2003年7月21日(月)「しんぶん赤旗」
五月の総選挙で勝利したベルギーの与党四党は十二日に新内閣を発足させました。続投するフェルホフスタット首相は同日の記者会見で、国際的に成り行きが注目されていた「ベルギー人道法違反処罰法」を廃止し、これに代わる新法制定を新内閣の方針として明らかにしました。
「人道法違反処罰法」は、戦争犯罪、ジェノサイド(大量虐殺)など人道上の重大な犯罪を、犯行場所や犯罪者・被害者の国籍を問わずベルギーの裁判所に持ち込めるようにした法律で、国際人道犯罪に対して一国の司法が「普遍的管轄権」を行使しようとしたものでした。
ロイター電などによると、政府は新法で▽告訴できる人をベルギー人かベルギー在住者に限り、ベルギー人が関係する事件に限定する▽国際的な免責基準を尊重する▽すべての事案で他の北大西洋条約機構(NATO)加盟国、欧州連合(EU)加盟国との取り決めを考慮する―といいます。
ベルギー政府は米英が企てたイラク戦争に反対の姿勢を貫きました。その上、五月から六月にかけては、「人道法違反処罰法」に基いて、フランクス前米中央軍司令官やブッシュ米大統領、ブレア英首相の「戦争犯罪」を告訴する動きが相次ぎました。
これにたいし米政権は強いいら立ちを示し、「人道法違反処罰法」を廃止せよと公然とかみついていました。米政府は、廃止されなければ▽米高官は逮捕の事態も考えてNATO本部(ブリュッセル)の会合に出席できなくなる▽NATO新本部建設の分担金拠出を凍結する―と警告、NATO本部の他国移転も示唆した圧力発言が国務、国防両省幹部から続出していました。
その下でブッシュ、ブレア、フランクス訴訟は被告の本国に回付する措置がとられました。今年四月の法改定で▽告訴できるのはベルギー人か同国在住三年以上の人に限る▽被告の本国に当該事案を適切に扱える法制度があれば訴訟をその国に回付できる―とされていたからです。
それでもなお、米政府は「同法は良くない。廃止すべきだというのがわれわれの考えだ。従来からこの見地であり、今後も変わらない」(六月二十日、リーカー国務省副報道官)と、あくまで廃棄を要求しました。
フェルホフスタット首相は十二日、現行法廃止と新法制定は「乱用回避」が目的で、これにより「問題は最終的に解決される」と語りました。しかし、「人道法違反処罰法」はもともと、ジュネーブ諸条約・選択議定書やジェノサイド条約の批准国として国内法でその履行を裏づけしようとしたもの。同時にベルギーが積極的に推進してきた国際刑事裁判所(ICC)が発足し有効に機能するまで、戦争犯罪などに対しその空白を埋めようとする狙いから、世論に後押しされて制定されたものです。
運用範囲を大幅に狭めた新法構想はこうした経緯に照らしてどうなのか、圧力への屈服ではないのか、「乱用されやすい」との批判にこたえるにはどうすべきか―など新内閣の方針にたいして議会内外で改めて議論が高まりそうです。
(居波保夫記者)