2003年7月20日(日)「しんぶん赤旗」
【ロンドン19日西尾正哉】英国防省顧問の生物学者で国連の元査察官だったデービッド・ケリー氏が十八日、遺体で発見されました。ケリー氏は、イラクの大量破壊兵器に関し英政府が情報操作したとされる情報を英BBC放送に漏らしたと英政府に名指しされていた人物です。
ブレア政権への批判が高まることは必至で、情報操作疑惑解明の圧力がさらに強まりそうです。
ケリー氏は十七日午後、イングランド中部のオックスフォードシャーの自宅を出ましたが、夜になっても帰宅しないため、家族が警察に捜索を願い出ました。十八日午前、自宅から二キロ離れた場所で遺体が発見されました。
日本を訪問中のブレア首相は、米国ワシントンから移動の飛行機中でこのニュースを知り、独立した司法調査を約束しました。野党のダンカンスミス保守党党首は、調査のためアジア歴訪中の首相に予定を切り上げ帰国すべきだと要求しています。
ケリー氏の遺体発見のニュースは英社会にショックを与え、経済界にも波及。英通貨ポンドのレートが一時0・5%ほど下がりました。
ブレア政権は、イラクの脅威を誇張し、国民・議会を欺いて戦争を強行したとされる情報操作疑惑で窮地に立たされています。この疑惑を全面否定する一方で、攻撃の矛先を疑惑報道に先べんをつけたBBC放送に向け、“報道は誤りだ。BBCは謝罪せよ”と迫ってきました。
BBC放送は全面的に反論し、BBC放送の局長など幹部もこの問題を報じたギリガン記者を全面的にバックアップすることを表明するなど、全面的な論争に発展していました。
政府はその後、ギリガン報道の情報源をケリー氏だと名指しで特定。BBC放送にそれを認めるように迫りましたが、BBCは情報源秘匿の原則を理由に拒否しました。
この経過から、ケリー氏は政府のスケープゴート(いけにえ)とされ、対BBC攻撃の道具にされたとの批判もでています。
ケリー氏は十五日、下院外交委員会に証人として呼ばれ、国会議員から鋭い質問を浴びせられました。テレビに映った同氏の表情は苦しいものがありました。同氏は、BBC放送のギリガン記者に会ったことは認めましたが、情報操作については話していないと否定していました。