適切、公正なものではないので、ある段階にいたったら、国連やイラク国民が中心的役割を果たす体制につくり直していくべきだという議論があります。
実は、中東諸国の多くも同じ理解をとっているということが重要です。
一四八三は占領体制を正当化しているという理解にもとづき、米英占領体制への協力を中心にすえた法案を成立させることの重要な問題点が明らかになると思います。
三番目に、法案の主眼は、米英占領軍がおこなうイラク国内の安全・安定確保活動を支援することです。ところが、米英占領軍がイラクでおこなう安全・安定確保活動は、結局は占領体制に対するイラク国民の抵抗を弾圧する、抵抗を排除するための軍事行動です。
イラク国民の抵抗の態様はさまざまでありえます。なかには旧サダム・フセイン政権支持者によるものもあると思いますが、一方には、一般の市民が、占領体制下で生活状況がいっこうに改善されない、むしろ悪化していく、あるいは米英占領軍が外国占領軍であることをまるだしにする非常に横暴な行動をとるといったことに抗議し、その結果、衝突がおきる、場合によっては、非暴力の抵抗だったものに米英軍が武力で対処し、流血の事態にいたってしまうこともあります。
イラク国民の抵抗は、基本は米英占領軍がいることによって起きる問題です。米英占領軍とイラク国民の激しい矛盾が存在するイラクに、占領軍の側に完全に立つことを明らかにした形で自衛隊が出ていくことの問題点が考えられます。
中東の多くの国々、国民によってイラク戦争が、国際法上の根拠を欠いたものと考えられ、かつその後の占領体制の正当性も疑われている状況で、占領軍への協力を中心にすえた法案を成立させることには、大きな問題があると考えられます。
日本は幸いにこれまで中東に直接的に軍隊を送ったことも占領したこともない幸運に恵まれています。そのため、日本は中東では非常によいイメージを享受してきました。
イラク支援のあり方を決定するにあたり、ぜひとも中東諸国、中東の人々の意見を踏まえる形で、中東の人々の感情を踏みにじるようなことがない形で決定を下されることを切に希望します。