2003年8月29日(金)「しんぶん赤旗」
【ロンドン28日西尾正哉】英国ではイラク戦争での戦闘終結後にイラクの脅威を誇張して国民にウソをついたとする疑惑が大きな問題となってきました。ブレア英首相が独立司法調査委員会の証言に立ったのは国民の反対を無視してイラク戦争を強行したことに対する同首相への国民の怒り、不信がきわめて強いことを背景にしています。
ブレア首相の信頼度は歴代首相の過去最低レベルまで低下。最近の調査(サンデー・テレグラフ紙)では、ケリー氏の自殺で政府に責任があるとした人は過半数の56%で、イラクの大量破壊兵器の脅威をめぐり、英政府にだまされたとみる人は67%までのぼりました。
独立司法委員会の目的は「ケリー氏の死亡の状況を公正で迅速に究明すること」(ハットン委員長)ですが、究明の範囲は首相、国防相、首相側近までも証人として呼ぶなど“ブレア政権がどのようにイラク戦争を強行したか”まで広がっています。
ブレア首相は証言の中で“BBC報道が真実なら辞任する”とのべました。これは、大量破壊兵器の情報操作疑惑に光が当てられ、メディアがさまざまな報道をするなかで追い詰められてきた結果、ブレア首相が自身の正当性を主張するためパフォーマンスせざるを得なかったものです。
また、BBC報道の信憑(しんぴょう)性に攻撃の矛先をむけることで世論の注意をそらそうという狙いも、この“辞任発言”には含まれています。
六月、大量破壊兵器に関する情報操作疑惑を調査した下院外交特別委員会に出席した首相側近のキャンベル氏は、“四十五分の主張”を盛り込み「脅威」を誇張したとするBBC放送を強く攻撃し、謝罪を求めました。その直後には、別のテレビ局のニュース番組に異例の出演をしBBC放送を攻撃しました。
この攻撃の後、多数のメディアの注目はBBCにも向けられ「BBC対政権」の構図がつくられ、ブレア政権がウソをついて戦争を強行したとの疑惑への追及をかわすのに一定の成功を収めました。クレア・ショート前国際開発相は、「BBCと対決するとのキャンベル氏の決定は、国民が戦争への過程でだまされたのか、ウソの責任はどこにあるのかという最も重要な問題から注意をそらした」(ガーディアン紙二十二日付)と指摘しました。